第51巻第1号3−9(2003)  特集「森林資源統計学」  [総合報告]

林学における統計的手法

宇都宮大学 内藤健司

要旨

第2次世界大戦後から1980年代までの林学・林業における統計的手法の応用や発展についてその概要を述べた.第2次世界大戦後の林業分野,特に森林計測分野では,森林調査への標本調査法や分散分析法の応用が盛んであった.特に1950年代後半における全国森林資源サンプリング調査が統計数理研究所職員の協力を得て行われたことは画期的なことであった.1955年から1979年にかけて点密度による森林蓄積調査法が林学分野で発展し,多くの日本人林学者により林学分野で発案された統計的な計測手法として確立された.また,1960年前後に鈴木によって提案された減反率による木材生産予測法は従来の法正林の概念を拡張するものであり,その手法は現在でも民有林の木材生産予測に使われるなど現場での貢献度が高い.1965年に統計数理研究所の職員と林学関係の研究者や実務者により林業統計研究会が設立され,サンプリングの問題,ビッターリッヒ法による森林調査の問題,コンピュータの林業への応用などについて活発な議論が行われ,その成果は講習会や著作などを通して社会へ還元された.今後,森林科学の分野で更に必要とされる統計数理学的な手法は,市場価値をもたない環境財としての森林の評価手法,住民参加や多様な価値観を持つ人々の合意形成に必要な情報公開の技術と手法であろう.

キーワード:森林資源調査,数量化法,ポイント・サンプリング,減反率.

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第51巻第1号11−18(2003)  特集「森林資源統計学」  [研究ノート]

長柱の座屈理論に基づく樹高曲線式の応用可能性

三重大学 松村直人

要旨

林分統計量の推定の基礎となる樹高曲線式の選択について,いくつかの経験式と理論式を取り上げ,その特徴,当てはまりの精度,データ特性への対応などについて検討した.理論式としては座屈式を対象に,また比較のための経験式としては,従来当てはまりの良さからよく用いられている,以下の式を対象として当てはめた.用いた曲線は,Näslund式,Henricksen式,Michailoff式,相対成長式といずれも2つのパラメータを持っている関数である.平均平方偏差では,座屈式が最も当てはまりが悪かったが,その他はどれも同程度の当てはまりであった.若齢,老齢,超高齢の全林分データに対する当てはめでは,座屈式が比較的良好な当てはまりを示した.

キーワード:森林計測,座屈,樹高曲線,理論式,相対成長.

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第51巻第1号19−35(2003)  特集「森林資源統計学」  [原著論文]

一般化多変量分散分析モデルの
林木直径成長分析への適用可能性

統計数理研究所 蛹エ宏和
統計数理研究所 吉本敦

要旨

一般化多変量分散分析モデル(GMANOVA モデル)は経時測定データに関する解析に適したモデルとして幅広く用いられ,多くの応用研究に適用されている.このモデルは成長データによく適用されることから成長曲線モデルとも呼ばれている.森林計画学の分野においては森林資源の将来的な成長予測など経営計画における基礎情報として直径成長データに基づく分析が行われているが,GMANOVAモデルの適用による分析はほとんど行われていない.本論文では,成長データへのあてはめ,仮説検定,変数選択を通して,森林計画学における林木直径成長の解析法としてのGMANOVA モデル適用の可能性を検討した.

キーワード:森林計画学,成長曲線モデル,多項式曲線,平均の同等性検定,変数選択.

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第51巻第1号37−58(2003)  特集「森林資源統計学」  [総合報告]

遺伝マーカーを用いた樹木集団内遺伝構造の
空間解析手法

(独)林木育種センター 高橋誠
統計数理研究所 島谷健一郎

要旨

分子遺伝学の急速な発展に伴い,樹木集団内における個体ベースでの遺伝変異の空間構造研究が世界各地で活発に行われている.遺伝変異データは,対立遺伝子レベル,遺伝子型レベルおよびmultilocusレベルという3層の階層構造から成っている.さらに,空間的遺伝構造の解析では,ここに各個体の位置情報が付与される.このような高度な情報量を有するデータを解析するための統計的手法は多岐に渡り,それぞれに固有の特性を有している.本稿ではこれまでの空間的遺伝構造の解析に用いられてきた統計量を3層のカテゴリーに区分して,それらの特性や問題点,並びに生物学的背景や統計量間の関係について論じる.

キーワード:生態学,遺伝マーカー,樹木集団,集団遺伝学,空間統計,対立遺伝子,遺伝子型.

