第54巻第1号5−21(2006)  特集「統計科学とリスク解析」  [原著論文]

イントラデイVaRによるGARCHモデルの
比較実証

名古屋大学大学院 森本 孝之
統計数理研究所 川崎 能典

要旨

株価ティックデータから10分刻みの等間隔時系列を生成し,イントラデイ(日内)でのダウンサイドリスク計測を考える.背景・動機は日計りやデイトレードにおけるリスク計測である.日内周期性を考慮した上で,一変量および多変量GARCHモデルの変種を実際の時系列データに適用し,イントラデイでのVaRにおける超過率という観点から,モデルを実証的に比較分析した結果を報告する.

キーワード:高頻度データ,日内周期性,多変量GARCH,イントラデイVaR.

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第54巻第1号23−38(2006)  特集「統計科学とリスク解析」  [原著論文]

時間依存共変量を用いたハザードモデルによる
デフォルト確率期間構造の推計手法

統計数理研究所 山下 智志
慶應義塾大学大学院 安道 知寛

要旨

金融自由化や新BIS規制の導入などの環境変化にともない,信用リスクを適切に予測・管理することの重要性が認識されるようになった.信用リスク計量化のなかでも,デフォルト確率の推計は長い歴史を持ち,その推計モデルは,市場性のデータを元にした確率過程モデルと,実績デフォルトデータを元にした統計モデルとに大別される.近年,統計的アプローチの精練化が試みられ,“財務指標の推移”そのものを説明変数としたロジットモデルが導入された.
しかし,ロジットモデルは将来の一時点におけるデフォルト確率を求める手法であり,デフォルトの可能性のある債券の現在価値を求める場合,将来のクーポンや元本支払いが生じる「すべての」時点でのデフォルト確率を知る必要がある.また,ALMの観点からも,デフォルト確率の期間構造を考慮した資産・負債の管理は重要な要素となる.
本稿では,“財務指標の推移”を説明変数としたハザードモデルを導入し,デフォルト確率の期間構造を推計する手法を提案する.実証分析を通じ,提案手法の有効性を示す.

キーワード:関数データ解析,時間依存共変量,ハザードモデル,ベイズ情報量規準.

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第54巻第1号39−55(2006)  特集「統計科学とリスク解析」  [研究詳解]

社債価格モデルによる格付け変化情報:
格付け変化の予測

ニッセイ基礎研究所 津田 博史

要旨

今日,わが国において企業の信用リスク(credit risk)が顕在化しつつある中,金融機関において信用リスクが改めて認識され,信用リスク管理能力の強化を図ることが緊急の課題となっている.とりわけ,信用リスク量を反映していると考えられる格付けがより一層重視されてきている.本稿では,社債価格モデルに基づく格付け変化の予測方法の提案,及び,その方法を用いた場合の実証分析結果を示す.具体的には,個別銘柄の価格連動性(分散共分散構造)を考慮した社債価格モデルにより推定した個々の銘柄の格付け・業種の期待損失額からの乖離値に基づき,企業の格付け変化の情報を得る方法である.実証分析により,本稿で提案する方法が企業の格付け変化の予測に関して有意義な情報をもたらすことを示した.

キーワード:社債,倒産確率の期間構造,格付け・業種の期待損失額,一般化最小2乗法.

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第54巻第1号57−78(2006)  特集「統計科学とリスク解析」  [研究ノート]

トレンド予測に基づく天候デリバティブの
価格付けと事業リスクヘッジ

筑波大学大学院 山田 雄二
日興シティグループ証券株式会社 飯田 愛実
筑波大学大学院 椿 広計

要旨

天候デリバティブとは,あらかじめ決められた地点および将来の期間における天候データに,支払額が依存するデリバティブ契約である.本論文では,気温に対する天候デリバティブとその価格付けを取り扱い,天候デリバティブを用いた事業収益ヘッジ効果の測定による天候デリバティブの有効性について検証する.まず,天候デリバティブの最も基本的な契約として天候先物を導入し,天候デリバティブに対する価格付けの代表的な手法を紹介する.つぎに,天候先物に対する新しい価格付けの考え方として,ノンパラメトリックトレンド予測に基づく手法を提案し,天候先物の価格付けが時系列データに対する一般化加法モデルあてはめによって与えられることを示す.また,ここで提案する手法は,天候プットオプションなどプレミアム支払時点が事前に行われる場合に対しても,適用することができる.さらに,実際のデータに対して提案手法を適用し天候先物の価格付けを行うことによって,電力事業主が天候デリバティブを用いた場合の,過去の実績値における電力収益のヘッジ効果の測定を行う.また,プットオプションを構築した場合の電力会社の最適な収益構造についての考察を行い,夏季の気温の高いところで電力収益が飽和する場合に,プットオプションによる高い収益ヘッジ効果が得られることを示す.最後に,ガス会社の事業収益についても同様の分析を行う.

