数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 不均質媒質における異常拡散の数理と環境問題への応用
該当する重点テーマ リスク管理の数理
キーワード 異常拡散 、環境 、土壌 、汚染物質 、数理 、数値手法 、実験
主催機関
  • 東京大学大学院数理科学研究科
運営責任者
  • 山本 昌宏
  • 坪井 俊
開催日時 2013/03/07 13:00 ~ 2013/03/08 15:30
開催場所 東京大学大学院数理科学研究科
最終プログラム 「不均質媒質における異常拡散の数理と環境問題への応用」
2013年3月7-8日 
場所:東京大学数理科学研究科 123号室

     会場へのアクセスは下記にてご確認く ださ い。
      http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/map02_02_j.html
      http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_27_j.html

産業現場の諸課題や環境問題と関連している不均 質媒質における異常拡散の数理と応用に関して研究発表を行い、この分野における数学者、工学者、産業関連の研究者の間で討論を行い、 数理的側面とその応用、実践につき理解を深め、平成25年度以降の定期的な研究会開催のためのキックオフとします。
なお、本研究集会は科学技術試験研究委託事業「数学・数理科学と諸科学・産業との恊働によるイノ ベー ション創出のための研究促進プログラム」により開催され、東京大学大学院数理科学研究科GCOEとの共催です。
            オーガナイザー 坪井 俊、山本 昌宏 
(東京大学大学院数理科学研究科) 
            連絡先 山本昌宏(myama@ms.u-tokyo.ac.jp)

3月7日 (木)
13:00-13:10 開会の辞
        坪井俊 東京大学大学院数理科学研究科長       
13:10-14:00
中川淳一(新日鐵住金株式会社 先端技術研究所)
「不均質媒体中の異常拡散のマルチスケール数理解析の側面について」
要旨:土壌中の異常拡散をテーマに、数年に亘り数学・工学・物 理・産 業の異分野連携のオープンイノベーション・プラットホームで議論してきた内容を、マルチスケール数理解析の視点から紹介し、今後の展開について議論したい。
14:00-14:50
熊谷隆(京都大学数理解析研究所)
「ランダムコンダクタンスモデルにおける異常拡散」
要旨:正方格子上の各ボンドにランダムな抵抗(あるいはコンダクタンス)を置く事により、ランダムなネットワークを考える。本講演では、このような
ネットワーク上の熱拡散に関する近年の研究についてサーベイ講演を行う。特に、コンダクタンスがheavy tailを持つときtrappingの影響で異常拡散が現れることに焦点を当て、そのメカニズムを解説する。
15:00-15:50
羽田野祐子(筑波大学システム情報 工学研究科)
「放射性核種による地表汚染とそのゆらぎについて」
要旨:チェルノブイリや福島における事故で、放射性核種の地表汚染の状況について説明し、レビフライトモデルに よって 地表汚染濃度の予測を行う方法を提案する。10年後の汚染マップを作成するため、 数値計算によって非整数階微分方程式の解を求めた。また、大気中核種濃度のゆらぎの性質を調べ、平均からのずれが±σ、±2σ、±3σとなる大気中濃度の推移をグラフ化した。これは内部被曝のリスク推定に役立たせたい。
16:00-16:50
松島亘志(筑波大学システム情報工学研究科)
「粒状体堆積構造の統計力学的性質について」
要旨:地盤などの粒状体中の様々な物質移動には、粒子スケールの堆積構造が影響を及ぼす。本講演では、数値シミュレーションで作成した単純な2次元円粒子群の堆積構造を対象として、その統計力学的性質について検討した結果を報告する。

3月8日 (金)
10:00-10:50
竿本英貴(産業技術総合研究所 活断層・地震研究センター)
「不規則形状粒子からなる多孔質体内の間隙流体の流動様式
-可視化実験結果と格子ボルツマンシミュレーション結果の比較-」

要旨:砂粒子のような不規則形状粒子からなる多孔質体内の間隙流体の挙動を定量的に把握することを目的として,
レーザー光を援用した試験体内の可視化および数値流体解析を行ってきた.今回の発表では,これらの手法から得られた間隙流体の速度分布や流体粒子の流線を示し,理想的な移流・拡散との違いについて議論したい.
11:00-11:50
赤木剛朗(神戸大学大学院 システム情報学研究科)
「非線形拡散方程式の解の挙動について」
要旨:非線形拡散方程式の解の挙動は、 古典的な 線形の拡散方程式の解とは大きく異なる様相をしばしば表す。また方程式自体に着目すると、拡散係数が解(つまり拡散する物質の密度)に依存しているため、方程式が記述する拡散現象は広い意味で異常拡散の一種と見なすことがで きる。本講演では、主に講演者が近年取り組んできた非線形拡散方程式の解の挙動に対する研究について概説する。特にプラズマの特異拡散の 記述などに現れる Fast diffusion 方程式、多孔質媒体中の流体の拡散を表す多孔質媒体方程式、変動指数を含む非線形拡散方程式、無限大ラプラシアンと呼ばれる非線形作用素を含む拡散型方程式につ いて触れ、それらの解の挙動について(正常)拡散方程式の解の挙動と比較しながら説明する。余裕があれば、異常拡散を記述する偏微分方程式に関連する話題についてもふれたい。

