数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 安心・安全・快適な社会インフラ維持への数理科学の適用
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明 、疎構造データからの大域構造の推論 、過去の経験的事実、人間の行動等の定式化 、計測・予測・可視化の数理 、リスク管理の数理 、最適化と制御の数理
キーワード データ解析 、データ同化 、数値解析 、最適化 、他
主催機関
  • 統計数理研究所
運営責任者
  • 樋口 知之
  • 伊藤 聡
  • 藤澤 洋徳
開催日時 2013/11/25 00:00 ~ 2014/01/28 00:00
開催場所 統計数理研究所(または鉄道総合技術研究所)
最終プログラム

 
○スタディグループの目標
データ側がスタディグループ後に新しい方向性で研究が進められるための土台を作る.(データ側は鉄道総合技術研究所のことです.)

 

【課題1】直交格子法流体解析における統計的補正モデル
課題提供者: 黒岩 奈保・中出 孝次 (鉄道総合技術研究所)
モデレータ: 上野 玄太 (統計数理研究所)

【課題2】車輪・レール間接触問題の数値解析手法について
課題提供者: 林 雅江・荒川 貴道 (鉄道総合技術研究所)
モデレータ: 福井 義成 (海洋研究開発機構)

【課題3】振動加速度波形からの乗客アンケートの結果推定
課題提供者: 神山 雅子・中川 千鶴 (鉄道総合技術研究所)
モデレータ: 黒木 学 (統計数理研究所)

 

11/25
10:00-12:00 一般向け講演
13:00-17:00 目的意識とデータの様相を共有

11/26
10:00-12:00 数理側だけで方向性を議論
13:00-17:00 データ解析の基本的方向性を議論

1/27
10:00-12:00 数理側から必要知識の提供
13:00-17:00 データ解析の方向性を改めて議論

1/28
10:00-12:00 数理側とデータ側で別々に検討
13:00-15:00 今後の方針を議論.まとめも作る.
15:00-17:00 全体報告会

 

 

参加者(総数、内訳) 22
当日の論点

鉄道総合技術研究所が提示した3つの課題を,数学協働プログラムのメンバーが吟味して,関連した数理側の研究者に呼びかけて,それぞれの課題毎に別れて,課題解決に向けて議論した.

 

課題1:直交格子法流体解析における統計的補正モデル

課題2:動的接触解析問題における連立一次方程式解法について

課題3:振動加速度波形からの乗客の体感乗り心地推定

 

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それぞれの課題毎に得られた最大の成果を最初に記載しておく.

 

課題1:課題に関連するデータ同化手法の有効な使い方を提示した.

課題2:課題の解決手段を本質的に見直して伝統的な手法と違う手法を採用した.

課題3:推定精度を上げるために,データ取得方法の変更が有効である可能性が示された.

 

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以下は詳細である.

 

課題1:

鉄道分野の流体解析において数値シミュレーションの活用を促進する目的で,直交格子法流体解析プログラムを開発中である.直交格子法では格子解像度を高くするほど解の精度が上がるが,計算資源の制約により充分な解像度を確保することは現実的でない場合が多い.そのため,得られる数値解は,解像度が不足する分だけ誤差を含むことになる.また,境界条件や乱流モデルによっても誤差が生じる.そこで,こうした直交格子法を用いることで生じる誤差を補うような統計モデルを構築したい.

 

課題2:

列車走行中の車輪・レール間接触面における力学的挙動を評価するため,大規模メッシュを用いた車輪・レール転がり接触解析手法の構築を行っている.接触問題を制約付き最適化問題として扱い, Lagrange未定乗数法のKKT条件を求めることで最適解としている.現状,線形方程式解法には直接法を適用している.今後,モデルの大規模化から計算コストの増大が予想され,現実的な時間内で解析を実行するには何らかの改善が必要となっている.線形方程式の求解過程を改善するか,求解の回数を減少させるなどの改良を図りたい.そこで,数学・数理科学の専門家からのよりよい定式化・解法の提示をお願いしたい.

