日本におけるIRの動向:経営IR,教学IRから研究IRの誕生と推移
要旨
米国の大学で1960年代から発展してきたIRへの関心が近年日本でも高まっている.米国におけるIRは大学の経営支援,意思決定支援,戦略計画,教学改善とアセスメントといった領域では定着しているが,研究に関するIRは,機関内のIR部門ではなく,研究担当部門が行うなど分散型システムが基本である.一方日本では,グローバル大学を多くの大学が目指し,ランキング上昇という必要性かつ外的な要因から「研究IR」に従事する大学が増加している.日本におけるIRは政策動向にあわせて変化し,その多様な機能から,IRの概念を統一することは極めて困難でもある.本稿では,第一に,IRの定義の多義性を検討しつつ,日本の高等教育を巡る環境との関係からIRの動向を検討する.次に,日本における研究IRを本研究では,「掲載ジャーナルの質(質的指標),論文数や被引用数(量的指標)の測定等を行い,機関としての研究力向上に資する活動」と定義し,研究IRに携わっているURAを対象にしたウェブ調査を通じて,研究IRによる研究成果の可視化がURAを活用している大学のどの層の大学に影響を与えているのかを検討する.調査結果からは,研究IRが,主に大規模研究大学だけではなく,1件あたりの採択金額の小さい大学ほど改善効果があるという知見が得られた.
キーワード:IR,研究IR,URA調査,研究成果の可視化,大学ランキング.
学術文献DBにおける著者識別のためのトピックモデリングの利用とその性能比較
要旨
本研究では,学術文献データベースから,特定の組織に所属する研究者が著者となっている論文リストを,統計的自然言語処理の一手法であるトピックモデリングを用いて抽出する方法を提案する.当該組織名が所属に含まれている論文に対してトピックモデリングを適用し,著者ごとの特徴ベクトルを作成する.これに基づいて,当該組織の研究者の名前のみがマッチして,組織名が含まれていない論文について著者識別を行う.この識別性能を,複数のトピックモデル(Latent Dirichlet Allocation,Dirichlet Multinomial Regression,Correlated Topic Model)で比較した.
キーワード:学術文献データベース,研究力評価,統計的自然言語処理,Institutional Research.
トピックモデルを用いた研究動向の分析
要旨
少子高齢化等に伴い大学の経営難が問題になっている.そのため,大学においても戦略的に学内の支援対象を選択する必要に迫られており,その際には,研究活動の状況や特徴を把握し,評価しなければならない.研究評価の手法としてインパクト・ファクター等の論文の引用情報を用いた手法が利用されることが多い.しかし,引用分析にはいくつかの問題が指摘されている.そこで,研究内容が直接的に表現されている論文の要旨を用い,Hierarchical Dirichlet Process(HDP)をLatent Dirichlet Allocation(LDA)に適用したモデルを利用して要旨内のトピックを抽出し,対象とする組織やグループ毎の研究の動向を把握するための分析方法を紹介する.本研究では,統計科学分野の著名な論文誌と統計科学に関連する二つの研究所の論文の要旨を用いて分析を行い,研究の特徴や論文の発行年度毎の動向が把握できることを確認した.
キーワード:トピックモデル,ノンパラメトリックベイズ,階層ディリクレ過程,Institutional Research.
大規模大学における研究分野の研究実績の可視化
要旨
大規模大学では,多くの研究者が在籍し,大小様々な規模で研究活動が行われている.また,研究領域は多岐に渡るため,大学全体の研究活動状況を把握することは困難である.学内研究者により活発に成果を挙げている研究領域を把握することは,評価の観点だけでなく学内研究助成や研究組織の構成などにも必要なことである.そこで本研究では,学術文献データベースに収録されている論文のタイトルとアブストラクトのテキストデータに対して,トピックモデルを用いてその論文の研究領域を推定し,研究業績の多い研究領域の把握を試みた.更にトピックモデルの結果を自己組織化マップを用いた可視化を行うことで,トピックモデルで分類された研究領域の特徴や研究領域間の関連性の把握ができることを示した.そして,自己組織化マップの結果を利用したいくつかの可視化を提案し,学内の研究傾向やその経時的変化を把握するための方法を例に示した.
キーワード:トピックモデル,自己組織化マップ,可視化.
学術分野における論文および統計学論文の引用状況について
要旨
ビッグデータ分析や機械学習などの出現により,統計学は近年大きな注目を集めている.そして学術論文においては,これまでもデータを正しく分析し新しい知見を裏付けるために統計学が広く使われてきた.ただ現代社会においては非常に多くの学術分野があり,それらの間の競争はますます激しくなっている.そのような競争の中で統計学が生き残るためには,他の学術分野論文への統計学論文の影響を客観的に測定することによって統計学の重要性を示すことが重要である.本研究では,各学術分野内の論文引用状況とそこでの統計学論文の引用状況を分析する.そのために学術論文データベース Web of Science を利用して学術分野を定義し,分析に必要となる引用数を集計した.
キーワード:論文引用解析,学術分野,Web of Science.
学術文献DBを用いた共著分析によるIoT研究における異分野融合の国際比較
要旨
2011年,ドイツ技術科学アカデミーとドイツ連邦教育科学省は,「あらゆる社会システムの効率化」「新産業の創出」「知的生産性の向上」を目指した技術的フレームワークIndustry 4.0を発表した.Industry 4.0は,サイバーフィジカルシステムというコンセプトのもと,IoT技術,Big-Data技術,人工知能技術を駆使して,現実世界(フィジカル空間)での現象を膨大な観測データとして蓄積,サイバー空間の強力な計算資源と結びつけて意思決定に活用するものである.Industry 4.0発表後,それら要素技術の研究が世界的に活発化している.本稿は,フィジカル空間とサイバー空間の橋渡しをするIoT技術の研究に着目,異分野融合による研究促進の視点から,各国の研究促進の戦略を分析して考察するものである.分析では,一連の研究で導出された分析手法と共に,主成分分析,階層型クラスター分析を行い,多角的に考察を展開した.分析の結果,IoT研究の異分野融合では,「工学とコンピューター科学の連携比率の高さ」という技術優先的アプローチ,そして,「化学と臨床医学の連携比率の高さ」というアプリケーション的アプローチにより,IoT論文上位10か国を3つのグループに分類することができた.
キーワード:IR,研究力評価,異分野融合,共著分析,イノベーション.
グループ正則化に基づく順序ロジットモデルにおける隣接クラスの統合
要旨
本稿では,多クラス分類を目的とした順序ロジットモデルの枠組みにおいて,クラスを統合する方法を提案する.クラスを統合することによって,モデルの解釈が容易になるとともに,冗長なクラスが存在する場合はその冗長性を排除することができる.クラスの統合は隣接する各クラスの事後確率が等しくなるときに実行し,この目的のために構造的正則化の一つであるグループ正則化を用いる.グループ正則化は微分不可能な点を含むため,モデルに含まれるパラメータの推定値は,交互方向乗数法に基づく推定アルゴリズムにより得る.正則化パラメータの値は,グループ正則化により推定されたモデルの自由度をもつベイズ型情報量規準により選択する.モンテカルロ・シミュレーションおよび実データへの適用を通して,提案手法の有効性を検証する.
キーワード:グループlasso,交互方向乗数法,順序付きカテゴリカルデータ,隣接カテゴリーロジットモデル.