第73巻第2号147−166(2025)  特集「生存時間解析と信頼性解析」  [原著論文]

非一様マルコフ過程から見たソフトウェア信頼性モデリングの諸相

広島大学 土肥 正
広島大学 岡村 寛之

要旨

本稿では,ソフトウェア信頼性モデリングの進展を体系的に整理し,非一様マルコフ過程(NHMP)を基盤とした統一的なアプローチについて外観する.従来の一様マルコフ過程(Homogeneous Markov Process: HMP)および非一様ポアソン過程(Non-homogeneous Poisson Process: NHPP)モデルを一般化し,一般化2項過程(Generalized Binomial Process: GBP)や一般化ポリア過程(Generalized Polya Process: GPP)といった柔軟性の高い新しいモデルを紹介する.さらに,ソフトウェアのプロダクトおよびプロセスメトリクスを活用した信頼性予測モデルについても論じ,その有用性を検証する.これらの実証結果は,実際のソフトウェア開発における信頼性評価に寄与するものであり,将来のより精緻なモデル構築やソフトウェア信頼性評価へ適用可能性を広げる.

キーワード:ソフトウェア信頼性モデル,非一様マルコフ過程,一般化2項過程,一般化ポリア過程,ソフトウェアメトリクス,信頼性予測.


第73巻第2号167−188(2025)  特集「生存時間解析と信頼性解析」  [研究詳解]

相関した競合リスクを伴う左側切断・右側打ち切りデータのベイズ流解析

北里大学 道前 洋史

要旨

生存時間解析は,ある基準となる時点から特定の事象(イベント)が発生するまでの時間を分析する手法であり,医学や疫学はもとより,経済学や社会科学など幅広い分野で活用されている.打ち切り,競合リスク,左側切断などは生存時間解析における古典的話題である.本稿では,競合リスクを伴う左側切断・右側打ち切りの生存時間データに焦点を当て,その代表的な4つの解析モデルを紹介する(独立モデル,コピュラモデル,ベイズ流独立モデル,ベイズ流コピュラモデル).特に,競合リスクにおけるコピュラを用いた潜在故障時間(周辺分布)の同時モデル化,同時モデルの条件付きによる左側切断のモデル化,尤度関数の構築,そしてベイズ推定量による周辺分布パラメータとコピュラパラメータの推定については詳細に説明する.シミュレーション実験では,現実的な条件設定(異なる周辺分布と左側切断割合の組み合わせ)で実施し,上記4つの解析モデルで各種パラメータを推定した.考察では,パラメータの推定性能を比較検討し,ベイズ流コピュラモデルにおける課題と今後の展望について述べる.

キーワード:コピュラ,事後平均,周辺生存関数,潜在故障時間,同時生存関数,ワイブル分布.


第73巻第2号189−211(2025)  特集「生存時間解析と信頼性解析」  [研究詳解]

従属打ち切りの下での治療効果推定のための要因計画・要因分析
—コピュラに基づく方法—

広島大学 江村 剛志
久留米大学 室谷 健太

要旨

治療などの要因が生存時間に与える効果を推定・検定するとき,古典的な正規分布に基づく推測法は適切でない.生存時間の解析では,分布型に依存しないノンパラトリック法が近年注目を集めている.本論文では,まず独立打ち切りの仮定下での生存時間の要因計画・要因分析のためのノンパラメトリック法を紹介し,それをコピュラモデルに基づいた従属打ち切りの仮定下での解析に拡張した方法を紹介する.続いて,この手法をR関数surv.factorial(.)を用いて実行する方法を解説する.これまで調べられていなかった,大域的検定(オムニバス検定)と局所的検定の性能を調べるシミュレーションを行い,これらの検出力特性を明らかにする.最後に,コピュラモデルに基づく手法を,結腸がんの切除手術を受けた被験者のデータに適用し,結果を吟味する.データ解析のためのRコードをウェブ上のSupplementで提供する.

キーワード:アルキメデスコピュラ,カプラン・マイヤー推定量,コピュラ・グラフィック推定量,実験計画法,マン・ホイットニー検定,マン・ホイットニー効果.


