数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 計算材料科学と数学の協働によるスマート材料デザイン手法の探索
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明 、計測・予測・可視化の数理 、最適化と制御の数理
キーワード 計算材料科学 、離散幾何学 、階層構造 、マテリアル・インフォマティクス 、物性予測
主催機関
  • 東北大学原子分子材料科学高等研究機構
運営責任者
  • 小谷 元子
開催日時 2013/03/13 00:00 ~ 2013/03/15 00:00
開催場所 東北大学原子分子材料科学高等研究機構
最終プログラム 計算材料科学と数学の協働によるスマート材料デザイン手法の探索
――階層構造を解析する――

http://www.wpi-aimr.tohoku.ac.jp/mathematics_unit/japanese/coop-mathworkshop2013/
日時:2013年3月13日(13:00) - 15日(15:00)
場所:東北大学原子分子材料科学高等研究機構 セミナー室(2階)
主催:東北大学WPI-AIMR
協賛:CMSI「計算物質科学イニシアティブ」
組織委員:常行真司(東京大学)、赤木和人(東北大学)、尾畑伸明(東北大学)、
     鹿野豊(分子科学研究所)、塚田捷(東北大学)、廣川真男(岡山大学)、
     小谷元子(東北大学)

趣旨:日本が世界的優位を誇る材料科学は、これまでの豊富な経験の積み重ねと厚い研究者層による最先端研究に支えられてきた。その対象が複雑高度化する中でコンピュータを用いた機能発現の機構解明と材料設計はますます重要な役割を担いつつあるが、近年のハードウェアの性能向上と洗練されたソフトウェアの蓄積は単なる高精度化や大規模化を超えて質的に異なる解析を可能性とする域に達し、材料科学の新たなフェーズが始まろうとしている。しかしながら、サイズや時間の階層を超えてミクロとマクロをつなぐにはまだ種々の困難が残されており、その克服には従来にない発想が必要とされている。一方、数学・数理科学も独自の発展と成熟をとげ、理想状態から離れた複雑な系の解析手法や大量の情報の中に潜むデータ構造を抽出する手法など、階層横断を可能にするスケール変換の理論が編み出されている。そこで本ワークショップでは、これまで数学・数理科学者と計算材料科学者との間に十分な情報交換の場がなかったという反省のもと、各々の分野の第一人者が「階層構造の解析」をキーワードに課題の所在や最新手法をサーベイし、数学・数理科学と計算材料科学とがどのように協働できるか討論する。これを端緒として継続的な交流と具体的な連携を行い、スマート材料のデザイン手法の新展開を目指す。

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プログラム
【13日】
13:00-13:50 「計算材料科学の現状と課題(全体サーベイ)」 常行真司(東京大学) 
13:50-14:10 「AIMRにおける数学-材料連携への挑戦」 小谷元子(東北大学)
14:10?14:40 「計算材料科学と階層性」 赤木和人(東北大学) 
14:40-15:00 討論:加藤毅(京都大学)、杉野修(東京大学)
Tea Break
15:20-15:50 「熱力学量と相転移(拡張アンサンブル法と熱力学的down-folding)」
吉本芳英(鳥取大学)
15:50-16:20 「クラスター展開法による第一原理熱力学」 世古敦人(京都大学)
16:20-16:40 討論:杉野修(東京大学)、大野宗一(北海道大学)
16:40-17:10 「確率的情報処理への統計力学的アプローチ」 田中和之(東北大学)
17:10-17:30 討論:安田宗樹(東北大学)、大関真之(京都大学)

【14日】
9:00- 9:40 「Materials Informaticsの諸問題」 田中功(京都大学) 
9:40-10:00 討論:鹿野豊(分子科学研究所)
10:00-10:30 「コンピューティクスによる物質デザイン:ナノ構造の物性探索」
押山淳(東京大学)
10:30-10:50 討論:土田英二(産業技術総合研究所)
10:50-11:20 「離散と連続をつなぐ大規模シミュレーション(仮題)」
大野宗一(北海道大学)
11:20-11:50 「流体力学極限について」 永幡幸生(新潟大学)
11:50-12:10 討論:針谷祐(東北大学)
昼食
13:10-13:40 高次元データの次元削減            福水健次(統計数理研究所)13:40-14:00 討論: 平岡裕章
14:00-14:30 「計算アルゴリズムと計算科学(仮題)」 稲葉真理(東京大学)
14:30-14:50 討論:星健夫(鳥取大学)、吉本芳英(鳥取大学)
14:50-15:20 「計算トポロジーの現状」 平岡裕章(九州大学)
15:20-15:40 討論:中村壮伸(東北大学)
15:40-16:20 ポスター発表
16:20-17:50 総合討論「計算材料科学と数学の連携」  座長 塚田捷(東北大学)
 討論者:常行、田中、土田、鹿野、廣川、赤木、小谷、講演者

