数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 航空機開発における不確実性への統計数理科学の応用
採択番号 2014S03
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明 、疎構造データからの大域構造の推論 、計測・予測・可視化の数理 、最適化と制御の数理
キーワード データ同化 、不確定性評価 、非線形モデリング
主催機関
  • 宇宙航空研究開発機構 航空本部
運営責任者
  • 加藤 博司
開催日時 2014/10/14 00:00 ~ 2014/11/27 00:00
開催場所 統計数理研究所
最終プログラム

○概要

(前半)
平成26年10月14日(火) 10:00-12:00:JAXA側から課題提示(35分×3課題+簡単な質疑応答)【公開】
平成26年10月14日(火) 13:00-17:00:各課題に分かれての議論              【非公開】
平成26年10月15日(水) 10:00-12:00:チュートリアル「疎表現に基づく情報処理」     【公開】
平成26年10月15日(水) 13:00-17:00:各課題に分かれての議論              【非公開】

(後半)
平成26年11月26日(水) 終日:各課題に分かれての議論      【非公開】
平成26年11月27日(木) 10:00-15:00:各課題に分かれての議論 【非公開】
平成26年11月27日(木) 15:00-17:00:進捗報告会       【公開】 

【前半~後半の間に、前半で得られた方向性で課題解決を目指す】


○公開部分スケジュール

1.平成26年10月14日(火) 場所:セミナー室2(D304)
10:00-10:05 挨拶
10:05-10:40 課題1:データ同化結果に基づく乱流モデルの高度化
課題提供者: 加藤 博司 (宇宙航空研究開発機構)
モデレータ: 長尾 大道 (東京大学)
10:40-11:15 課題2:数値シミュレーション技術の不確定性評価技術の妥当性評価法の構築
課題提供者: 張 科寅 (宇宙航空研究開発機構)
モデレータ: 土谷 隆 (政策研究大学院大学)
11:15-11:50 課題3:風洞試験模型変形効果データベースに基づく非線形モデリング手法の構築
課題提供者: 保江 かな子 (宇宙航空研究開発機構)
モデレータ: 野間 久史 (統計数理研究所)


http://www.ism.ac.jp/events/2014/meeting1014.html


2.平成26年10月15日(水) 場所:セミナー室2(D304)
10:00-12:00 チュートリアル「疎表現に基づく情報処理」
講師:池田 思朗(統計数理研究所)
共催:文部科学省科研費新学術領域研究「スパースモデリングの深化と高次元データ駆動科学の創成」


http://www.ism.ac.jp/events/2014/meeting1015.html


3.平成26年11月27日(木) 場所:セミナー室2(D304)
『進捗報告会』(各課題毎 発表30分+質疑応答10分)
15:00-15:40 課題3:風洞試験模型変形効果データベースに基づく非線形モデリング手法の構築
課題提供者: 保江 かな子 (宇宙航空研究開発機構)
モデレータ: 野間 久史 (統計数理研究所)
15:40-16:20 課題2:数値シミュレーション技術の不確定性評価技術の妥当性評価法の構築
課題提供者: 張 科寅 (宇宙航空研究開発機構)
モデレータ: 土谷 隆 (政策研究大学院大学)
16:20-17:00 課題1:データ同化結果に基づく乱流モデルの高度化
課題提供者: 加藤 博司 (宇宙航空研究開発機構)
モデレータ: 長尾 大道 (東京大学)

参加者数 数学・数理科学:59、 諸科学:1、 産業界:11、 その他:0
当日の論点

課題1:
実験・観測データと計算データを統合し、より尤もらしいデータを表現するデータ同化技術は、近年、様々な分野で利用され、それは、流体工学分野でも新しい研究シードとして期待されている。しかし、工学分野では、新しい技術は、いかに設計に役にたつのかを示すことが重要である。データ同化技術を工学分野で普及させるための課題の1つとして、データ同化結果に基づくモデルの高度化がある。本提案課題の中では、データ同化結果に基づくモデル高度化の方法論構築を目指し、スパース推定手法に注目し議論を進めた。

課題2:
実験計画、感度解析、設計最適化といったCAE(Computer Aided Engneering) の高度化という観点から、また、近年活発になってきている数値シミュレーションによる不確定性定量評価という観点から、これらに共通する技術である応答曲面推定法の効率化・信頼性向上というテーマを掲げた。その具体的な課題として、宇宙機に用いられる電気推進機の中和器の解析モデルを提案した。この課題に対し、特に課題の性質に関する議論を行い、課題解決の手段を本質的に見直した。

