数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 生命ダイナミックスの数理とその応用
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明
キーワード 生命科学、動態、システム、細胞、複雑系、生体高分子構造、超離散系、力学系
主催機関
  • 東京大学大学院数理科学研究科
運営責任者
  • 井原 茂男
  • 栗原 裕基
  • 時弘 哲治
  • 富山 三弘
開催日時 2014/01/20 00:00 ~ 2014/01/22 00:00
開催場所 東京大学大学院数理科学研究科 大講義室
 〒153-8914 東京都目黒区駒場3-8-1
最終プログラム

井原茂男(運営委員代表)東京大学先端科学技術研究センター・大学院数理科学研究科
栗原裕基 (運営委員副代表)東京大学大学院医学研究科
時弘哲治 (運営委員副代表)東京大学大学院数理科学研究科
富山三弘  (運営委員)東京大学大学院数理科学研究科
プログラム委員
 京都大学  松田道行
 東京大学  金子邦彦
 広島大学   楯 真一
 広島大学   小林亮
 東京大学  和田洋一郎
および
 上記運営委員
 
会合案内のポスターのサイトは下記をご覧ください:

 

 

プログラム

一日目 (120日)
14:00
開会の辞
14:15-16:15
−生きていることの動的状態論
生命システムの可塑性、頑強性の数理
- 複製、適応、発生、進化の普遍性生物学 (座 長:金子邦彦)

可塑性、頑強性、活動性の普遍生物学 金子邦彦 (東京大学総合文化)

細胞運動にみる興奮性時空間ダイナミクス 澤井哲 (東京大学総合文化)

細胞内部状態のゆらぎと集団適応ダイナミクス 若本祐一 (東京大学総合文化)

細胞の化学勾配検知の情報処理とその数理 小林徹也 (東京大学生産研)

 

16:30-18:30

- 特別講演 (座長:時弘哲治)

製薬メーカーにおける数理科学研究の応用事例  横田博之 (アステラス製薬(株) 分子医学研究所)

抗原抗体相互作用の熱力学 津本浩平 (東京大学大学院工学系研究科、医科学研究所、生産技術研究所)

RNA structures and their evaluation / New trends in scientific edition Michael Bon (CEA Saclay)

 

 二日目 (121日)

10:00-12:00
− 細胞のダイナミクス:細胞のイメージングの数理、FRET 実験、細胞運動の力学 (座 長:松田道行、栗原裕基)

多次元定量イメージングに基づく数理モデルを用いた動的生命システムの革新的研究体系の開発・教育拠点 松田道行 (京都大学大学院医学研究科病態生物医学)

確率的な ERK 活性化による細胞増殖制御 青木一洋 (京都大学時空間情報イメージング拠点)

細胞内シグナルが制御する細胞移動のシステム同定 本田直樹 (京都大学時空間情報イメージング拠点)

単離膵島における ATP Ca2+のダイナミックス 今村博臣 (京都大学白眉)

機械的な力が形態形成を制御するメカニズム 杉村薫 (京都大学 iCeMS)

血管新生イメージングと数理モデル化 西山功一 (東京大学大学院医学系研究科 代謝生理)

 

14:00-16:00

− 核におけるダイナミクス:クロマチン構造の数理 (座長:小林亮)

核内クロマチンの動的構造生物学の黎明 楯真一 (広島大学大学院理学研究科)

転写制御に関わるDNA力学過程の粗視化モデルによる考察 粟津暁紀 (広島大学大学院・理学研究科)

損傷クロマチンの細胞核内ダイナミクス 田代聡 (広島大学 原爆放射線医科学研究所)

 

16:15-18:15

− 協働研究チュートリアル (座長:井原茂男)

知財権取得をも意識した産業界での数理応用 ライフ・ITイノベーションでの生命数理科学への期待

根本靖久 (東北大学 研究推進本部 URA センター)

 

− ポスターセッション 次世代への期待 (座長:栗原裕基、時弘哲治)

(上記ご講演に引き続き17時から)

 

・ 複雑生命システム動態研究教育拠点(東京大学)
斉藤稔 
(総合文化 PD) 生体内化学反応における少数性効果

香曽我部隆裕 (総合文化 M2) パターン形成力学系づく進化発生対応

中島昭彦 (総合文化 PD)、石原秀至 (総合文化)、井元大輔 (総合文化)、澤井哲 (総合 文化) 時間空間的にダイナミックな化学誘因場における細胞移動メカニズム

