コラム

南半球の星空との思い出

庄 建倉(統計基盤数理研究系)

幼い頃、私は空を観察するのが大好きでした。理科の教科書を使って星座を覚え、その神話に思いを馳せるのが楽しかったのです。星座や代表的な星、惑星の名前もほとんど覚え、夜空を見上げると安心感を覚えました。好奇心旺盛な子供として、私は「もう半分の空はどんな風に見えるのだろう?」といつも思っていました。空を見ていると、遠くの世界や宇宙の広がりに思いを馳せ、夜ごとに小さな冒険をしているような気分でした。

高校や大学では、星間の角度の測り方や、太陽と暦の関係、特に中国の暦について学びました。中国の旧暦では、太陽と月の動きに基づいて季節の変化や農作業の時期を決めており、星や空との深い関わりがあることを知りました。こうした天文学の知識が、ただの「星を見ること」から「星を理解すること」へと変わり、空への興味は一層深まりました。しかし、南半球の空を実際に見ることは、ずっと私の夢のひとつでした。

1996年、私はついにニュージーランドのウェリントンを訪れる機会を得ました。初めての夜、外に出て夜空を観察しました。澄んだ空気と晴れ渡った空が、私にくっきりとした星空を見せてくれました。初めて、空がこんなにも近く感じられたのです。天の川の端に輝く南十字星(クルックス)と、その隣に並ぶ「南の指極星」を見上げ、その美しさに心を奪われました。それまでの人生で見たどんな夜空とも違い、まるで別の世界にいるかのような不思議な感覚でした。

この経験は私にとって、ただ星を見るという行為を超えていました。それは、宇宙の神秘や広がりを直接感じる瞬間でもあり、自分がこの広大な宇宙の一部であることを改めて実感させられました。その後、星空を見上げるたびに、私はニュージーランドの夜空を思い出し、あの瞬間に戻りたいと感じることが多くなりました。

それ以降、海外に行くたびや田舎に行くたびに、天気が許す限り暗い空の下で何時間も星を見続けることが私の楽しみとなりました。私にとって星を見ることは、単なる趣味を超えて、日常の喧騒から離れ、自分自身と向き合う時間となっています。星の輝きに目を奪われながら、私は自分の内面の静けさを取り戻し、心がリセットされるような感覚を覚えます。

2007年統計数理研究所に所属してからは、東京に引越して、大都市の光害のせいで、空をはっきり見るのは難しくなりました。夜空を見上げても、数個の明るい星を識別できるだけで、ニュージーランドで見た南半球の空を懐かしく思い出すばかりです。しかし、研究所が立川に移転し、国立極地研究所と同じ建物に移ったことで、ある幸運が訪れました。国立極地研究所には小さなシネマコーナーがあり、極地の空を映し出す映像が流れています。この映像を見ることで、私は心の平和を感じることができ、空を見上げる喜びを思い出すことができるのです。

この小さなシネマコーナーで流れる極地の空の映像は、私にとって特別な意味を持っています。極地の空には、私がまだ見たことのない現象や、地球の果ての静寂が映し出されており、それを通して私は新たな世界への興味をかき立てられます。星空や宇宙への関心は、私にとってただの趣味に留まらず、人生における大きな喜びであり、いつまでも追い続けたい夢です。

星空は、どこで見ても特別な感覚を与えてくれますが、南半球の空は私にとって特に心に残る体験です。これからも、空を見上げるたびに、あの時の感動を思い出すでしょう。そして、いつか再び、南半球の星空をこの目で見ることを夢見ながら、夜空に輝く星々を見つめ続けたいと思います。

2023年4月にニュージーランド・フェアリー(Fairly, NewZealand)にいきました。ホストのマルコ・ブレンナ(MarcoBrenna)がこの写真を撮ってくれました。

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