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第51巻第1号59−72(2003)  特集「森林資源統計学」  [原著論文]

富山県におけるブナ林の分布と動態

富山県林業技術センター 石田仁

要旨

ブナ林の分布と動態の特性を明らかにする目的で,富山県内の標高1400m以下に分布する天然林で295プロットの毎木調査資料を収集し,ブナを混交する13プロットで10年間の追跡調査を実施した.CCA(Canonical Correspondence Analysis)を用い,ブナ林の分布と 7環境因子(標高,温量指数,年降水量,年最大積雪深,集落からの距離,斜面位置,斜面方向)との関係について検討した.ブナ林の分布は標高と関連の深い温量指数,年最大積雪深によってよく説明されていた.また,垂直分布帯の下限付近では北斜面で,上限付近で南斜面での優占度(胸高断面積割合)が高くなる傾向があった.こうした特性は,ブナと同様に垂直分布帯を形成していたコナラ,ミズナラ,アカマツと共通していた.ブナは,人里からの距離が遠いほど,優占度が高くなる傾向も認められた.固定調査地の追跡調査では,時間の経過とともに立木本数密度が減少,林分材積は増加する傾向があった.プロット内で大きな胸高直径を持つ木ほど成長量が大きく生存率も高かった.10年間でブナの優占度は,すべてのプロットで増加した.

キーワード:ブナ林,CCA,垂直分布,森林動態.

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第51巻第1号73−94(2003)  特集「森林資源統計学」  [原著論文]

MSPATHアルゴリズムを用いた動的計画法
による林分経営最適化モデル

統計数理研究所 吉本敦

要旨

林分単位の経営を念頭に,MSPATH(Multi-Stage Projection Alternative Technique)アルゴリズムを用いた動的計画法と林分密度管理図による林分成長モデルを用いて,最適間伐戦略を探求する林分経営最適化モデルを構築した.MSPATHアルゴリズムは長期的な間伐効果を考慮できるもので,胸高直径(DBH: Diameter at Breast Height)による価格プレミアムがある場合などの最適化には有効なアルゴリズムである.このアルゴリズムを用いた動的計画法モデルは,林齢を期,間伐量を状態とし,かつ同時に制御変数とする1期・1状態(one-stage and one-state)のモデルと分類できる.本稿では,MSPATHアルゴリズムがどのようなメカニズムになっているのか,またこれまで使用されてきたアルゴリズムとどのように違うかについて詳細を述べ,九州地域における林分密度管理図を用いてモデル応用の事例を示した.

キーワード:森林経済学,オペレーションズ・リサーチ,動的計画法,林分密度管理図.

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第51巻第1号95−109(2003)  特集「森林資源統計学」  [原著論文]

森林資源構成表を用いた減反率の推定

宮崎大学 藤掛一郎

要旨

我が国では森林が何齢級で伐採されるかを確率的に表現するために減反率という概念が示され,森林計画などにおいて利用されてきた.減反率の推定には5年間隔の相前後する森林資源構成表を資料とすることが多い.しかし,この森林資源構成表から得られるデータの特性がこれまで十分に理解されてこなかった.本論文では,まず,森林資源構成表から減反率を推定する場合にデータに含まれる打ち切りや切断について論じた.そして,このデータ特性の把握に基づいて,減反率を最尤推定する方法を紹介し,また,既存の方法のうち,鈴木のモーメント法,Blandonの最尤法を再評価した.Blandonの最尤法と今回提案した方法は打ち切りや切断に対応しており,良好なシミュレーション結果を示したが,鈴木のモーメント法は問題を残した.また,これまで減反率の推定が期首の齢級構成に依存するのは好ましくないとされてきたが,打ち切りや切断への対応がなされておれば,そのこと自体は問題ではないと考えられた.

キーワード:減反率,最尤法,シミュレーション,伐採齢.

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第51巻第1号111−120(2003)  特集「森林資源統計学」  [研究ノート]

丸太価格に基づく減反率の推定

東京大学大学院 広嶋卓也

要旨

減反率とは,新植された林分がある齢級で伐採される確率を指し,我が国の伐採予測のために林野庁で用いられている代表的な手法である.従来,減反率を推定する際には,伐採齢の平均と分散の情報が必要とされていたが,そのような情報は一般に入手が困難である.そこで本論では伐採の予測を全国レベルに適用することを前提として,データの入手が容易な丸太価格に基づき減反率を推定する方法を検討した.その方法とは,径級別の丸太価格および立木本数データを利用して求めた丸太価格−林齢曲線に基づき,Yoshimoto型減反率を推定するというものである.この方法の有効性を検証するため,関数型とパラメータの組み合わせに応じた数通りのYoshimoto型減反率と既存の伐採齢データから推定した従来型減反率との比較,さらには伐採予測への応用を試みた.結論として,本論の手法は,ただちに伐採予測に利用可能なものではないが,過去のデータに基づく精緻化を経ることにより利用可能となることが見込まれた.

キーワード:減反率,伐採予測,ポアソン過程,待ち時間,丸太価格.