小澤高嶺 (総合文化 D2) 甲虫表現可塑性とエピゲノム

野添嵩 (総合文化 D1) ストレス環境下における細胞状態のゆらぎと生存

橋本幹弘(総合文化 D2)ダイナミクスサイトメーターをいたバクテリアの増殖と遺伝子発現の定量的解析

梶田真司(生産研 D1)免疫細胞による自己・非自己識別機構の数理モデリング

大崎寿久(生産研 特任助教)人工細胞ネットワーク構築のためのリポソームアレイ作製技術

吉田昭太郎(生産研 D1) 神経ネットワーク構築のための単一神経細胞操作プレート

 

・ 多次元定量イメージングに基づく数理モデルを用いた動的生命システムの革新的研究体系の開発・教育拠点 (京都大学)

榎本将人 (生命・助教)、井垣 達吏 (さきがけJNK 依存的な Hippo 経路活性スイッチによる腫瘍成長制御

藤田芳久(医・D4フィードフォワードおよびフィードバックループは EGF 刺激に対するERK活性化と分子標的薬の効果を制御する

藤井徹矢(再生研・M2)、井上康博(再生研)、安達泰治(再生研) 張力負荷条件下におけるコフィルアクチンフィラメント内のコフィリン‐アクチン間エネルギー解析

 

・核内クロマチン・ライブダイナミクスの数理研究拠点形成(広島大学)

落合博 (院理核内DNA動態と遺伝子発現の定量的解析

李聖林 (院理) Mathematical Understanding on Nuclear Architecture of Eukaryotic Cells

菅原武志 (院理)、升田賢太 (先端研)、上脇隼一 (院理)、粟津暁紀 (院理)、西森拓 (院理)、上野勝(院理、先端研) 染色体3Dモデリングとクロマチン・ライブダイナミクス

栃尾尚哉 (院理)、木川隆則(理研生命システム)、楯真一 (院理) 生体内環境下でのタンパク質動態

冨樫祐一 (院理分子機械システムの力学的応答:遺伝子の構造発現をつなぐ理論に向けて

新海創也 (院理核内拡散現象からクロマチン構造やエネルギー散逸を定量化する理論の構築

 

・転写の機構解明のための動態システム生物医学数理解析拠点(東京大学) (生物医学と数学の融合拠点 iBMath)

中田庸一(数理) 簡略化された Path-preference model について

松家敬介(数理) 反応拡散系の離散化及び超離散化

中村伊南沙(数理)、鮑園園(数理) クロマチンの様々な立体構造と RNA の構造解析

杉原圭 ()、余語孝夫 ()、佐野和晃 ()、島田敦 ()、日高剛朗 ()、加藤祐介 ()、 安部樹 ()、二島伸明 ()、幸左絵美 ()

 iBMath 玉原サマースクール課題の成果

 

三日目 (122日)
10:00-12:00 (座長:和田洋一郎)
− 遺伝子の転写過程のダイナミクス:転写過程の数理
iBMath: 転写の機構解明のための動態システム生物医学数理解析拠点−生物医学と数学の融合拠点 井原茂男 (東京大学先端科学技術研究センター・東京大学大学院数理 科学研究科)

血管細胞における転写ダイナミクスの実験観察 和田洋一郎 (東京大学アイソトープ総合センター・東京大学先端科学技 術研究センター)

転写過程の情報処理と数理モデル 大田佳宏 (東京大学大学院数理科学研究科)

転写における相互作用解析のための情報処理 興梠貴英 (自治医科大学附属病院企画経営部医療情報部)

 

14:00-16:00
− 蛋白質・
RNA:構造生物学の数理  (座長:井原茂男)

革新的結晶化技術の開発と抗原抗体複合体にみる相互作用解明 井上豪 (大阪大大学院工学研究科)

医薬品探索・分子設計における数理の応用 福西快文 (産業技術総合研究所(AIST) 臨海副都心センター創薬分子プロファイリング研究センター)

製薬・食品における構造生物学の応用 土居洋文 (東京大学先端科学技術研究センター)

ファットグラフからの蛋白質構造解析 児玉大樹 (東京大学大学院数理科学研究科)

閉会の辞 

 

