第67巻第2号157−164(2019)  創立75周年記念号  [研究資料]

モデリング変革の4半世紀を振り返って

中央大学 樋口 知之

要旨

私が研究所に入ったのは平成元年4月,また所長を退任すると同時に研究所を退職するのは,平成が終わる直前の平成31年3月であったため,平成の30年間は私にとって研究者人生そのものである.本稿では,データにもとづく予測や判別といった統計的思考の根幹を成す,統計的モデリングにかかわる技術の大きな進展を,実体験した私の視点で概括する.

キーワード:ベイズモデリング,粒子フィルタ,カーネル法,深層学習.


第67巻第2号165−180(2019)  創立75周年記念号  [研究ノート]

統計科学の文法と論理的推論

統計数理研究所 椿 広計

要旨

本論文は,Goertz and Mahoney (2012)に従って,法則を秩序とする科学の主要な研究プロセスが統計的・定量的探求プロセスであるのに対して,プログラムを秩序とする科学の主要な研究プロセスが,論理的・質的探求プロセスであるとの仮説を提示する.その裏付けのために,統計科学的立場から,定量的プロセスと論理的プロセスの差異が顕著となる幾つかの状況を示す.更に,プログラム科学と法則科学との融合可能性についても議論する.

キーワード:科学の文法,プログラム,法則,定量的研究,定性的研究.


第67巻第2号181−192(2019)  創立75周年記念号  [総合報告]

時系列解析における状態空間モデルの利用

東京大学 北川 源四郎

要旨

時系列解析において状態空間モデルは,統計的制御における最適制御則の導出やARMAモデルの最尤推定など陽な形で解が得られない問題に対する解を求めるための逐次計算を実現するための計算手段として導入されたが,1980年頃からは非定常時系列モデリング,非線形モデリング,信号分離,異常値処理,自己組織型モデリング,データ同化など,様々な時系列モデリングを統一的に取り扱うためのプラットフォームとしての役割りを果たしてきた.その一方で,状態空間モデルに関連した状態推定のために,カルマンフィルタ,ガウス和フィルタ,非ガウス型フィルタ,粒子フィルタなどの様々なアルゴリズムが開発されてきた.
本項では,統計数理研究所の研究を中心に,状態空間モデルと関連する計算法およびその応用について概観する.

キーワード:状態推定,非定常モデル,非線形モデル,カルマンフィルタ,非ガウス型フィルタ,粒子フィルタ.


第67巻第2号193−214(2019)  創立75周年記念号  [総合報告]

情報量規準AICの統計科学に果たしてきた役割

中央大学/現 九州大学 小西 貞則

要旨

情報量規準 AIC は,導出の基本概念を尤度原理と Kullback-Leibler 情報量に置き,これを予測という視点から理論を展開したことが本質的であった.モデリングの過程におけるモデルの評価と選択は,多様なモデルとその推定法が提唱される度に問題が提起され,AIC の基本的考え方を理論的・実際的側面から研究することによって,新たなモデル評価基準の提唱へと繋がっていった.本論文では,AIC の果たしてきた役割を概観し,一般に情報量規準と呼ばれるモデル評価基準がどのように提唱されてきたかを述べる.また,ベイズアプローチに基づく予測分布モデル等の評価を目的として提唱された,AIC に基礎を置く情報量規準についてもふれる.

キーワード:AIC,ABIC,BIC,DIC,GIC,PIC,TIC,WAIC.


第67巻第2号215−228(2019)  創立75周年記念号  [研究ノート]

統計地震学の発展と地震活動予測:個人的経験と展望

統計数理研究所 尾形 良彦

要旨

地震予測の観点から統計地震学の発展と筆者の研究経験を説明する.点過程モデルによる地震活動の予測と統計的診断解析および地震活動の物理現象との関わりに焦点を当てる.

キーワード:地震活動,点過程モデル,ETASモデル,階層ベイズ法,確率予測,前震の識別.


第67巻第2号229−240(2019)  創立75周年記念号  [総合報告]

チューブ法の理論・応用とその周辺

統計数理研究所 栗木 哲

要旨

チューブ法は,正規確率場の最大値の上側裾確率を精度良く近似する積分幾何学的手法である.同じ目的のための手法として,オイラー標数法がある.本稿では,チューブ法とオイラー標数法の考え方を概観し,統計学への応用,ならびに最近の発展について解説する.

キーワード:オイラー標数法,同時信頼区間,どこでも効果,射影追跡,特異モデル,VBMデータ解析.


第67巻第2号241−253(2019)  創立75周年記念号  [研究詳解]

粒子フィルタとデータ同化

統計数理研究所/総合研究大学院大学 上野 玄太

要旨

粒子フィルタによる状態推定には,粒子と呼ばれる状態ベクトルの実現値が多数必要である.一方で,数値シミュレーションモデルを基盤とするデータ同化では,時間積分の計算コストが大きいことから,データ同化のアルゴリズムの計算コストを抑えることが要求される.多数の粒子を生成することと計算コストを抑えることは両立が難しい要求であるため,粒子フィルタによるデータ同化の方法は,現在のところ現業段階には至っておらず,研究段階にあるといってよい.粒子フィルタを適用する際の課題の一つは,各粒子に割り当てられる重みが1粒子に集中する,いわゆる退化の問題を限られた数の粒子でいかに克服するかである.
本稿では,重点サンプリング法により対処する方法として,陰粒子フィルタ(implicit particle filter)および等重粒子フィルタ(equivalent-weights particle filter)の考え方とアルゴリズムを解説した.

キーワード:粒子フィルタ,データ同化,重点サンプリング,陰粒子フィルタ,等重粒子フィルタ.


第67巻第2号255−276(2019)  創立75周年記念号  [総合報告]

統計数理研究所における最適化研究

政策研究大学院大学/統計数理研究所 土谷 隆

要旨

最適化は統計科学における重要な方法論である.最適化アルゴリズムの発展は新しいモデルの実用化を可能とし,新しいモデルの追及は,最適化アルゴリズムの進展をもたらす.統計科学の研究所としての統計数理研究所では,さまざまな形で最適化の研究が行われてきた.本論説では,統計数理研究所における最適化法の研究の展開について概説する.

キーワード:無限次元最適化,最急降下法,Kaczmarz法,非線形最適化,内点法,情報幾何.


第67巻第2号277−297(2019)  創立75周年記念号  [研究ノート]

標準コウホート表のコウホート分析モデルのデザイン行列について

統計数理研究所 中村 隆

要旨

継続調査で得られる年齢区分×調査時点形式の標準コウホート表データから年齢・時代・世代(コウホート)要因の効果を分離するコウホート分析モデルについて,3要因のデザイン行列を陽な表現により与えた.デザイン行列を,目視により与えるとともに,コウホート表のセルに1対1で対応するセルパラメータに等値制約と同値のゼロ和制約を課すことにより導出した.

キーワード:APCモデル,年齢・時代・世代効果,セルパラメータ,等値制約,ゼロ和制約,継続(反復横断)調査.