数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 表面微細構造の学理の探求:低環境負荷材料の創造に向けて
該当する重点テーマ 疎構造データからの大域構造の推論 、最適化と制御の数理
キーワード ニップル構造 、自己組織化 、混色効果 、超撥水性
主催機関
  • 北海道大学
運営責任者
  • 久保 英夫
開催日時 2014/02/22 00:00 ~ 2014/02/23 00:00
開催場所 北海道大学 理学部5号館
最終プログラム

2月22日(土)
10:30-11:00  趣旨説明 久保英夫(北海道大学)
11:00-12:00
「セミの翅の表面ニップル構造について」 針山孝彦(浜松医科大学)
13:30-14:00 * 講演者を囲んで自由討論
14:00-15:00 

「オパール薄膜の凹凸構造の形成について」不動寺浩(物質・材料研究機構)
15:15-16:15

」浜向直(東京大学)
16:15-16:45 * 講演者を囲んで自由討論
16:45-17:45
「トリプル・ジャンクションの安定性について」 高坂良史(室蘭工業大学)
 
2月23日(日)
09:45-10:45

 「高分子微細構造の超撥水性ついて」 石井大佑(名古屋工業大学)
11:00-12:00
「粘着と剥離の数理モデルについて」 小俣正朗(金沢大学)     
13:30-14:00 * 講演者を囲んで自由討論
14:00-15:00
「ショウジョウバエの複眼の表面構造について」 木村賢一(北海道教育大学)
15:15-16:15
「結晶成長におけるスパイラルパターンについて」 荻原俊子(城西大学)
16:15-16:45 * 講演者を囲んで自由討論
16:45-17:45
「自己組織化によるハニカム構造の形成について」 平井悠司(千歳科学技術大学)

参加者(総数、内訳) 参加者総数 32(内訳:オーガナイザー 1; 招待講演者 9; 一般参加者 22)
当日の論点

公害問題、地球温暖化問題、福島第一原発問題などに代表される科学技術主導の社会のひずみを解消し、持続可能性社会を創造するための起爆剤としてバイオミメティクス(生物規範工学)が近年、注目されている。バイオミメティクスの初期段階では、生物学者が提示する生物の興味深い形態や機能を参考にして工学者がモノづくりを行っていくという側面があった。しかしながら、更に発展していくためには、多様性溢れる生物の形態・機能から共通する性質を抽出ないし抽象化を行う必要がある。そこに数学・数理科学に長じたものが参入する意義が見出される。その具現化の為に、特に結晶成長の数理に詳しい数学者を招待講演者として招聘し、以下の四つの課題について議論する事が当日の論点であった。

1.セミの翅の表面のニップル構造が高い透過性と撥水性を有する原因の理論的解明とその生物学的意味を探り、材料工学的な検討も進めること。

2.ショウジョウバエの変異体の複眼表面に観られるチューリングパターン風の微細構造が形成される機構の解明、及びその原理の工学的再現性について検討すること。

3.凹凸のあるオパール薄膜表面における光物理学を確立し、その表面に混色効果を有する新たな材料設計の指針を導くこと。

4.高分子微細構造の濡れ性の数理モデルの導出と三相混合分離状態の接触角に関するバランス則の考察を行い、数値シミュレーションも援用した解析を進めること。 

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

本会議では、参加した数学者に対して、生物模倣を基礎としたモノづくりという普段、接する機会のない応用的なテーマを提示することで大きなインパクトを与えることができたと思われる。特に、昆虫の複眼の形成過程や超撥水性の表面上を移動する液滴の運動について強い関心が寄せられた。

今回の会議では、数学者とバイオミメティクスの研究者集団との間で有意義な意見交換が行われ、共同研究に発展する可能性のあるトピックもあったが、具体的な研究成果を挙げるには至っておらず、そうしたトピックを追求していくことが今後の課題である。

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

今後、特に解決を図りたい具体的な課題は次の二つである。

1.昆虫の眼の個眼の上に観察されるチューリング・パターン様の模様の形成過程を記述する数理モデルを立てること。そのためには、どの様な生化学反応が起きているか、また発生学的な考察を深める必要があり、その上で反応拡散系においてどのような相互作用を考えるのが妥当なのかについて検討する。

2.撥水性の表面上を移動する液滴は、液滴表面において振動から解放されているという実験結果を受け、従来とは異なる数理モデルの構築が望まれる。それを基に超撥水液滴の運動の解析を行う。 

同時に、数学と諸分野の連携は一筋縄ではいかないことを再認識することもできた。小グループによる共同研究を推進すると同時に、異分野における物の見方の習得を助けるような領域横断的な研究集会を定期的に開催していくことの大切さも痛感した。

今後の展開・フォローアップ

今後も、バイオミメティクスに対する関心をより多くの数学者にもってもらえるような活動を続けていきたい。数学は、まず物理学と相補的に発展しきてきたが、化学的な事象をもその守備範囲におさめてきた。生物を数理の眼で理解することは更に困難な課題であるが、持続可能性社会の創造のためには避けて通れない使命であると思われる。具体的には、領域横断的な研究集会を継続的に開催し、諸分野の暗黙知の結集を図る。

また、本会議の講演要旨は、ウェブページ(http://www.math.sci.hokudai.ac.jp/~kubo/W10abst.pdf)に掲載しており、今後、北海道大学理学部数学教室のテクニカルノートに纏める予定である。