数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 気象データへの幾何・トポロジーによるアプローチの模索
採択番号 2014E08
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明
キーワード 大規模時系列データ解析 、トポロジー
主催機関
  • 北海道大学
運営責任者
  • 稲津 將
開催日時 2015/02/12 16:00 ~ 2015/02/13 16:00
開催場所 北海道大学大学院理学研究院
最終プログラム

場所:北海道大学理学3号館413号室

2/12 16:00-17:30 講演者間の問題共有
2/13 09:30 趣旨説明(稲津將)
09:40-10:30 計算トポロジー入門(荒井迅)
10:40-11:30 総観気象学入門(稲津將)
13:20-14:10 パーシステント・ホモロジー入門(平岡裕章)
14:20-15:10 時系列データ解析の気象への応用(中野直人)
15:20-15:50 総合討論
16:00 閉会(稲津將)

参加者数 数学・数理科学:10、 諸科学:3、 産業界:0、 その他:0
当日の論点

気象学と位相幾何学に関し、基本的な知見をレクチャーによって共有し、十分な討議によって、両分野の融合の可能性を探った。

具体的には、まず荒井が計算トポロジー入門と題して、学部学生向けレベルの位相幾何学入門の話を行った。そこではオイラー数やベッチ数と基本的な幾何量から出発し、連続変形によって到達する図形はホモトピー同値とするトポロジーの概念を詳説した。ついで、気象学者からのリクエストで、ホモロジー群について、鎖群や境界作用素の定義から、初心者が陥りやすい剰余群の理解までを解説した。

ついで、稲津は気象学の分野の広大さと、数学との連携可能性について紹介した。時間が昼休みを跨いでの長丁場となったが、その中でとくに中高緯度の気象にとってきわめて重要な温帯低気圧の幾何学的追跡に関する最新の成果が発表された。また、数学との連携の成功例として確率論を導入した新たな長期予報可能性の診断法について紹介された。さらに、幾何学と気象学の例として雪の結晶形の話が紹介された。

また、平岡はこれらの話を受けて、幾何学と気象学を繋ぐ計算方法の1つとして、パーシステント・ホモロジーを紹介した。パーシステント・ホモロジーとは空間点列からパーシステント図を作り出す算法のことであり、画像解析、パターン認識、材料科学等の広範な応用をもっている。まず、その算法の核となる概念であるチェック複体を導入し、その球の半径を可変パラメタとしたとき、パーシステント図により、データに内在するロバストな幾何構造を認識できることが示された。

時間が押し迫り、中野の時系列データ解析の気象への応用は短く紹介されるのみであった。

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

上記の通りに十分な討論のもとに、研究の現状は十分理解された。とくに気象学者(稲津)が1か月をかけて代数的トポロジーの入門書を事前に読んだ上で本会に参加したことで、その数学的な内容の疑問的を明らかにすることが可能となった。また、数学者(平岡)は稲津と事前に二度にわたり接触し、気象学における温帯低気圧の重要性とパーシステント・ホモロジーの応用利用可能性を探求したことで、下記に示す新たな発案に繋がった。

研究の課題として、気象学における低気圧追跡法では既存の画像処理技術による極めて単純なアルゴリズムであるが、そのパラメタは主観的に設定しており、意味づけも曖昧なままであった。一方、パーシステント・ホモロジーはそのままでは気象学のデータに利用することが難しそうであるという課題があった。

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

パーシステント・ホモロジーの複数パラメターに対する拡張が数学的にも気象学的にも有効な手立てであることが理解された。とくに、低気圧追跡に対して美的なアルゴリズムが組めるような気がしてきた。

具体的には平岡より提案されたトポロジカル・トラッキングの手法が有効であるように思われる。とくに多次元パーシステンスという概念を発案し、チェック複体の半径とサブレベルに応じたフィルトレーションを軸にした手法が気象学における低気圧追跡を含む特徴的な画像(図形)の時間的変化を追跡できるかが課題となった。

今後の展開・フォローアップ

科学研究費基盤B(特設分野研究)の支援も得ながら、今後も参加研究者間で交流を図り、応募中の新学術領域の公募研究としての妥当性を吟味する。

とくに、札幌または仙台にて本会のフォローアップとなるワークショップを再び開催するように考えている。