課題3:
風洞試験模型の模型変形効果は,設計形状と変形形状両方の解析をしなければ算出することができないため,全ての気流条件における模型変形効果を算出するためには膨大な計算コストがかかる.そこで,いくつかのデータをつかってモデル化し,模型変形効果を推定する手法を構築したいという目的で議論を進めた.その際,空力係数(模型にかかる力の無次元量)および,空間の三次元流れ場分布(圧力分布など)の両方の予測ができる方法について議論を進めた.

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

課題1:
当初、スパース推定の導入によって物理モデルの高度化に資する基底の抽出が可能になると期待していた。しかし、得られた基底の情報に、どのような物理的な意味があるのかを考える必要があり、それは、現状、非常に困難な課題であると認識した(大きな研究課題)。また、スパース推定を実施する上で、データ同化を実施するのと同様、問題設定をいかに行うのかが重要であると再認識した。そこで、モデル高度化の方向性決定、得られた方向性でモデルの高度化を実施というストーリーを立て、方向性を決定する上で基底の情報を利用できないかを数値実験によって検証した。モデル高度化の方向性決定の中では、モデルの摂動情報を作成し、その基底を抽出することを試みた。基底抽出には、主成分分析を利用した。その結果、得られた基底が、モデル高度化の方向性を示すことが示唆され、モデル高度化の方向性は数理手法の導入により自動で得られることが分かった。

課題2:
議論の結果、CAEや数値シミュレーションによる不確定性評価の高度化という最終的な目的達成のためには、これまでの伝統的な方法ではなく、ある種の最適化問題として捉え直した方がよりスムーズに問題解決に至るのではないか、ということがわかった。また、これを基に、数理側から具体的な手法が提案された。現在は特許申請なども視野に、課題解決に向けた共同研究体制が立ち上がりつつある。

課題3:
少ないデータ点でのモデル化であったため,視点を変えて,サンプル数の多い設計形状CFD解析結果のデータを利用して,サンプル数の少ない変形形状CFD解析結果のモデル化の精度を上げる方法に切り替え,高精度な模型変形効果のモデル化を図る方向で議論を進めた.ガウス過程回帰とMultiple Imputation法を利用して空力係数のモデル化を試みたところ,非線形性の強い領域で精度よく模型変形効果を予測できる結果が得られた.また,空力係数のモデル化を進めていく際に,空間分布のモデル化についても,位置(x, y, z)と迎角αの4変数の重回帰分析を適用することでモデル化が可能.また,主成分分析を適用することで,空力係数のモデル化と同じ手法でモデル化することができる可能性があることを見出した.

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

課題1:
今回、適用した手法を更に検証する必要がある。基底抽出には、主成分分析を利用したが、今後、スパース推定による基底抽出も試みていきたい。また、今回、用意した流れ場のデータは定常流であり、今後は、非定常流れ場での基底情報抽出にも取り組んでいきたい。

課題2:
提案課題に対し、課題の本質の抽出、具体的な手法の提案、予備的な検討がなされ、大きな見通しは得られた。しかし、実問題へと適用し、本当に実用段階にするためにはまだ克服すべき問題が多くあり、今後の共同研究で取り組む予定である。

課題3:
非線形領域については精度よく予測できたが,線形領域では予測した分布が不安定になった.チューニングパラメータの調整やサンプルデータの追加等によってどう改善するかを検証する必要がある.また,空間分布のモデル化に関しては,データの次元が非常に大きいことが懸念点であり,今後検討していく予定である.

 

今後の展開・フォローアップ

課題1:
モデル高度化の方向性決定は、モデル高度化の方法論構築に向けた課題の1つで、それを基底を見ることで自動化できれば非常に有益である。データ同化を設計に応用する上で、モデル高度化を達成することは重要であり、かつ、大きな研究課題になりうる。現在、設計にデータ同化をどう活かしていくのか?を考える研究会を企画中であり、その研究会の下で、今後も継続的な議論を行っていきたい。

課題2:
課題解決に向けた共同研究を実施する。

課題3:
引き続き課題解決に向けて,共同研究を実施する.