13:30-14:20
N. Pozar (東京大学大学院数理科学研究科)
「Homogenization of a Hele-Shaw-type problem in periodic time-dependent media」
要旨:In this talk we discuss a generalization of the Hele-Shaw problem, a popular model of the flow in a porous medium, and study the behavior of its solutions as the size of inhomogeneity of the medium approaches zero. The main new feature of this nonlocal free boundary problem is the periodic dependence of the free boundary velocity on time as well as on position. Unfortunately, this dependence breaks the obstacle problem structure, which is usually used to define weak solutions and facilitates homogenization, and therefore a notion of viscosity solutions is necessary. We extend the comparison principle to allow for time-dependence and even discontinuity of the free boundary velocity, and obtain well-posedness of viscosity solutions. This provides a reasonable setting for homogenization. Since the standard technique of correctors is not available, we improve the geometric method of I. Kim (2007), based on the pioneering work of Caffarelli, Souganidis and Wang (2005), featuring an auxiliary obstacle problem.
In contrast to the previous works, we identify the homogenized free boundary velocity via a ``mesoscopic flatness'' of the free boundary. We develop new tools to handle this quantity, in particular a boundary cone flatness estimate. Finally, we show that, in the homogenization limit, the solutions converge to the solution of a homogenized Hele-Shaw-type problem.
14:30-15:20
上坂 正晃(東京大学大学院数理科学研究科)
「Homogenization in a Thin Layer with an Oscillating Interface and Highly Contrast Coefficients」
要旨:We consider the homogenization problem of the elliptic boundary value problem in a thin domain which has a high and low conductivity zones. In our model, two media are separated by a highly oscillating interface. The asymptotic behavior is governed by the order of the thickness of the domain, oscillation period of the interface and contrast between two media. In this talk, we show that the limit problem is changed by these parameters and introduce the two-scale convergence result in a thin domain which is the key ingredient of the proof.

15:20-15:50

金川哲也(東京大学大学院工学系研究科)

「気泡を含む不均質液体に対する非線形波動方程式の統一的導出」

要旨:液体中の多数の気泡の非線形振動と,そこから誘起される音の分散・散逸などが
競合する,気泡流中の非線形波動現象を紹介する.非線形・分散・散逸などの波
の諸性質のさまざまな競合を,弱非線形のレジームで統一的に取り扱う一手法を
述べ,KdV方程式や非線形Schrodinger方程式などの非線形発展方程式を導出する.

以上
参加者(総数、内訳) 32 名(内訳:政府関係2名、産業1名、大学関係29名)
当日の論点

(1) 中川淳一氏の論点:
不均質媒体中の異常拡散は取り扱うスケールが数km~数10mと広くマルチスケールモデルによる解析が必要である。そのような解析は端についたばかりであり、今後の展開のための知見の整理を行った。
(2) 熊谷 隆氏の論点:
ランダムなネットワーク上の熱拡散に関する近年の研究についてサーベイをし、そのような拡散において異常拡散が現れる場合を論じた。
(3) 羽田野祐子氏の論点:
チェルノブイリや福島における事故後の放射性核種の地表汚染に対して、レビフライトモデルによる地表汚染濃度の予測を行う方法を提案した。また10年後の汚染マップを作成するために非整数階微分方程式の利用を提案した。
(4) 松島亘志氏の論点:
地盤などの粒状体中の様々な物質移動に関して、数値シミュレーションで作成した
単純な2次元円粒子群の堆積構造の統計力学的性質について検討した。
(5) 竿本英貴氏の論点:
砂粒子のような不規則形状粒子からなる多孔質体内の間隙流体の挙動の定量的
な把握のためにレーザー光を援用した試験体内の可視化および数値流体解析の成果を紹介した。
(6) 赤木剛朗氏の論点:
非線形拡散方程式の解の挙動は、 古典的な線形の拡散方程式の解と異なる様相を
しばしば表す。そのような挙動は異常拡散の一種と見なすことができ、主に同氏による非線形拡散方程式の解の挙動に対する研究について概説した。
(7) N. Pozar氏の論点:
ヘレ・ショー流れの均質化法の数学解析を解説し、マルチスケールモデル構築のための参考となる知見を解説した。
(8) 上坂 正晃氏の論点:
拡散係数が大きく変動すれる薄い層における定常場の方程式の均質化モデルの数学解析を論じた。
(9)金川哲也氏の論点
気泡を含む不均質液体における非線形波動方程式の統一的導出法を論じた。

 

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

既にできていること:非整数階拡散方程式および非線形拡散方程式の数学的理論、ミクロモデルとマクロモデル個々の解析手法、ネットワーク上の拡散の数学理論、不均質媒質中の拡散現象の実験と観測データ取得、均質化法の数学的理論

できていないこと:理論とラボ実験の照合(ラボ実験におけるデータを非線形拡散方程式や非整数階拡散方程式でシミュレートすること)、フィールドデータのシミレーションのための数学理論の改良

 

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

(1)現時点で確立された数学モデルは偏微分方程式論や確率論などに基づき相互に独立に考察されており、現象の解釈のために双方の数学理論に通暁した専門家とのネットワークを構築し維持すること。

(2)(1)に基づき現実により即した数学モデルの構築とその数学理論の完成

(3)実験を担当する研究者との頻繁な研究連絡。特に(2)の数学モデルによる実験データを解釈するための共同作業を行う。

(4)チェルノブイリや福島における事故後の放射性核種の地表汚染予測のためにレビフライト・モデルや非整数階微分方程式を利用すること。そのために数学解析、数値手法、実験を有機的に実施すること。

今後の展開・フォローアップ

今後は東京大学院数理科学研究科の数物フロンティア・リーディング大学院プログラムの枠組みで1か月に1回程度の研究会を開き、上記の課題の解決にあたる。