ご挨拶

センター長

医療健康データ科学研究センター長

松井 茂之

近年、様々な分野でデータサイエンスに対する期待が高まっていますが、医学・健康科学分野もその例外ではありません。最近では、分子/医療ビックデータを深層学習などの先端AI技術を用いて解析することで、生体・疾患機構の解明、創薬を含めた医療技術開発、さらには精密医療(precision medicine)の実現が大きく加速されると期待する方も多いことでしょう。その一方で、周到な研究デザインと統計的推測により、スモールデータから医療技術の確かなエビデンスを獲得するという重要な役割も忘れてはなりません。医療・健康分野におけるデータサイエンス(医療健康データサイエンス)への期待は今後ますます大きくなることは確実と思われますが、その一方で、その期待に十分応えられるデータサイエンスの体制は未だ整備されておらず、そこに大きなギャップがあります。すなわち、医療健康データサイエンスの教育と研究の充実は今後の大きな課題です。

医療健康データ科学研究センターは、統計数理研究所が長年蓄積してきたデータサイエンスの研究・人材育成の基盤と国内外の研究者ネットワークを母体として2018年4月に設立されました。そのミッションは、我が国の医療健康データサイエンスの教育・研究の底上げにつながる基盤形成事業を推進することです。設立からまだ2年余りではありますが、すでに多くの教育・研究活動の蓄積があります。

教育面では、医療健康データサイエンスの基盤をなす統計数理、生物統計学、理論疫学、機械学習の方法論・方法に関する系統的教育コース、公開講座、実地教育(on-the-job-training)、さらに、研究者コミュニティの共有財産となるようなe-learning教材など、多くの教育プログラムの開発を推進しております。研究面では、基盤数理・計算機技術から、医療技術・ヘルスケア開発、公衆衛生・社会医学研究などを想定した統計的方法論の研究、さらに、先端的な機械学習・AIアルゴリズムを用いたビックデータ解析など、多彩なプロジェクト研究を推進しております。

以上の事業は、新たに立ち上げた「医療健康データ科学研究ネットワーク」の活動と連動しております。このネットワークには、関連学会、全国の大学・研究機関、病院、企業から、すでに90以上の団体のご参加をいただいており、これまでにない非常にユニークなネットワークです。

今後の医療健康データサイエンスの真の発展は、統計数理・情報学分野と医学・健康科学分野の研究者が有機的に連携・協働する形を定着できるかにかかっています。今後センターは両分野の橋渡しの一翼を担うことができるよう、全力で努めて参ります。もちろん、これは皆様方のお力添え抜きには達成できません。引き続きのますますのご指導ご支援をお願い申し上げます。