研究紹介

不確実環境下での数理的意志決定

 21世紀に入り、我々を取り巻く社会はますます高度情報化され、また価値観の多様化・グローバル化が一段と進み、大きく変貌を遂げようとしています。このような変化の中で、統計科学には情報を取捨選択し的確な意思決定のために再構築する方法論が求められています。また、高度情報化社会におけるシステムの複雑化、情報の不確実性と不確定性は、社会に及ぼす様々なリスクを内包しており、不確実環境下での数理的意思決定の方法論の重要性は今後一層高まるでしょう。このような状況のもと、ロバスト(頑健)な意思決定のための方法論の構築を基本テーマとし、測度空間における最適化による分布の推定など主に無限次元最適化の理論と応用に関する研究を進めています。

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伊藤 聡
数理・推論研究系

ロバスト最適化のための方法論の構築

 様々なシステムを設計するにあたり、モデリングの際のパラメータの不確かさやシステムの実運用時に外部から受ける外乱などの影響のもとで、これらの不確定要因が確率的な変動をするとわかっている場合を除けば、システムの頑健性を保証するためには、いわゆるミニマックス戦略を取らざるを得ません。不確実さを内包するシステムの最適化問題は、ほとんどの場合、数学的には半無限あるいは無限計画問題、つまり無限個の不等式制約条件を持つ数理計画問題として記述することができます。

 モデル集合(制約条件を規定するインデックスの集合)が固定されたいわゆるノンパラメトリックな場合を扱うのが通常のロバスト最適化法ですが、これがパラメトリックな場合すなわち上位の決定変数に依存する場合をも許す、一般化された半無限あるいは無限計画問題に対する有効な数値解法の開発を行っています。一般化された半無限あるいは無限計画問題の制約条件はそれ自体がパラメトリックな最適化問題を含み、この意味で2レベル最適化問題とみなせます。また、図1のようなフィルタ設計問題の多くは半無限計画問題として定式化されます。我々がこれまでに開発した半無限計画法に基づく効率的な設計手順を確立し、実システムに対して検証しています。

測度空間における最適化による分布の推定

 1950年代から60年代にかけて研究された電磁気学の問題の一つに、導体の電荷の分布を決定する容量問題があります。特に60年代後半には、日本人数学者により線形計画の理論を用いて、解の存在など解析的な性質が調べられました。容量問題は測度空間における不等式制約条件つき最適化問題として自然に一般化されます。また、古典的なモーメント問題も測度空間上の等式制約条件つき最適化問題として様々な形で一般化され、確率論・経済学・制御理論・ゲーム理論など多くの分野に応用されています。このような問題に対して、双方向切除平面法など効率的な数値解法を開発するとともに、収束性が損なわれない範囲で実際に解くべき緩和問題の低次元化など、その近似的な実装を試みています(図2)。

図

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