キーワード:天候デリバティブ,一般化加法モデル,ヘッジ効果,リスクマネジメント,最小分散ヘッジ.

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第54巻第1号79−103(2006)  特集「統計科学とリスク解析」  [研究ノート]

MBS評価におけるCPRモデルの
パラメータセンシティビティ

総合研究大学院大学 片岡 淳

要旨

MBS(Mortgage-Backed Securities)の理論価格やリスク指標の推定値はその評価モデルに大きく依存するため,もしそのモデルが不安定でパラメータ推定値に誤差を含む場合は,理論価格やリスク指標にも誤差を含むことになる.MBSポートフォリオのリスク管理を考える場合にこの誤差の影響が無視できないならば,評価モデルが不安定であることを前提としてリスク管理を行う方が合理的である.このためにはまず,パラメータの変化に対してどの程度リスク指標が変化するか,すなわちリスク指標のパラメータセンシティビティを計量的に把握することが必要となる.本研究はこのパラメータセンシティビティの計量化を試みた.このための方法として,まず貸付債権担保住宅金融公庫債券(RMBS)を対象に,CPR(期前償還率)モデルを実際のデータを用いて推定した.次に,RMBSの理論価格及びデュレーション等のリスク指標をモンテカルロ・シミュレーションにより求めた.最後に,シミュレートしたデータに基づいて,理論価格及びリスク指標のパラメータセンシティビティを計算した.リスク指標やパラメータによりそのセンシティビティが異なることや,市場金利が変化することによりパラメータセンシティビティが変化することが確認された.これらの結果は,評価モデルの不安定性を前提とするリスク管理手法への展開に応用が可能であり,より厳密なリスク管理手法の開発に資するものであると考えられる.

キーワード:MBS,CPRモデル,デュレーション,コンベクシティ,WAL,パラメータセンシティビティ.

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第54巻第1号105−122(2006)  特集「統計科学とリスク解析」  [原著論文]

階層ホログラフィックモデリング法の適用による
リスクアセスメントプロセス改善の試み

東京工業大学大学院 下平 利和
筑波大学大学院 Hua Xu

要旨

従来のリスクマネジメントでは,各実務分野の観点で特化した独自の方法論が先行し,属人的要素に依存する内容も少なくない.本稿では,複雑なシステムにおけるリスク特定の手法として広く認められている階層ホログラフィックモデリング(HHM)法を用いたリスクアセスメントプロセスの改善へ向けた試みについて報告する.具体的にはITシステムセキュリティ分野を適用対象とした一連の試行における観察結果をもとに,リスクマネジメントレベル向上のための系統的な取り組みと,その成果について議論を行う.本手法の適用により,リスクに関する現実的な構造モデルを得ることができ,その後のプロセスを円滑に進めるための理論的根拠となり得る.またここでは参考として,今回の結果を用いた解析・評価の応用イメージ例を示す.

キーワード:システムズアプローチ,階層ホログラフィックモデリング法,IT-セキュリティ.

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第54巻第1号123−146(2006)  特集「統計科学とリスク解析」  [研究詳解]

環境汚染に対する未確認発生源の寄与率の推定

統計数理研究所 柏木 宣久
千葉県環境研究センター 吉澤 正
新潟県保健環境科学研究所 茨木 剛
宮城県保健環境センター 加藤 謙一
国立環境研究所 橋本 俊次
東京都環境科学研究所 佐々木 裕子

要旨

環境管理にとって汚染発生源の同定は本質的な問題である.発生源を同定できなければ,如何なる発生源対策も立てようがないからである.発生源を同定するためリセプターモデルと呼ばれる様々な数理的方法が提案されている.しかしながら,確立した方法は存在しない.未確認発生源,すなわち組成が未知の発生源の存在を仮定すると,未知変数は識別不能になるからである.この識別問題を一般的に解決するのは困難である.ただし,ベイズ的方法を用いると,識別不能な未知変数の実用的な推定値を得られるようになる.本稿では,汚染物質の環境濃度に対する未確認発生源の寄与率を推定するためのベイズ的方法を詳解する.加えて,実際の環境汚染問題に対する適用結果を示す.