第73巻第2号213−238(2025)  特集「生存時間解析と信頼性解析」  [研究詳解]

天文学における生存時間解析:銀河の光度関数推定

名古屋大学/統計数理研究所 竹内 努

要旨

天文学の観測データは例外なく観測装置の検出限界に対応する切断を受けている.このようなデータから天体の統計量の分布関数を推定する際には,切断データの生存時間解析を用いるのが適切である.しかし,統計学で発展した生存時間解析は天文学分野には1980年代までまったく知られておらず,長らく天文学者が独立に考案した推定法が用いられてきた.天文学者による方法の多くは最終的には生存時間解析に帰着するものの数学的に未整理であり,統計的に体系だった議論がなされるようになったのは21世紀に入ってからである.本稿では,天文学における打ち切りデータ解析の応用として,銀河の光度関数推定について議論する.まず1変数の場合について天文データの特徴を詳しく紹介し,生存時間解析との対応を述べる.次に2変数の場合を導入する.2変数行動関数の推定は天体の標本の取り方(サンプリング)によっては切断に加え打ち切りも入り,一般的な議論は複雑になる.ここでは2変数光度関数推定法を最も一般的な形で構築することを試みる.

キーワード:多波長光度,銀河進化,光度関数,生存時間解析,切断,打ち切り.


第73巻第2号239−251(2025)  特集「生存時間解析と信頼性解析」  [総合報告]

COM-Poisson 分布について
—過小分散も過大分散も表現するポアソン分布—

中央大学 長塚 豪己

要旨

Poisson分布は,カウントデータの統計モデルとして,最もよく知られた分布である.しかし,Poisson分布には,平均と分散が等しいという意味での等分散性(equi-dispersion)が課されている.応用の場では,多くのカウントデータに,分散が平均より大きい過分散性(over-dispersion),時には,分散が平均より小さい過小分散性(under-dispersion)が見られる.それぞれの場合において,負の二項分布や幾何分布等がモデルとして適宜検討される.ConwayとMaxwellによって生み出されたConway-Maxwell-Poisson(COM-Poisson)分布は,Poisson分布の一般化分布の一つである.生存時間解析と信頼性解析の分野においては,治癒率モデルに関する研究において,近年,COM-Poisson分布を用いた報告が多く見られ,注目を集めている.COM-Poisson分布は,パラメータ数が少なく(2パラメータ)シンプルなモデルでありながら,広い範囲の過分散,過小分散を柔軟に表現でき,かつよく知られた幾何分布を含み,極限分布としてベルヌーイ分布を持つ点が特徴的である.これらの特徴が,他のポアソン分布の一般化モデルと一線を画す.しかし,それらメリットの代償として,確率関数の規格化定数に無限級数を含み,推定,検定においては困難をきたす.これまで,規格化定数の各種近似法や,規格化定数の計算を回避する推定が研究されてきた.本稿では,COM-Poisson分布,並びに近年提案された手法も含む代表的なCOM-Poisson分布の推定法について紹介する.

キーワード:カウントデータ,Poisson分布,最尤法,規格化定数.


第73巻第2号253−266(2025)  特集「生存時間解析と信頼性解析」  [原著論文]

共役ガンマ事前分布を用いたワイブル分布のベイズ推定

法政大学 作村 建紀
統計数理研究所 柳本 武美

要旨

ベイズ推論における推定量の構築において,推定対象となる母数の適切な選択と事前密度の選択は重要な課題である.前者においては,指数型分布族では自然母数が候補になる.後者については,弱い情報しか含まない場合はしばしば共役な事前密度が仮定される.強い客観性が望まれると無情報事前密度が仮定される.これは情報が極端に少ない共役事前分布の極限の状態として理解できる.本稿では,2母数のワイブル分布に対して,共役な事前分布としての共役ガンマ事前密度と無情報事前分布としてのJeffreys事前密度を連続的に繋がる形で導入する.その上で,指数型分布族における最適性を有するベイズ推定量に基づき,ワイブル分布のベイズ推定量を提案する.提案推定量の性能は二乗損失とカルバック・ライブラー損失のもとでのリスク,および推定量の偏りによって評価される.これらは数値実験によって最尤推定量と比較される.リスク比較の結果は提案推定量が有望な推定量であることを支持する.提案推定量の近似的な不偏性も観察される.また,実データへの適用の結果は推定量の選択の必要性を示唆する.

