「京」コンピュータのような優れた装置の登場により、計算科学分野のチャレンジは物性の理解から物質デザインへと裾野が広がってきている。進むべき軸は「空間」「時間」「精度」の3つに大別され、物理・材料科学と、数学・情報・計算機科学の連携が必要である。
「空間軸」のチャレンジは順調に進んでおり、第一原理計算を実空間で実装することで数万原子系でも効率的に動作する手法に目処がつきつつある。そこでは、巨大次元の固有値問題から目的の情報をうまく抽出するための数理的工夫などが取り込まれている。
一方、「時間軸」の取り扱いは「空間軸」ほど容易ではない。meta-dynamics のように位相空間内の極小点から隣の極小点への脱出を加速する手法が考案・適用されてきてはいるが、現状は ad-hoc 感が強くまだ発展の余地が大きい。
「精度」に関しては、密度汎関数法の適用が困難な系(強相関電子系や励起状態の記述が必要な系など)の計算量はシステムサイズに対してすぐに発散し、「京」コンピュータを用いても扱える系は限られてしまう。
また、アメリカでは Marerials Genome と称する巨大なデータベースプロジェクトが進められ、多様な物質についての網羅的な計算結果の蓄積を通して新材料の発見・開発・製品化に要する時間を半分にすることが目的に掲げられている。日本でも、Material Informaticsが提唱され、データマイニングに基づいて構造・物性の予測モデルを構築し、適切なスクリーニングを経て材料創成を行ったうえで結果をフィードバックするという物質創成のサイクルの構築が構想されている。 |