東北地方太平洋沖地震の余震と連鎖地震
Tohoku earthquake: aftershock activity and triggered activities in the eastern Honshu area

統計数理研究所

Institute of Statistical Mathematics

 

 

1.        ETASによる余震数の予測に比べた余震生産率の異常
  先ず,今回のM9太平洋沖地震の余震の生産性(productivity)を,東北沖地域の通常の地震の生産性と比較してみた(1).1923年以降の東北地域のM5以上の地震活動をETASモデルで当てはめ,M9の地震が起きた予測数と比較すると,ほぼ予測どおりである.しかし199710月の一元化以降の当てはめだと予測の2倍ほどになる.後者の場合はこの期間に見られた広域静穏化のためでないかと考えられる(統数研,本巻別報告参照).

 

2.        余震活動
  余震活動モニタリング時空間分布(M5+, 7月1日現在,3).ETASモデルのalpha値が大きく2次余震の効果が小さい(大森・宇津の公式に近い).地域的かつ変換時間的な均質な余震減衰が特徴的である

 

余震活動時空間分布(M4.5+,7月1日現在.456).本震直後の余震の低発生率がアウターライズ寄り(東側)の領域で顕著である. M4.5+の余震活動の327日頃からの静穏化は有意である(5).デトレンドした時空間分布は,余震活動に静穏化がない場合(4)に比べて,とくに陸寄りの深い部分で顕著である(5)が,静穏化の原因は今のところ不明である.6で変化点以後の時空間分布を求めたが、特段の非一様性は見えない.

 

余震活動時空間分布(M4.0+, 7月1日現在).検出率の時間的な不均質性(特に本震直後)を見込んだ上で大森・宇津の式を当てはめた.このような場合にはc値が大きくなる.デトレンドした時空間図(7)で見るとプレート境界部分では特段の非一様性は見られないが、アウターライズ寄りでは静穏と活発が繰り返し最近数週間活発化しているように見える.

 

参考まで,最近の超巨大地震である2010年チリ地震(Mw8.8)と2004年スマトラ地震(Mw9.0)の余震活動を大森・宇津の公式でデトレンドした時空間分布を8に示す.スマトラ地震の場合は約3ヵ月後に南に破壊が拡大したが、余震活動の移動現象が見られる.ニュージーランドの2010 Darfield 2011 Canterbury (Christchurch) 地震にも似たような余震活動の特徴が見られる.

 

3.        連鎖地震活動
  東北地方太平洋沖の超巨大地震はアウターライズ地帯のみならず日本海西縁部,東北地方や中部地方の内陸地震を誘発しており,それらは本震余震型または群発型で推移している.前者は富士地域M6.4,長野県北部M6.7および福島県西部M4.0の地震活動(9).これらの地震を検出率の制約(M2+)のため通常の場合に比べて多くはないがETASでみると順調に推移しているようにみえる.後者の中には,しばらく経って飛びぬけて大きな地震が起きたものもある.

 

たとえば福島県南東部(いわき地方)の誘発地震活動(10)は311日のM6を先頭にM6クラスの群発型活動を続けるが4月11日の地震(M7.0)につながる.3月11日からの活動(M3+, M2.5+)が328日ぐらいからETASモデルで予測される発生率よりもかなり少ない状況(相対的静穏化)が見られ,M7の地震が起きた.M7.0の地震の断層内(地理院本巻参照)で前駆的すべりを仮定し,受け手として東西伸張の正断層型地震を考えると,余震域がストレスシャドウとなり,余震活動の低下を説明できる.

 

もう一つは,長野県北部の南側の方の地震クラスタの群発である.北側のクラスタは9にある通り,順調に経過しているが,南側のクラスタの活動(11)は明瞭で有意な相対的静穏化が長い間続いて,最大地震(M5.6)が起きた.

(尾形良彦,熊澤貴雄)