キーワード:自然母数,共役事前分布,事後平均,無情報事前分布,リスク比較.


第73巻第2号267−285(2025)  特集「生存時間解析と信頼性解析」  [研究詳解]

信頼性解析とツールの活用

広島大学 岡村 寛之
広島大学 鄭 俊俊
広島大学 土肥 正

要旨

本稿では,信頼性分野で使用されるツールについて紹介する.信頼性評価は,故障木やマルコフモデルに代表される確率モデルを用いたアプローチと,信頼性試験などから得られるデータをもとにモデルの同定を行う統計的手法に大別される.これらの手法はいずれも,信頼性を評価するために信頼性解析ツールが必要となる.本稿では,信頼性に関する基礎知識を紹介し,その後,具体的な信頼性解析ツールについて説明する.

キーワード:信頼性解析ツール,確率モデル,統計的手法,信頼性評価.


第73巻第2号287−316(2025)  特集「生存時間解析と信頼性解析」  [総合報告]

極値統計論に基づくモデリング

鹿児島大学 吉田 拓真
名古屋工業大学 北野 利一

要旨

豪雨や地震などに起因する自然災害,ファイナンスにおける金融リスク,そして製品寿命など様々な現象に関するデータを扱う応用分野において,データ全体の中で極めて大きい,または小さい値の発生確率の見積りは信頼性評価やリスク管理の観点から重要な課題である.この課題に対する統計学的なテーマはデータの最大値や最小値,あるいはそれらに近い分位点の予測となる.そのためには,裾の挙動にのみ焦点を当てた確率モデルを構築することが不可欠である.極値統計学はそのための方法論を示すものであり,その稀な事象が生起する分布の裾のモデリングに数理的に重要な枠組みを与える.本稿では極値統計学の基本的な考え方,統計理論,モデリングについて総説する.特に,極値統計手法で実データ分析を行ったときに,その解析結果を現象の頻度特性の把握へとフィードバックする際に重要な役割を担う概念である再現期間と再現レベルは少し掘り下げた解説を行う.また,気象データや株価データなど極値統計学が活躍するデータはクラスターデータの形式で得られることが多い.そのため,クラスターデータに対する極値統計モデリングの方法論についても議論する.本稿では統計ソフトRのパッケージを紹介しながら降雨量データへ極値統計モデリングの適用例を示す.

キーワード:一般化極値分布,一般化パレート分布,極値統計学,クラスターデータ,空間データ,再現期間.


第73巻第2号317−334(2025)  特集「生存時間解析と信頼性解析」  [研究詳解]

スポーツ外傷予測への信頼性解析の応用:大相撲力士に対する実証分析

神奈川大学 太田 修平
法政大学 木村 光宏

要旨

スポーツ外傷予測とは,対象者に将来起こりうるスポーツ外傷の潜在的なリスクを評価することである.近年では,スポーツ選手が過去に負った外傷のイベントヒストリーデータに基づいて,時系列的に選手の外傷リスクを評価・予測する手法がいくつか提案されている.本稿では,点過程を用いた外傷発生を表す確率モデルを詳説し,そのモデルを用いた外傷予測の方法について述べる.また,大相撲力士に対する外傷予測の実証分析を通して,外傷の連鎖性を考慮できる自己励起型の点過程が,外傷予測に有効であることを示す.さらに本稿は,力士の外傷予測に関する先行研究では明らかにされなかった,予測モデルのパラメータ推定に使用されていない未知のデータに対する,モデルの予測精度の検証を新たに行い,モデルの妥当性を補強する.最後に,予測結果を外傷予防に応用する観点から,外傷予測の今後の課題を述べる.

キーワード:点過程,確率予測,スポーツ外傷,信頼性解析.