 

課題3:

乗り心地調査試験の被験者に対するアンケートによって得られた,乗客の体感乗り心地(主観評価)データがある.加えて,走行中の車内の振動加速度などのデータがある.前者のデータより後者のデータの方が容易に取得できる.そのため,乗客の体感乗り心地を,車上測定データから推定する予測式がすでに提示されているが,この予測式を再検討したい.

 

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

  

課題1:

高分解能の結果を「観測データ」とみなし,低分解能のシミュレーションモデルに同化するプロセスを通して,低分解能のシミュレーションモデルの改善を図ることとした.具体的には,「観測データ」から低分解モデルで説明できない差分を求め,この差分をデータ同化技法によって,モデル化した.モデル化した差分の推定を行ったところ,高分解能の結果を再現できるような値を現実的な計算コストで得ることができることが分かった.

 

課題2:

課題解決の手段を本質的に見直した.これまでの伝統的な方法ではなくて,内点法として捉え直した方が,よりスムーズに問題解決に至るのではないかという提案が,数理側から行われた.その知識を共有する必要があるために,内点法についての解説を,数理側がデータ側に行った.その考えに基づいて,提案された手法をプログラム化して,幾つかの状況に合わせて有用性を確認した.

 

課題3:

主観評価のデータの取り方自体から議論がなされ,どのように工夫されるとさらに良いかが提案された.さらに,主観評価の結果自体が,かなりはっきりとクラスタリングできることが分かった.データの取り直しは本課題の範囲外なので,提供されたデータを解析した.様々な方面からデータの吟味が行われ,様々な統計的技法が用いられ,最終的な予測式が構築された.体感乗り心地に振動加速度データの何が強く効いていそうかなども提示された.

 

 

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

 

 

課題1:

差分モデルの推定において,推定に用いたタイムステップの期間を長くとるほどよい推定値が得られるものと期待されていた.しかし,推定期間の始点と終点の選び方に推定値の性能は大きく依存し,期間は長くとも推定値が悪くなる場合が観察された.こうした状況を踏まえて,今後は期間と推定値の関係を調べる予定である.

 

課題2:

提示された課題に対して,基本部分において大きな見通しは得られた.当初予定した課題よりも先まで議論することができた.しかし,問題自体を特殊化した状況において見通しが得られただけであり,本当に実用段階にするには,まだまだ克服すべき問題がある.

 

課題3:

データの取り方自体に工夫の余地がある.そうすれば,さらに良い解析を行える可能性がある.また,今回は,ある一つの状況しかデータ解析が終わっていない.他の状況のデータ解析はこれからである.

 

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○全体から見て

鉄道総研とのSGで,事前に予想された問題は,以下の二つであった: (1) 情報の秘匿レベル.(2) 知財等.

(1)に関しては,情報をオープンにするとき,大丈夫かどうかを,常に確認するように気をつけた.特に,数理系は,情報をあまり秘匿する必要がないので,情報の秘匿に関しては,意識レベルが違うことが予想されたからである.この確認には,課題解決には本質的ではない多大な労力が必要であるが,民間等の研究所では,普通に行われていることである.

(2)に関しては,今回は,問題になる所まで行かなかった.これは,今後に,具体的な問題が起こった時に,対処が必要となるであろう.

 

 

 

今後の展開・フォローアップ

 

○各課題について

それぞれの課題とも,未解決部分に関して,連携を取りながら進んでいく予定である.

 

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○全体から見て

今回に特徴的だった点は,鉄道総研が,提示する課題を,どうやって選んだかであった.課題解決が長らく難しかったタイプの課題を提示したそうである.そういう課題であれば,オープンにしやすいと考えられたそうである.最先端すぎる課題は,オープンにすることに問題があるかもしれない.また,課題解決が長らく難しかった課題ほど,本質的なブレークスルーが必要であり,課題の本質に切り込む数理科学の価値は高いのではとも考えられる.そういうタイプの課題が,数理科学の協働には向いているテーマかもしれない.