コラム

ポルトガル

清水 信夫(データ科学研究系)

計算機の能力の向上に伴い、得られるデータが日々巨大化かつ多様化して久しいが、そんな中でも1つの個体に対して1つの数値や属性値ではなく区間値や集合値などが対応する場合が増加している。このような場合のデータを解析する手法としてシンボリックデータ解析(SDA)がある。

私がSDAに本格的に取り組むようになったのは2008年頃であったが、欧州にSDAの研究者コミュニティが有ると聞いてより深く学ぶ機会を得ようと考えたところ、ポルト大学(ポルトガル)のMaria Paula Brito先生の計らいにより2009年の春からポルトに滞在させて頂けることになった。ポルトはポルトガルの北部に位置し、南部の首都リスボンに次ぐ人口規模の都市である。5世紀よりも前に創設されたほど歴史が古く、旧名「ポルトゥス・カレ」は国名「ポルトガル」の起源ともなっている。世界遺産にも登録されている歴史地区、世界的に有名なポートワインの酒蔵などをはじめ観光資源も多く、休みの日も色々飽きない時間を過ごせた。

ポルト大学では様々な実データにSDAを適用する手法についての研究を行ったが、その中でも特に印象に残っているのがポルトガルの気象データへの適用であった。ポルトガルの気候は概ね夏に高温かつ乾燥し、冬が温暖で雨が多い地中海性気候に分類されるところが多い(首都リスボン周辺などがまさに典型である)。中でも本土南東部のアレンテージョ地方などはリスボンよりも夏場の高温&乾燥がより顕著で、世界の半分以上のシェアを誇るコルクの原材料となるコルク樫の生産に非常に適した地域である。一方でポルトなど北部は地中海性気候といえどもリスボンほど気温が高くはなく、降水量も比較的多い。実際、ポルトガルの他地域が晴れていてもポルト周辺だけ雨ということが滞在中もよくあった。また大西洋上にもマデイラ島やアソーレス諸島などの領土があるが、これらの地域は気温変動や降水量分布などが本土とは大きく異なり、独自の気候区分になっている。このような地域ごとの気候の違いがSDAを通して改めて見えたのは興味深かった。

Brito先生は私のポルトガル滞在以前にも何度か日本を訪れていたこともあり、ポルトでは非常に親切にして頂いた。就労ビザが取れなかったことなどもあり春先〜初夏の3ヶ月弱の滞在にとどまったが、1ヶ月以上日本を離れた初めての機会でもあり忘れられない体験となった。

Brito先生は私が帰国した後にSDAに関するワークショップを中心メンバーとして立ち上げ、1〜2年程度の間隔で定期的に開催している。私も毎回ではないものの参加させて頂き、大いに刺激となっている。2018年にはポルトガル北部のヴィアナ・ド・カステロでワークショップが開催され、懐かしさを感じながら参加し研究発表を行った。

今年もワークショップが開催される予定であったが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止のため延期となってしまったのが大変残念であった。またSDAの研究者との出会いと新たな刺激が得られる日を楽しみにしている。

左はポルト大学のMaria Paula Brito先生。私の帰国後も度々来日し、統数研にも数回来所している。右はポルト大学での私の執務スペース。

ヴィアナ・ド・カステロで行われたSDA2018の集合写真。写真左側の丸囲みが筆者。最前列の左から2人目がMaria Paula Brito先生。

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