第73巻第2号335−352(2025)  特集「生存時間解析と信頼性解析」  [総合報告]

生存解析における樹木法と最近の発展

大阪大学 杉本 知之
筑波大学 丸尾 和司
和歌山県立医科大学 下川 敏雄

要旨

決定木やランダムフォレストなどの樹木法は,データサイエンス分野をはじめとして,他の実質科学領域やビジネスの実務で利用されている統計・機械学習ツールである.過去10年において,樹木法やフォレストからの変数重要度指標の推測,フォレストの一致性や漸近正規性に基づいた因果ツリーや因果フォレストなどの因果推論ツールとしての方法論や理論の発展も目覚ましい.本稿では,このような樹木法における方法や理論の最近の発展を,生存時間解析での利用の観点で各手法とその特徴を調査し総合的に報告する.

キーワード:CART,Cox回帰,生存木,ランダムフォレスト,変数重要度,因果フォレスト.


第73巻第2号353−374(2025)  特集「生存時間解析と信頼性解析」  [研究詳解]

System signatureの計算方法とその応用
—Consecutive-k-out-of-n:Fシステムを例として—

東海大学 中村 太信
長岡技術科学大学 周 蕾

要旨

本論文では,コヒーレントシステムに対するsystem signatureの算出方法を概説し,特にconsecutive-k-out-of-n:F(Con/k/n:F)システムに対する具体的な手法および計算例を示す.Con/k/n:Fシステムは,n個のコンポーネントが線形に配置され,少なくともk個の連続したコンポーネントが故障した場合にシステム故障となるシステムモデルである.このモデルは石油パイプラインや高速道路の街灯,生産監視システムなど,様々な応用例を持つ.近年,信頼性工学の分野では,system signatureの概念が注目されている.ここで,system signatureとはシステムの構造にのみ依存する特性量であり,システム構造の比較や保全計画の立案に有用である.しかし,素朴な計算方法では,大規模なシステムに対してsystem signatureを算出することが困難である.本論文では,Con/k/n:Fシステムに対するピボット分解法に基づくsystem signatureの算出方法を示す.この手法は規則的な構造を持つシステム群に適用可能である.その後,system signatureの理論的応用の1つとして,故障コンポーネント数の期待値について述べる.最後に,汎用的なsystem signatureの算出方法の可能性について議論する.

キーワード:コヒーレントシステム,system signature,consecutive-k-out-of-n:Fシステム,ピボット分解法.


第73巻第2号375−399(2025)  [研究詳解]

多様体学習を用いた銀河進化の新しい定量化

名古屋大学/統計数理研究所 竹内 努
国立天文台/スタンフォード大学 クレ スチェータ
名古屋大学 山形 大青
名古屋大学/学習院大学 曹 愛奈
名古屋大学 内田 舜也
統計数理研究所 池田 思朗
統計数理研究所 福水 健次
名古屋大学 加納 龍生
名古屋大学/セント・メアリー大学 大森 清顕 クリストファ
名古屋大学 馬 海霞
名古屋大学 施 文
名古屋大学 松井 瀬奈

要旨

宇宙に存在する物質は,空間的にほぼ一様の状態から始まった.その中のかすかに密度の高い領域が重力で収縮し,最終的に銀河へと成長した.宇宙物理学は,この130億年を超える宇宙の歴史における銀河の形成と進化を引き起こす複雑な物理現象を,物理の第一原理から解き明かそうと試みてきた.しかし,説明変数が100を超える現在の天文学ビッグデータに対し,このような従来の方法は限界を迎えている.そこで我々は,従来の第一原理からの理論構築とは異なる方法でこの問題へのアプローチを行っている.銀河の多波長光度および宇宙年齢が張る高次元特徴空間中での銀河分布に対し,我々はデータ科学で最近発展してきた多様体学習を適用し,銀河の進化の特徴づけを行った.これにより,我々は銀河多様体と呼ばれる,多波長光度空間内のデータ点に埋め込まれた低次元非線型構造を発見した.そして紫外線,光学,近赤外線の光度空間における銀河の進化が,銀河多様体上の星形成と星の質量進化という2つのパラメーターによってよく記述されることを発見した.これら銀河多様体座標を物理量に結び付ける方法についても議論する.

キーワード:銀河進化,銀河形成,星形成率,星質量,多波長光度,多様体学習.