公害問題、地球温暖化問題、福島第一原発問題などに代表される科学技術主導の社会のひずみを解消し、持続可能性社会を創造するための起爆剤としてバイオミメティクス(生物規範工学)が近年、注目されている。バイオミメティクスの初期段階では、生物学者が提示する生物の興味深い形態や機能を参考にして工学者がモノづくりを行っていくという側面があった。しかしながら、更に発展していくためには、多様性溢れる生物の形態・機能から共通する性質を抽出ないし抽象化を行う必要がある。そこに数学・数理科学に長じたものが参入する意義が見出される。その具現化の為に、特に結晶成長の数理に詳しい数学者を招待講演者として招聘し、以下の四つの課題について議論する事が当日の論点であった。
1.セミの翅の表面のニップル構造が高い透過性と撥水性を有する原因の理論的解明とその生物学的意味を探り、材料工学的な検討も進めること。
2.ショウジョウバエの変異体の複眼表面に観られるチューリングパターン風の微細構造が形成される機構の解明、及びその原理の工学的再現性について検討すること。
3.凹凸のあるオパール薄膜表面における光物理学を確立し、その表面に混色効果を有する新たな材料設計の指針を導くこと。
4.高分子微細構造の濡れ性の数理モデルの導出と三相混合分離状態の接触角に関するバランス則の考察を行い、数値シミュレーションも援用した解析を進めること。 |