数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 気象学におけるビッグデータ同化の数理
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明 、リスク管理の数理
キーワード 気象学 、データ同化 、非線形力学系理論 、確率論 、数値解析学
主催機関
  • 京都大学大学院理学研究科
  • 理化学研究所
運営責任者
  • 坂上 貴之
  • 三好 建正
  • 稲津 將
  • 斉木 吉隆
  • 中野 直人
開催日時 2014/03/19 09:45 ~ 2014/03/21 15:30
開催場所 京都大学大学院理学研究科 理学部3号館 110号室 および108号室

詳細: http://www.wpi-aimr.tohoku.ac.jp/~nakano/workshop/ismcoopwithmath2013/program_jp.html
最終プログラム

開催期間:平成26年3月19日~21日
Date: 2014 March 19--21

本ワークショップの講演・討論はすべて英語にて行われます.
All talks and discussions are presented in English.


プログラム(確定版日本語)
  平成26年3月19日
    9時45分 受け付け開始
   10時15分 イントロダクション・趣旨説明

   ●基調講演
   10時30分~11時30分
      Brian Hunt(メリーランド大)
      「Ensemble Methods for Complex Models and Big Data」
   11時30分~12時00分 質疑応答
   12時00分~13時30分 昼休み

   ●データ同化を知る ~数理的側面と気象的側面と~
   13時30分~15時00分
        中村和幸(明治大)
                「統計数理から見たデータ同化の理論・アルゴリズムとその応用」
   15時30分~17時00分
        三好建正(理化学研究所/AICS)
       「気象学におけるアンサンブルカルマンフィルタとビッグデータ同化」
   18時00分〜21時00分 参加者らによる継続討論

  平成26年3月20日
   ●気象学におけるビッグデータ同化の諸問題とそれにまつわる数理的手法1
   10時00分~11時30分
        平岡裕章(九州大学)
       「パーシステントホモロジーとその応用」
   11時30分~13時00分 昼休み
   13時00分~14時30分
        別所康太郎(気象衛星センター)
       「次期静止気象衛星ひまわり8・9号の概要」
   ●ポスターセッション
     15時00分~17時00分 ポスターセッション
   18時00分〜21時00分 参加者らによる継続討論

  平成26年3月21日
   ●気象学におけるビッグデータ同化の諸問題とそれにまつわる数理的手法2
   10時00分~11時30分
        牛尾知雄(大阪大学)
       「気象用フェーズドアレイレーダネットワークとビッグデータ」
   11時30分~13時00分 昼休み
   13時00分~14時30分
        伊藤公人(北海道大学)
       「気象学におけるビッグデータ同化のためのデータ構造と高速化アルゴリズムを考える」
   14時00分~15時30分 ディスカッション
   15時30分 閉会


Program

  2014 March 19
         9:45             Registration
       10:20             Opening
      * Keynote Lecture
       10:30-11:30   Brian Hunt(Maryland)
                             "Ensemble Methods for Complex Models and Big Data"
       11:30-12:00   Discussion
       12:00-13:30   Lunch

      *Session: Introduction to Data Assimilation in Mathematical Science and Meteorology
       13:30-15:00   Kazuyuki Nakamura (Meiji) ,
                            "Mathematical and statistical view of data assimilation: theory, algorithm and application"
       15:30-17:00   Takemasa Miyoshi (RIKEN Advanced Institute for Computational Science),
                            "Ensemble Kalman Filter in Meteorology and Big Data Assimilation"
       18:00-21:00   Informal Discussion with Participants

  2014 March 20
      *Session: Topics on Big Data Assimilation and Related Mathematical Tools I
       10:00-11:30   Yasuaki Hiraoka (Kyushu) ,
                            "Persistent Homology and its Applications"
       11:30-13:00   Lunch
       13:00-14:30   Kotaro Bessho (MSC)
                            "Next Generation Japanese Geostationary Meteorological Satellites Himawari-8/9 and Their Products"
       15:00-17:00   Poster Session and Discussion Time
       18:00-21:00   Informal Discussion with Participants

  2014 March 21
      *Session: Topics on Big Data Assimilation and Related Mathematical Tools II
       10:00-11:30   Tomoo Ushio (Osaka)
                            "Big Data on the Phased Array Radar Network for Meteorological Application"
       11:30-13:00   Lunch
       13:00-14:30   Kimihito Ito (Hokkaido)
                            "Data structure and parallel algorithms for big data assimilation in Meteorology"
       14:30-15:30   Discussion
       15:30             Closing


URL(日本語):http://www.wpi-aimr.tohoku.ac.jp/~nakano/workshop/ismcoopwithmath2013/program_jp.html

URL(English) :http://www.wpi-aimr.tohoku.ac.jp/~nakano/workshop/ismcoopwithmath2013/program_en.html

参加者(総数、内訳) 50名(運営責任者5名,講演者6名,聴講者39名)
当日の論点

本ワークショップでは,「気象学におけるビッグデータ同化」を取り上げ,「京」に代表される計算機シミュレーション技術の進歩と計測技術の進歩から来る高精細かつ時間高密度なビッグデータを融合させることで,現状では予測できないいわゆる「ゲリラ豪雨」といった短時間かつ局所的な天気予報を可能にする未来の天気予報につながる手法について,数理科学と気象学の協働研究について何を達成すべきかなどの議論を行った.

