コラム

数学科における統計学研究

二宮 嘉行(数理・推論研究系)

2018年4月に統計数理研究所に着任するまでの17年間、私は大学のいわゆる数学科に属していました。約束の時間に来ないで 「論文に夢中になってた♡」 と悪びれずに言う同僚のような自由な数学者に、私は強い憧れをもっていましたので、長く在籍していました。そこで、数学科だからこそ私のような者にも成長を促してくれたのかもしれないことについて、書いてみたいと思います。

まず、当たり前のことですが、厳密な論理展開をするようになりました。学生時代の私は、なんとなく 「一つの理論をじっくりと根本から理解することより、多くの話題のエッセンスをささっと掴む方がカッコイイ」 と思っていた節があり、話の展開の仕方も雑でした。しかし、「なるべく数学から離れたテーマをやりたい」と言う学生ですら 「ゼミで証明をきちんとやらないのは気持ち悪い」 と文句を言うのが数学科ですから、彼らを指導するのに厳密性を欠くわけにはいきませんでした。私の粗い研究を誰も聞いてくれない・読んでくれないのは当然のことだったわけですが、改善されたような気がします。厳密性を上げたことの効果でもっと大きかったのは、論理展開が正確になって、そのぶん先まで考えられるようになったことかなと思います。勘違いしたまま話を進めていき、いっきに無であることがわかって大ダメージを負うことが私には多かったのですが、それが少なくなりました。話の展開において怪しい部分に対する勘が働くようになったかんじでしょうか。今でも 「良さそうなことを思いついた自分、すごい!」 と 「こんな不適切さに気づいてなかった自分、アホすぎる…」 を繰り返す日々を過ごしたりするわけですが、マシになったように感じます。

もうちょっと統計学に関することを思い返してみたいと思います。私のいた大学での統計専門の教授陣は、数学の強みや長所をわかっていつつ、数学でゴリゴリ押す研究はしていませんでした。高度な数学を使うのですが、それを数学的性質の証明というより方法論構築の背後で使うかんじです。統計学は数学と違うわけでして、例えば数学的性質に優れたものより実用性に優れたものが重視されます。弱い数学的性質を示すよりは、良い方法論を構築する方が好まれる傾向にあります。そういった意味でとてもバランスの良い研究をされており、私は影響を受けました。その研究室の歴々の出身者をみても傾向が掴めます。数学は強いのですが、そこで勝負するのは避けていると推測します。数学とは別のセンスを積極的に磨き、それも武器とした総合力の高い研究をしています。こういった傾向は、数学科の中での統計学専攻だからこそつくものかもしれません。

昨今、データサイエンスブームで様々な動きがありますが、やはり数学科における統計学コースも守るべき重要なものであろうと思います。上で総合力の高い研究と書きましたが、高度な数学に基づき、実用的であり、かつ美しい、という意味で究極的なものにAICがあります。嬉しいことに、その発祥の地で研究する機会を与えられました。数学科に属していた経験を活かし、そういった研究を少しでも目指して精進したいと思う今日この頃です。

私の研究の中で最も数学的っぽくみえる図(左が因子分析モデル、右が二変量正規混合分布モデルを表す)

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