【15日】講演会
9:00- 9:40 「ゆらぎ、遅い緩和、階層性」 山本量一(京都大学)
9:50-10:30 「計算物質科学の新手法」 杉野修(東京大学)
10:40-11:20 「超離散化によるパターンの枠組みの導出」 加藤毅(京都大学)
11:30-12:10 「量子ウォークの統計的性質」 瀬川悦生(東北大学)
昼食
13:30-14:10 「数学・計算材料科学・HPC分野の融合としての大行列数理アルゴリズム」
星健夫(鳥取大学)
14:20-15:00 「(人工)原子と光の相互作用の数理から量子デバイスへ」
廣川真男(岡山大学)
参加者(総数、内訳) 70名
当日の論点

近年のハードウェアの性能向上と洗練されたソフトウェアの蓄積は単なる高精度化や大規模化を超えて質的に異なる解析を可能性とする域に達し、コンピュータを用いた機能発現の機構解明と材料設計により、材料科学の新たなフェーズが始まろうとしている。しかしながら、サイズや時間の階層を超えてミクロとマクロをつなぐにはまだ種々の困難が残されており、その克服には従来にない発想が必要とされている。「階層構造の解析」をキーワードに課題の所在や最新手法をサーベイし、数学・数理科学と計算材料科学とがどのように協働できるが討論することが本研究会の趣旨である。

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

「京」コンピュータのような優れた装置の登場により、計算科学分野のチャレンジは物性の理解から物質デザインへと裾野が広がってきている。進むべき軸は「空間」「時間」「精度」の3つに大別され、物理・材料科学と、数学・情報・計算機科学の連携が必要である。

「空間軸」のチャレンジは順調に進んでおり、第一原理計算を実空間で実装することで数万原子系でも効率的に動作する手法に目処がつきつつある。そこでは、巨大次元の固有値問題から目的の情報をうまく抽出するための数理的工夫などが取り込まれている。

一方、「時間軸」の取り扱いは「空間軸」ほど容易ではない。meta-dynamics のように位相空間内の極小点から隣の極小点への脱出を加速する手法が考案・適用されてきてはいるが、現状は ad-hoc 感が強くまだ発展の余地が大きい。

「精度」に関しては、密度汎関数法の適用が困難な系(強相関電子系や励起状態の記述が必要な系など)の計算量はシステムサイズに対してすぐに発散し、「京」コンピュータを用いても扱える系は限られてしまう。

また、アメリカでは Marerials Genome と称する巨大なデータベースプロジェクトが進められ、多様な物質についての網羅的な計算結果の蓄積を通して新材料の発見・開発・製品化に要する時間を半分にすることが目的に掲げられている。日本でも、Material Informaticsが提唱され、データマイニングに基づいて構造・物性の予測モデルを構築し、適切なスクリーニングを経て材料創成を行ったうえで結果をフィードバックするという物質創成のサイクルの構築が構想されている。

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

計算材料科学は最先端の技術により第一原理計算に基づいて数万原子系の構造と電子状態を議論できるところまで来ており、それ自体、新しい数理科学や計算機科学を取り入れた成果である。しかし大規模系に対応する広大な位相空間をうまくサンプリングことが追いついておらず、材料科学としては不可欠な構造探索・熱力学量の評価・相図の記述が困難なまま残っている。また、この先、数万(あるいは数億)原子系の位相空間サンプリングが実現できたとしても、多次元系の膨大なデータから材料設計の指針となる有用な情報を抽出するのは難しいだろう。

一方、Informatics の手法を用いて多くの第一原理計算の結果に対するデータマイニングやスクリーニングを行い、材料物質の物性予測やデザインにつなげようという取り組みも始まっている。現在は primitive な説明変数とバルク物性とを結びつける段階だが、実材料を対象とする以上、粒界やヘテロ界面などの高次構造の取り扱いは不可避である。

 数学においては、従来微分可能性を過程して構築されてきた数学の様々な手法や概念を離散化する試みが進展している。

ビッグデータと言うが、実際のデータは租な分布であり、データの構造を見出し、それらが乗っている空間を如何に見つけるかが新しい挑戦であり、数学への期待は高い。

今後の展開・フォローアップ

今回は、数学と計算材料科学の第一遭遇としてワークショップを企画した。予想以上に、共通の問題意識、手法が見出され、活発な議論があった。継続的に同様のワークショップを開催する予定である。また、クローズドなメンバーでより絞込みの議論を行い、共同研究につなげていく。Materials Informaticsに関しては、その重要性を日本国内で浸透させ、現状を把握するための国際研究集会の開催が必要である。