キーワード:ベイズ,ケミカルマスバランス,ダイオキシン類,環境管理,リセプターモデル.

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第54巻第1号147−175(2006)  特集「統計科学とリスク解析」  [研究詳解]

リスクモデルにおける離散確率分布の漸化式

住友信託銀行 北野 昌志
慶應義塾大学大学院 青山 一基
慶應義塾大学 清水 邦夫

要旨

集合的リスクモデルにおいて,クレーム件数の分布がPanjer漸化式を満たしクレーム額が非負整数値をとる確率変数のとき,クレーム総額分布の確率関数は漸化式で表されるという事実はその確率関数の値を計算するのに便利であり,よく知られている.しかし,Panjer漸化式を満たす分布族は,一点分布,ポアソン分布,負の二項分布,二項分布に限られるので,より一般的なSundt –Jewell分布族,Schröter分布族,Sundt分布族においてクレーム総額分布の確率関数が従う漸化式の研究が行われてきた.本稿では,従来の研究を概観しPanjer分布族以外の分布の例をあげるとともに,より一般的な(Sundt分布族に関しては項数2の場合を含む)Kitano et al.(2005)によって提案された分布族およびその分布族に属する分布のいくつかの例について紹介する.一般化負の二項分布やポアソンパラメータのガンマ分布の積の分布による混合分布はSundt –Jewell分布族,Schröter分布族,Sundt分布族(項数2)に含まれないが,提案された分布族には含まれる.また,Kitano et al.(2005)による一般化Charlier級数分布も提案された分布族の一員である.この分布について性質が述べられるとともに,クレーム件数の分布がKitano et al.(2005)によって提案された分布族に属しクレーム額が非負整数値をとる確率変数のときクレーム総額分布の確率関数は漸化式で表されることも示される.

キーワード:集合的リスクモデル,Panjer分布族,Schröter分布族,Sundt分布族,Sundt –Jewell分布族,一般化Charlier級数分布.

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第54巻第1号177−190(2006)  [原著論文]

von Mises分布における経験Bayes推定

総合研究大学院大学 叶 雄
統計数理研究所 大西 俊郎

要旨

von Mises分布の共役解析において,事後モードがエントロピー型損失関数の下で最適,すなわち,Bayes推定量になっていることが知られている.本論文では,von Mises事前分布の超パラメータのうち位置パラメータを既知とし拡散パラメータを周辺分布に対するモーメント法で推定することにより経験Bayes推定量を構成した.様々な設定の下でシミュレーションを行い,経験Bayes推定量のパフォーマンスを最尤推定量と比較評価したところ,パラメータが高次元であるとき実際的な状況下で経験Bayes推定量が最尤推定量を圧倒的に優越することが分かった.

キーワード:共役事前分布,事後モード,ピタゴラス関係.

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第54巻第1号191−206(2006)  [研究ノート]

傾向スコアを用いた補正法の有意抽出による標本
調査への応用と共変量の選択法の提案

東京大学 星野 崇宏
統計数理研究所 前田 忠彦

要旨

近年,個人の意識や思考が多様化し,かつ情報化が進んできたために非常に短期間に個人の考え方が変化するという現象が生じている.従って社会科学分野全般において,頻繁に調査研究を行う必要が生じてきたため,コストのかかる無作為抽出標本による既存型調査に代わり,標本の代表性を担保しつつ短期間に費用を抑えて実施できる方法として,インターネット調査などの新しい調査法が利用されるようになってきた.しかし,有意抽出標本からの調査であることから,標本の代表性がなく,信頼性が疑問視されている.本研究では,有意抽出に基づく調査を無作為抽出標本での結果に近似するための傾向スコアを用いた補正法を利用する際に重要となる,共変量の選択法を提案した.さらに日本版一般社会調査のデータと,筆者らが行ったインターネットパネルに対する実験調査データを用いて,その妥当性の検討を行ったところ,補正の再現性が得られた.

キーワード:傾向スコア,社会調査,有意抽出,インターネット調査,共変量調整.

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