数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 地球流体現象の疎構造
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明
キーワード 地球流体力学 気象学 間欠性 極端気象
主催機関
  • 京都大学数理解析研究所
運営責任者
  • 森 重文
  • 山田 道夫
開催日時 2014/03/13 13:30 ~ 2014/03/14 15:30
開催場所 京都大学 数理解析研究所 110号室
最終プログラム

3月13日(木)

13:30-14:40 向川均(京大防災研)

  成層圏突然昇温の力学と予測可能性

14:50-16:00 河原源太(阪大基礎工)

  平面クエット流における間欠性乱れとホモクリニック軌道

16:10-17:20 筆保弘徳(横浜国大)

  台風サイズの発達メカニズム ~渦が拡大する謎に迫る~

3月14日(金)

9:30-10:40 野田暁(JAMSTEC)

  雲とその力学

10:50-12:00 藤部文昭(気象研)

  大雨の極地統計に関わる問題点

 13:00-14:10 川村賢二(極地研)

  アイスコアによる古気候解析に関わる諸課題

14:20-15:30 芦野隆一(大阪教育大)

  スパース表現と圧縮センシング

 

  

参加者(総数、内訳) 32
当日の論点

地球科学における流体現象,特に疎構造・間欠的構造をもつ現象を対象として,それらに関するデータ解析の手法と実際上の問題点について,5つの研究分野の専門家による指摘をいただいた.また同時に,流体現象における間欠性への力学系理論的なアプローチ,および,スパース表現と圧縮センシングの数学的内容について,それぞれの専門家に解説していただいた.扱われた地球科学的現象は,成層圏突然昇温,台風の拡大メカニズム,雲の力学,大雨の極地統計,アイスコアによる古気候解析,であった.

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

今回は5つの地球科学的現象を中心に,データ解析の課題を専門家に解説していただき,研究の現状を俯瞰することを目的とした.成層圏突然昇温については現象の発現に関わる異常値の事後解析は行われているものの事前解析は困難であることが指摘された.台風解析では,データ解析と数値実験により,レインバンドが引き起こす2次循環による中層の雲の拡大が重要であることが指摘されたが,非軸対称レインバンドの軸対称的解析についての議論も行われた.雲力学については種々の雲の問題が指摘され,特に竜巻を引き起こす積乱雲とそのドップラーレーダー画像解析などが述べられた.また穏やかな雲(下層雲)の重要性が強調され,その疎構造とエアロゾル量の関係など未解明の点について議論が行われた.大雨については,極地統計の適合度とともに不確実性の問題が指摘され,気候学的にあり得るが極地統計による扱いの難しい異常値の問題が議論された.アイスコアによる古気候解析では,極域氷床による古大気解析の現状が述べられ,それらによる氷期・間氷期サイクルの解析や年代決定,古いイベントの検出問題が指摘された.理論の立場からは,流体力学方程式を対象とする相空間の構造解析が詳しく述べられ,edge state の不安定方向が一つである場合について,アトラクタ・サドル・ホモクリニック軌道による間欠性解析が議論された.スパース表現と圧縮センシングについては,サンプリング定理を導入として,スパース性,データ圧縮,L1誤差の最小化と線形計画法などが述べられた.

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

地球流体現象では,多くの要因が絡み合っているため,実験室におけるような純粋の現象を取り出すことが困難である.また現象のレイノルズ数が非常に高いため力学的決定論的性格に乱流の確率論的性格が重なることも解析を困難にする要因となっている.ここでは,成層圏突然昇温の原因となる異常値の検出と意味づけ,台風拡大と関連するレインバンドの成因,極地統計の不確実性の問題,アイスコアからの古いイベント検出などの課題が指摘された.また力学系理論や圧縮センシングなどの手法の有効性の検討も課題の一つである.

今後の展開・フォローアップ

今回の集会は,地球流体力学に関係するそれぞれの分野における課題を俯瞰することを目的としたものであり,分野ごとの興味深い課題をそれぞれの講演者に解説していただいた.これらの現象は,その有効性は別としても,背後に決定論的発展方程式を持つものであり,そのような力学的構造とデータ解析の融合は重要な課題の一つと考えられる.今回の集会を出発点としてこのような現象のデータ解析の数学的側面を議論するため,次回以降,次第に焦点を絞って集会を重ねていくことを企図しており,その中で,数理科学と地球科学の交流と相互作用を計りたいと考えている.