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第51巻第1号121−133(2003)  特集「森林資源統計学」  [原著論文]

不確実性下における人工林施業の経済分析:
ソフトゾーニング

統計数理研究所 吉本敦

要旨

昨今,森林ランドスケープの関心の高まりに伴い,地理的条件に基づく森林資源経営に対する配置的な分類,いわゆるハードなゾーニングが行われてきている.ハードゾーニングに関わる要素は管理における作業量・作業単価を通して経営の経費として計上されるが,経営の持続性を追求する場合,むしろ経営に関わる経済情報に基づく配置分類,すなわちソフトゾーニングが必要不可欠となる.本研究では,ソフトゾーニングを念頭に,不確実環境下における森林資源経営のための最適確率制御モデルを用いて,木材価格の不確実性に対する経営の持続可能な価格(最低許容価格)の領域について分析を行った.その結果,成長が遅い林分では最低許容価格も高くなることが分かった.一般に価格は最適伐期齢決定に重要な役割を果たすが,本研究の分析の結果,価格のダイナミックスに平均的な増減の傾向がなければ,最適行動が「伐採−放棄」から「伐採−継続」に転換する価格帯では,最適伐期齢が大幅に遅延することが分かった.また,将来的な価格の減少期待が強くなると,持続可能な状態から,伐期齢の遅延などの現象を介さずに,「伐採−継続」から「伐採−放棄」の状態に即座に遷移する可能性が強いことが分かった.

キーワード:森林経済学,確率微分方程式,確率動的計画法,森林資源管理.

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第51巻第1号135−146(2003)  特集「森林資源統計学」  [研究詳解]

日本における針葉樹丸太の需給構造の計量経済学
的解明:関連する林業施策の検討に向けて

独立行政法人 森林総合研究所 立花敏

要旨

本研究は,国産材時代を担うべき針葉樹丸太の需給構造を計量経済学モデルの適用により解明することを目的として行い,その結果を踏まえ関連する施策を検討した.まず,需給構造の解明では,スギ,ヒノキならびにそれらも含む針葉樹全体の3つの丸太市場を取り上げ,それぞれの需要関数と供給関数を二段階最小二乗法により推定した.その結果,丸太供給は価格変化をみながら決定され,特にスギ丸太供給は価格により弾力的であること,森林資源の充実とともに供給増へと繋がる可能性があることが判明した.スギ丸太需要の価格弾力性も高く,スギ,ヒノキともに代替財の米ツガ丸太価格に対する弾力性が当該材価格弾性値より大きかった.つぎに,施策の検討については,これらの価格弾性値の推定結果は少なくともスギ丸太の需給において価格政策が一定の効果を持ち得ることを示すと考えられ,資源の充実を考え合わせると国産材供給の増加に向けた施策として重要であるといえる.また,両丸太の需要には住宅着工が有意な影響を与えており,弾性値は大きくないものの住宅需要に国産針葉樹材使用を促す施策も有意義と考えられる.

キーワード:スギ,ヒノキ,丸太需給モデル,二段階最小二乗法,価格弾性値.

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第51巻第1号147−165(2003)  特集「森林資源統計学」  [研究ノート]

FAOデータを用いた林産物貿易における
輸出入関数の導出

宮崎大学 行武潔
統計数理研究所 吉本敦
宮崎大学 濱田博恵

要旨

環境保全と木材貿易の問題がWTOの会議などで取り上げられ,昨今では林産物貿易モデルを用いた計量分析に基づく議論が盛んになっている.林産物貿易モデルの構築では,貿易に関わる国あるいは地域における各製品に対する輸出入関数の導出が必要不可欠であり,そのためにそれらの価格弾性値の推定が欠かせないものとなっている.本研究では,林産物貿易モデルにおける林産物製品の輸出入関数の導出に伴う価格弾性値の推定を試み,推定される弾性値が符号条件を満たすか否かについて検討した.対象とする地域は日本,アジア開発途上地域,北米,中米,南米,東欧,西欧,オセアニア,ロシア,アフリカの10地域,対象製品は産業用丸太,製材,木質パネル,チップ&パーティクルである.使用データは1970〜1999年の30年間の年次データである.分析では,データの非定常性の検定を行いつつ,両対数線形モデルを用いて普通最小二乗法(OLS),二段階最小二乗法(2SLS)及び三段階最小二乗法(3SLS)による係数推定を試みた.更に,経済現象の動的調整過程を考慮しアーモンラグモデルによる推定も試みた.分析の結果,OLSの推定結果に対し理論的な価格弾性値の符号条件が満足されない場合は他の推定方法を試みても推定に改良が観察されないことが分かった.特に供給サイドの推定結果については,全体的に符号条件を満足しない結果が得られた.

キーワード:林産物貿易構造,輸出入関数,価格弾性値,計量経済分析.

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第51巻第1号167−172(2003)  特集「森林資源統計学」  [原著論文]

ジャンケンの厳密な待ち時間分布と性質

統計数理研究所/総合研究大学院大学 平野勝臣
大阪大学大学院 安芸重雄

要旨

n 人でジャンケンを行い,勝ち負けが決まり,再び勝者だけでジャンケンを行う.このようにして最後の勝者一人が決まるまでジャンケンを続けたときの待ち時間(ジャンケンの回数)の厳密分布の確率生成母関数を陽の形で与える.n 人からはじめて最後の勝者一人が決まるまでの勝者の数を記録した各事象に対し,最も起こりやすい事象とその確率を与える.またn 人で j 回ジャンケンをしたときの勝ち残った人数の分布を与える.

キーワード:ジャンケン,待ち時間分布,確率生成母関数.

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