数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 地球科学における極端現象と疎構造
採択番号 2014S05
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明
キーワード 地球科学 、気象学 、極端現象 、流体力学
主催機関
  • 京都大学数理解析研究所
運営責任者
  • 森 重文
  • 山田 道夫
開催日時 2014/11/13 13:30 ~ 2014/11/14 16:15
開催場所 京都大学数理解析研究所110号室
最終プログラム

11月13日(木)

 13:30-14:45

西嶋一欽 京都大学防災研究所

設計用想定台風と極値統計

 昨今の設計用風速の評価には、確率台風シミューレーションと極値統計解析が併用されている。一方、風による建材や制振装置などの疲労評価には、風速だけでなく、強風あるいは日常風も含めた継続時間の評価も必要である。本発表では、台風時の強風に着目し、統計的台風移動モデルと半理論的風速場モデルを用いることで、台風時の風速時刻歴を陽にモデル化し、それに基づいて行なった、最大風速と強風継続時間の2変量極値統計解析について報告する。

 15:15-16:30

竹広真一,山田道夫 京都大学数理解析研究所

流体方程式の解における極値分布

 古典的な極値分布理論は独立同分布の確率変数に基づいている.一方,大気などの地球流体は一群の支配方程式に基づいて時間発展することから,古典理論の適用可能性について検討が必要となる.ここでは単純な力学系や流体系において,速度などの物理量の極値の性質について古典極値理論の結果と比較しながら議論する.

  11月14日(金)

 9:30-10:45

神田順 日本大学理工学部

風速および地震動強さの年最大値分布の性状について

 建築物の構造設計においては、風速や地震動強さの設計値の設定にあたり、年超過確率を指標とする。年最大値分布の裾野の性質がどのようになるかについては、データ数が十分でない場合も極値分布モデルによって評価することが可能である。上限値の存在を仮定することが適合性を改善する場合や、母分布や、月別、風向別を議論することで、最大値としての特徴が認められる例なども指摘できる。

 10:50-12:05

余田成男 京都大学理学研究科

成層圏-対流圏結合系における極端気象変動の現象論

 冬季周極渦が数日内に大きく変形し崩壊に至る成層圏突然昇温現象は、2年に1度程度の稀な現象であり、典型的な成層圏-対流圏結合系の極端気象である。基本的に半球規模の自然内部変動であるが、強非線型な力学現象であり、その出現予測は大変に難しい問題である。そもそも観測期間が過去50年程度に限られており、統計的な特徴もよくわかっていない。完全大気モデル仮定のもとに長年の時間積分データを解析し得られた極端気象の現象論を紹介し、気候変化の影響の検出可能性を議論する。

 13:30-14:45

松井正宏 東京工芸大学工学部

建築物等の耐風設計で用いられる設計風速

 建築物等の強風に対する安全性を確保するために,日本建築学会では,再現期間100年の風速を基本として,耐風設計することとしている。この設計風速は,気象観測記録の極値統計解析や台風を対象としたモンテカルロシミュレーションに基づき決定されている。さらにこの設計風速には,風向係数や季節係数を考慮することができるが,その導入経緯や理論的な背景を説明する。また,設計風速に関連する最近の話題として,竜巻等の影響の検討事例,長期間に亘る累積的荷重効果の検討事例を紹介する。

 15:00-16:15

北野利一 名古屋工業大学工学部

不規則な波浪の統計特性とその極値統計

〜高波の極値統計に相応しい物理量はなにか? 

高波の来襲頻度を知るために,極値統計解析が行われる.極値解析に用いる確率分布の確変変数に,波高 H を選ぶのが一般的である.果たして,それで良いのであろうか?高波の特性は,波高そのもののみならず,単位長あたりの波のエネルギー(H2)を対象にした方が良いという考えもあるだろう.また,周期 T も副次的に関与していると考えれば,1波あたりの波のエネルギー(H2 T2)なども対象とすべきかもしれない.そこで,高波の極値統計に相応しい物理量はなにか?ということを主題に,また,極値統計解析で得られるものは何か?(100年に平均的に1回来襲する高波の規模を「推定」することで満足していてよいのか?)ということも話題にしたいと考えている.

参加者数 数学・数理科学:6、 諸科学:7、 産業界:0、 その他:0
当日の論点

集会では,主として風速・波浪などにおける物理量の最大値予測の現状と台風などの最大風速予測に関する問題点について講演および討論が行われた.

1.建築物における最大風速予測では,建築材料の疲労評価に使える設計用台風が議論された.進行する同心円状台風を仮定し,台風と進行経路に関するパラメータをモンテカルロ法でシミュレーションすることによる各地点の強風継続時間と最大風速の予測が議論された.

2.2次元 Navier-Stokes 方程式に従う乱流において,空間を小領域に分割し各領域での流速の絶対値の最大値の分布が議論された.流速分布はガウス分布に近いが,流速絶対値の極値分布はガウス分布のそれとは異なること,さらに収束性は流れの種類に大きく依存することが議論された.

3.建築物の安全性を評価する方法と上下限値を有する極値分布形(Kanda model)の適用,月別風向別風速最大値の表現および予測法が議論された.

4.気象学の立場から成層圏・対流圏の結合を考えた極端気象について議論が行われ,成層圏突然昇温に伴う気温変動の特徴や対流圏の温度偏差との相関が指摘された.

5.建築物の耐風設計に用いるための再現期間100年の設計風速を得るための方法について,気象観測データの問題,台風モデル化とモンテカルロシミュレーションの方法,建築材料への累積効果,竜巻の扱いなどが議論された.

6.不規則波浪の極値統計の方法について,観測データからの極値分布パラメータ決定方法が議論され,物理量による極値分布の収束速度の違いと良い収束性をもつ物理量が議論された.

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

日本の風速における最大値予測では台風の扱いが重要である.台風による最大風速分布と非台風による風速最大分布は異なる性格を持ち,大きな再現期間を持つ最大風速分布は前者に近いため,建築設計などでは,台風を念頭におくモンテカルロシミュレーションが用いられることが多い.最大風速に関する極値分布は,理論的基礎として議論されるが,サンプル数の問題のため分布のパラメータのゆらぎが大きく,建築基準設定の現場では主としてモンテカルロ法の結果が利用される.波浪の極値統計では分布パラメータの決定に際して,収束性の良い物理量を選ぶことが提案されている.流体方程式の解における極値統計では,一様等方性乱流における最大風速の極値分布への収束は,非一様非一様乱流における収束よりも速い.基本的問題の一つとして,具体的で典型的ないくつかの乱流について,サンプル点数やサンプル間隔が最大値分布に与える影響を調べることが課題である.

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

極値統計については,分布パラメータの決定に際し,サンプル点数やサンプル間隔など統計方法と結果の信頼性の関係が問題とある.理論的な立場からは収束速度の問題として,典型的ないくつかの流体乱流において,物理量の最大値分布への収束速度が,サンプル点数やサンプル間隔,あるいは物理量の選択にどのように影響されるのか,という課題が重要と思われる.

今後の展開・フォローアップ

今回,風速・波浪の最大値について,建築・土木・気象・応用数学の専門家の活発な討論が行われ,さまざまな課題が浮き彫りにされた.この成果を基礎にして,今後も密な討論が可能な少人数の研究会を,いろいろな形で実施してゆきたいと考えている.