参加者(総数、内訳) 参加者総数 140名 (内訳:オーガナイザ 9; 講演者およびポスター発表者:61一般参加者 70)
当日の論点

複雑な現象やシステム構造をもつ生命科学は、ヒトゲノム計画以降、遺伝子情報に関するビッグデータを扱うことで大きく発展をとげつつある。生命科学では、生命動態、すなわち時間軸の中の現象として生命をとらえるアプローチが今後の日本の生命科学における重要な柱として認識され、その発展が重要な課題になっている。そこで、生命動態の4拠点のメンバーを中心に拠点全体の活動状況、および研究の概要

・生命現象のダイナミクス:生命の複雑系の問題としての数理

・細胞のダイナミクス:細胞のイメージングの数理

・核におけるダイナミクス:クロマチンのひも構造の数理

・遺伝子のダイナミクス:転写過程の輸送問題の数理

・蛋白質・RNA:構造生物学の群表現の数理

について具体的にについて紹介しあい、今後の研究の発展方向を模索した。

生命科学の理論家、実験家、数理の人が集い数理を通して生命動態における新しいアプローチを模索し、数学・数理科学と諸科学・産業との協働するための知識を共有する試みとして、今回は産業界からのニーズを紹介するセッション、数理モデルの特許化の可能性など産業界との連携で不可欠な要素についての講演を取り入れた。またいろいろな立場の人が議論できるように若手中心の発表というかたちでポスターセッションを行った。2時間では不十分な程に活発な議論がなされた。

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

もともとの会合の趣旨は、専門化・分化した分野にいる生命科学の研究者と数理科学の研究者が集い連携の形態を模索することにあった。生命科学と数理科学はともに異なった方向に非常に専門化・特化が進んだ分野であり、ダイナミクスという切り口を与えて議論を進めた。空間的時間的パターンの形成の重要さ、複雑系としての捉え方、高分解能実験と数理モデリングの重要さがあらためて認識されるなど、相互の分野での認識は深まり、連携を考える良い機会となった。通常は生命科学では発表する機会の少ない生命科学の系を対象にした数学的な内容の発表が多く、広い生命科学の数理的な発表を一度に聞け、個々の研究者が自身の興味を拡げていたことは多々あったようであり、本会は有意義であった。ポスターセッションにみられたように若手の活性化にはある程度成功した。今後とも引き続きこの機運を盛り上げて行く必要がある。今回、融合領域の俯瞰についての着手はできたものの、上記の閉塞感を打破し、よりグローバルな視点で全体を俯瞰し、新たな連携課題が生まれるまでにはいたらなかった。

 

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

より大きな成果にしていくためには、今後大きく発展するダイナミクスという切り口は保持し、さらに広い範囲で、両分野の研究者がお互いの分野に興味を持ち連携できるよう幅広く知見を広げる必要がある。今後とも生命の動態を俯瞰していくことで、統一的に動態をとらえると同時に、スケーリングから個々の領域で生命のダイナミズムを記述できる新規のアプローチがみいだせないかを具体的に模索したい。今後とも

・数理研究者が生命科学研究者や産業が抱える問題を共有し、

・研究者同士のネットワークの構築、

・連携テーマの具体化、

を与える場をワークショップで形成し、生命のダイナミズムにおける空間的時間的パターンの形成などにおける新しい課題を、原子論的あるいは現象論的な方法論まで含む多様な立場で探索する方向で進んでみたい。また連携に不可欠な知財権の獲得や維持などは今後とも検討すべき課題であるように思えた。さらに、民間企業からのより多くの参加を促す様な施策も検討すべきであると感じた。

今後の展開・フォローアップ

今回の会議を起点とし、今後も引き続き、産学連携まで視野に入れた様々な異種分野の融合領域構築を図るべく、同様の会議を企画していく予定である。次回は関西地区と合同で引き続き開催を企画することで合意が形成されつつある。

特に、今回は生命動態の4拠点が中心であったが、今後はCREST、さきがけ、およびJSTのデータベース構築においても生命のダイナミクスに関係する研究者を広く受け入れる会合にして視野を拡大していくことが今回の会の世話人一同で決定している。本会議の講演内容については既に、承諾が取られたものに限り、講演者のプレゼンのビデオを会議ウェブページ経由で数理科学研究科ビデオアーカイブにアクセスすることで一般公開をする予定である。