数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 金融リスクの計測・管理・制御に纏わる数理
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明 、リスク管理の数理 、最適化と制御の数理
キーワード 金融リスク 、市場性リスク 、信用リスク 、オペレーショナルリスク 、カウンターパーティリスク 、流動性リスク 、モデルリスク 、伝播(システミック)リスク 、リスク尺度 、金融リスク管理 、リスク配賦 、高頻度データ 、高頻度取引 、アルゴリズミック取引 、マーケットインパクト 、低流動性資産 、最適執行 、長期間リスク 、長寿リスク 、死亡リスク
主催機関
  • 大阪大学金融・保険教育研究センター
運営責任者
  • 関根 順
開催日時 2013/03/28 00:00 ~ 2013/03/29 00:00
開催場所 大阪大学基礎工学部大講義室
最終プログラム [3月28日(木)]
12:50--12:55 オープニング
13:00--13:45 加藤恭(大阪大学CSFI)
"Survey on Quantitative Financial Risk Management"
13:45--14:30 磯貝孝(日本銀行金融機構局)
「ベンチマーク法による複数のVaR・ESの計測手法の精度に関する比較分析」

(休憩)

15:00--15:45 足立高徳(一橋大学ICS)
"Decision Theory and its Categorical Framework"
15:45--16:30 貝瀬秀裕(大阪大学CSFI)
「動的重点サンプリングにおける微分ゲームによる手法の紹介」

16:40--17:25 中川秀敏(一橋大学ICS)
「EBITベースの構造型モデルと信用スプレッド(仮)」
17:25--18:10 大山剛(有限責任監査法人トーマツ・インダストリーグループ)
「バーゼルIIIを超えた新しいグローバル規制の動向」


[3月29日(金)]
9:30--10:15 荻原哲平(大阪大学CSFI)
「高頻度株価データを用いた共分散推定法と関連する研究について」
10:15--11:00 藤井孝之(滋賀大学経済学研究科)
「拡散過程の統計的モデル選択と金融データへの利用」

11:10--11:55 金谷信(Aarhus University, Department of Economics and Busuiness)
"Optimal Sampling and Bandwidth Selection for Kernel Estimators of Diffusion Processes"
11:55--12:40 佐藤彰洋(京都大学情報学研究科)
「高解像度外国為替市場データを用いた市場状態推定とリスク計量」 

(休憩)

14:00--14:45 内田善彦(日本銀行金融研究所)
「最近の議論について(CVA/FVA、ストレステスト、リスクアピタイト)」
14:45--15:30 佐藤里帆(有限責任監査法人トーマツ・インダストリーグループ)
「今後のオペレーショナル・リスク規制の動向と課題について」

(休憩)

16:00--16:45 廣中純(野村アセットマネジメント)
「金融リスク管理実務の課題とその対応」
16:45--17:30 藤澤陽介(ライフネット生命保険株式会社・リスク管理部)
「年金・保険を取り巻く諸問題と死亡率推測モデルの役割について」
17:30--17:35 クロージング


(会場へのアクセスについては
http://www.osaka-u.ac.jp/ja/access/accessmap.html
http://www.osaka-u.ac.jp/ja/access/toyonaka
をご参照ください。)
参加者(総数、内訳) 総数:63人、学術機関関係者45人、学生12人、金融機関関係者6人、
当日の論点

1) 市場性リスク・信用リスクを測るのに用いるリスク尺度の選択について

2) リスク量計測のための統計的手法の検討

3) 微小発生確率かつ膨大な損失発生に依存するリスク量をより正確・精緻にシミュレートするための数理的手法の提案・検討

4) オペレーショナルリスクのように損失分布の裾が大変偏り長いリスク計測に関連する極限定理

5) 信用リスク計量化に対するアプローチ再考:内生的に企業のデフォルトをモデル化する構造的アプローチで"状態変数"として何が本源的なのか?

6) 高頻度データ・高解像度データをどう活かすか、データ分析から何が得られるか?新しい統計量の提案

7) ストレステスト・モデルリスクの考慮の重要性

8) リスク規制者(監督者)側の動向、今後の展開の予想について

9) 保険・年金問題に纏わる長期間リスクに対する数理的手法の紹介や現在直面している問題点について

 

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

1) VaR(Value at Risk), あるいはES(Expected Shortfall)を用いた市場性リスクや信用リスク量計測・計算については、モデルパラメータの推定や効率的計算法の改良・精緻化といったフェーズにあると考えられる。一方、モデルリスクをどう捉えるかについては実務家の捉え方、一方数理科学(制御理論、統計科学など含む)や数理経済学で提唱されているモデル不確実性(model ambiguity, uncertainty)にはまだお互いの摺合せが必要であるように思われる。実用的なモデルリスク計量手法の提案は今後の課題であろう。

2) オペレーショナルリスク計測は、決して多くないデータからかなり裾の大きな分布を推定する問題になるので、大数の法則・中心極限定理ベースの手法は適さないかもしれない。大偏差、あるいは新たなタイプの極限定理が役立つ可能性があるようにも思われる。

3) 市場で得られる価格情報などに基づきリスク量を計量・計算することは実務界でも広く、またかなり専門的に実施されているように思われる。一方、リスク発生のメカニズムを考察しながら内生的なモデル構築を考察するような研究の重要性も増しているように思われる。このようなモデルは、例えば、リスクの伝搬(浸透)や連鎖を計測する際に必要になると考えられる。

4) 高頻度データ、高解像度データをどう分析し、何を得るかは試みが始まっているがまだ発展の余地がある。

5) 保険数理理論と金融ファイナンス理論の融合・統合は(個別問題レベルで構わないが)考察を深めるべきである。理論的見地からの研究者の提案はいくつもあるかと思われるが、実用化に向けたブラッシュアップが更に必要と思われる。金融市場リスクを負った保険商品、その逆に保険のリスクを負った金融商品の重要度は今後増す一方である。

 

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

1) 実用的モデルリスク計量化手法の提案:実務家の捉え方、数理科学分野や数理経済学分野で提唱されているモデル不確実性(model ambiguity, uncertainty)の捉え方を摺合せと更なる発展。

2) オペレーショナルリスク計測に使われるべき、数理的手法の考察と発展:大偏差ベースや新しい型の極限定理の考察・応用など

3) 理論的見地からの提案:信用リスクの相関・連鎖、流動性リスク、伝搬(浸透)性リスクの計測・計算に役立つリスク発生のメカニズムも考慮した内生的モデルの構築の重要性

4) 高頻度取引やネットワーク構造を持つ中で伝搬していくリスクを計測していくのに適したリスク尺度の提案

5) 高頻度データ、更に金融に纏わる所謂"ビッグデータ"を解析する統計的・情報科学的手法の考察・発展

6) 保険数理理論と金融ファイナンス理論の融合・統合を目指した個別研究の取り組み(あくまで個別研究の中での統合が積み重ねられた後にのみ、両理論の融合が成されていくと考える)。

7) 金融リスクの監督者側が規制にどう動くか、金融機関側がどう対応するかは各金融機関の哲学や思惑が絡んだ極めて政治的な問題であるように思われる。数理科学研究者の考察項目ではないかもしれないが、応用・社会への還元等を意識する限りは重要な注意点であると思われる。

今後の展開・フォローアップ

1) 大阪大学金融・保険教育研究センターウェブページにて当日の講演に用いられた資料を公開してある(講演者の了解が得られたものに限る)。

2) 個別の問題で関心度の高いものについて、今後はよりテーマを絞り込み少人数形式で勉強会・小研究集会などを催し、考察・議論を深めたいと考えている。