統計数理研究所 中 村 隆
コウホート分析は,継続調査から得られる表1のようなコウホート表データから,年齢・時代・コウホート効果を分離する方法である.年齢効果とは,世代や時代に関わりなく,人間の生理的な側面やライフステージと関連して変化していく部分のことである.この効果が大きい意見や意識は,個人としては変わっていっても,社会全体としてはその分布は比較的安定する.
時代効果とは,年齢や世代を問わず,社会全体が同じ方向に変わっていく部分のことである.この効果が大きい意見や意識は,変化の幅は大きいが,逆の方向にまた大きく転換する可能性もあり,流動的である.
コウホート効果とは,年齢や時代による変化以外の,生まれ育った時代環境を反映した他の世代と区別できる特徴の部分である.この効果が大きい意見や意識は,年齢効果に対して,個人としてはあまり変化しないが,古い世代が退場し新しい世代が登場するにしたがって,社会全体は大きく変わっていく.
実際の意見分布などの時系列変化が年齢・時代・コウホートの単独の要因で説明できることは少なく,3つの影響要因が混交していると考えるのが妥当であろう.しかも現実のデータはサンプリング等の誤差をふくんでいるから,事態は一層複雑である.したがって,コウホート分析は,次のような分解を目的とする統計的手法であると言いかえることができる.すなわち,
ある時代のある年齢
層を特徴づける数量
= <年齢効果> + <時代効果> + <コウホート効果> + <誤差>
加齢による 時勢による
世代に
変化の部分
変化の部分 固有の部分
うまく3つの要因が分離できれば,過去における社会意識の変化の構造が明らかになるばかりでなく,将来の動向に関してある程度の予測も可能になってくる.
目次
1. はじめに
2. コウホート表
3. コウホート分析
4. 識別問題とパラメータの漸進的変化の条件
5. べイズ型モデルとABIC
6. 分析例
参考文献
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