鉄道総合技術研究所が提示した3つの課題を,数学協働プログラムのメンバーが吟味して,関連した数理側の研究者に呼びかけて,それぞれの課題毎に別れて,課題解決に向けて議論した.
課題1:直交格子法流体解析における統計的補正モデル
課題2:動的接触解析問題における連立一次方程式解法について
課題3:振動加速度波形からの乗客の体感乗り心地推定
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それぞれの課題毎に得られた最大の成果を最初に記載しておく.
課題1:課題に関連するデータ同化手法の有効な使い方を提示した.
課題2:課題の解決手段を本質的に見直して伝統的な手法と違う手法を採用した.
課題3:推定精度を上げるために,データ取得方法の変更が有効である可能性が示された.
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以下は詳細である.
課題1:
鉄道分野の流体解析において数値シミュレーションの活用を促進する目的で,直交格子法流体解析プログラムを開発中である.直交格子法では格子解像度を高くするほど解の精度が上がるが,計算資源の制約により充分な解像度を確保することは現実的でない場合が多い.そのため,得られる数値解は,解像度が不足する分だけ誤差を含むことになる.また,境界条件や乱流モデルによっても誤差が生じる.そこで,こうした直交格子法を用いることで生じる誤差を補うような統計モデルを構築したい.
課題2:
列車走行中の車輪・レール間接触面における力学的挙動を評価するため,大規模メッシュを用いた車輪・レール転がり接触解析手法の構築を行っている.接触問題を制約付き最適化問題として扱い, Lagrange未定乗数法のKKT条件を求めることで最適解としている.現状,線形方程式解法には直接法を適用している.今後,モデルの大規模化から計算コストの増大が予想され,現実的な時間内で解析を実行するには何らかの改善が必要となっている.線形方程式の求解過程を改善するか,求解の回数を減少させるなどの改良を図りたい.そこで,数学・数理科学の専門家からのよりよい定式化・解法の提示をお願いしたい.
課題3:
乗り心地調査試験の被験者に対するアンケートによって得られた,乗客の体感乗り心地(主観評価)データがある.加えて,走行中の車内の振動加速度などのデータがある.前者のデータより後者のデータの方が容易に取得できる.そのため,乗客の体感乗り心地を,車上測定データから推定する予測式がすでに提示されているが,この予測式を再検討したい.
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