まず3月19日は,世界で先行して数学・気象連携研究を進めている米国メリーランド大学Brian Hunt教授にKeynote Lectureを御願いしデータ同化における数学的諸問題の解決の成果のいくつかについて説明を受けた.つづいて,数理科学からは明治大学の中村和幸講師によるデータ同化の数理的側面,気象学からは理化学研究所三好建正チームリーダーによる気象学におけるデータ同化およびビッグデータ同化時代に向けた数理的諸問題の提案がなされた.

3月20日と21日は数理科学および気象学(気象観測)の最先端について4名の招待講演を行った.数理科学からは画像データ解析の新手法であるパーシステントホモロジーについて九州大学の平岡裕章准教授が,また気象観測データの高速な参照を可能にする手法について北海道大学伊藤公人准教授がそれぞれ解説を行った.一方気象学からは気象衛星ひまわりの現状とこれからを気象衛星センターの別所康太郎課長,3Dで短時間の降水状況を確認できるフェーズアレイレーダーについて大阪大学の牛尾知雄准教授に基礎からその性能について解説を受けた.


3月20日の午後は参加者らによるポスターセッションを開催し13件の発表があった.講演者や参加者が今後の研究の可能性について活発に議論を行った.


本研究集会における論点については,三好チームリーダーが提示した超高頻度高解像度気象現象予測を可能にするビッグデータ同化実現のための技術的ボトルネックの解決可能性が主に話し合われた.

1.巨大な観測データの効率的なデータ解析手法

2.観測データの高速・高効率的抽出手法


また,これらの講演に付随して,これ以外の多くの気象学における諸問題にも適用可能な数学的な手法とその適用の具体化に向けた議論も活発に行われた.

 

 

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

1.巨大な観測データの効率的なデータ解析手法 
  観測技術の進歩とともに短時間で高精細なデータが生成されるようになり,その有効利用が必要だが現在のフィルター技術やノイズ除去技術では短時間予報に向けた時間的な制約のために使えないことが多い.そこで,これまでにない高速かつ効率的な手法により得られた観測データから同化に必要な情報を抽出する技術が必要となっている.

2.観測データの高速・高効率的抽出手法
  気象データはその発生源の空間的ばらつきはもちろんのこと,それらの観測タイミングなどの時間的な偏在があり,ビッグデータ同化では,こうしたデータを有効に利用することが求められている.そこで,必要な時に必要なデータを,時間的空間的に偏在した情報から効率的にサーチする必要がある.従来からもこれに対応するアルゴリズムはいくつか存在するが,短時間予測を念頭におくと十分に早いとはいえず,高速処理のためのビッグデータ同化手法の開発が重要である.
(1)従来の100倍以上の超高頻度でデータ同化計算
(2)短時間で非線形性が卓越する現象を対象とする高度なデータ同化手法
(3)高解像度シミュレーションのはき出す大容量データと,次世代センサがはき出す大容量データを高速に処理するための計算機性能を最大限に生かしたデータ同化技術
(4)計算機科学と計算科学の融合,コデザイン

3.その他のトピック
(1)講演の中で示されたパーシステントホモロジーを用いた気象データの構造解析については,多くの応用がありうることが参加者の間での話題となった.トポロジカルなデータを気象にどう活かすかという問題に対して,これまで具体的な研究はほとんどなされていない.

(2)また,気象学の成功を受けて,データ同化手法の様々なモデルへの適用も参加者の間で議論された.ポスター発表や参加者との議論を通じて,感染症や社会科学的な問題への適用などが今後期待される.


(3)Brian Hunt教授の講演の中で,これまでのメリーランド大学での10年以上にわたる気象・数学連携の成果として,データ同化の数学的基礎となるような定理が最近得られたことなどが発表され,ロングレンジでの協働研究が数学的な成果につながることが示された.今回のビッグデータ同化に関わる協働研究が将来において数学の進展に資することも期待される.

(4)三好チームリーダーの講演において,データ同化とカオス同期の関連が紹介された.

 
新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

研究の現状と課題でまとめたように,三好チームリーダーの提示した二つのボトルネックの解決に向けて,数理科学(幾何学・力学系・統計科学・計算機科学)の分野でアプローチが可能な問題であることが参加者らによって認識された.また,ここから派生して多くの数学・気象連携が可能になる.

 

今後の展開・フォローアップ

今後の展開として,具体的には次のことが行われると予定になっている.

(1)理研・京大連携研究 理研AICS三好データ同化グループと京大数学坂上グループでは,今回の議論と研究の方向性の議論を踏まえて,定期的なミーティングを重ねることになった.これまでは研究集会での情報交換やネットワーク形成に主眼が置かれていたが,今後は,具体的なデータや問題に様々な検討を加えていく段階に入っている.


(2)北海道大学・九州大学の研究者によるパーシステントホモロジーを用いたデータ解析法の開発を検討することとなった.

(3)兵庫県立大学・京都大学・北海道大学の研究者による感染症や社会科学モデルへのデータ同化技法の展開の可能性を議論していくこととなった.特に感染症については,京大・北大での研究成果があるので,それを合わせることで具体的な研究成果へとつなげていくことが確認されている.

(4)一橋大学の研究者によって,カオス同期がへテロ次元サイクルという構造で特徴づけ出来ることが明らかになりつつあり,データ同化をその観点で見直すことが検討されている.


(5)MaeT(数学・気象学連携ユニット)のメンバーによる協働研究が引き続き行われる.とくに、北海道大学、東北大学、一橋大学、および京都大学と全国に展開する利点を活かし、さらに数学を活かした研究テーマを発掘するための情報交換を行う.