コラム

国際会議における子どもの対応について― 子ども大歓迎のアメリカと立ち入り禁止のオランダ ―

瀧澤 由美(モデリング研究系)

 子育てをしながら働いている研究者は多くいますが、国際会議での子どもへの対応について、少しの工夫で男女問わず多くの研究者が参加・発表しやすくなることをお話ししたいと思います。

 私は結婚、出産が41歳のこともあり、ちょうど、プロジェクト、科研費などを持っていて、長期の育児休業を取ることができませんでした。(15年前は出産による科研費の一時休止制度はありませんでした。)生後4ヶ月の娘を保育園に預けて、裁量労働制のお陰で時間を工夫し研究を続けていました。しかし、何年も国際会議に参加できないのは困るので、3歳になった頃から、子連れで国際会議に行きました。

 3歳初めの頃は、両親に頼んで一緒に来てもらい、自分の発表や議長のときは母に娘を見てもらっていました。大変なのは、両親と娘の3人分の旅費を自分で工面しなければならないことでした。航空券もディスカウントチケットは子ども料金の設定がないものが多く、年に1度の外国出張のために貯金していました。

 3歳後半になると、聞き分けも良くなり、静かにしていられるようになったので、親子だけで外国出張ができるようになり、紙おむつをつけていればトイレにもあまり困らないので、頻繁に国際会議に出席するようになりました。

 アメリカのモントレーでVLSIと工業数学の国際会議が開催されたとき、いつもの様に議長に「子どもを連れているけれど静かにしているから、会議場に入らせてください」と言うと「もちろんいいですよ」とのこと。驚いたのは学会が始まったときです。議長が基調講演の講演者を紹介する前に、こう言ったのです。「我々は今日、ここに、学会創設以来、最年少の会員を迎えました。日本から来たとても若い研究者を拍手で歓迎しましょう」。会場全員の拍手に娘はきょとんとしていましたが、変わらずお菓子を食べていました。この議長の紹介のお陰で、気兼ねなく発表ができ、その後の食事会の際も多くの人が話しかけてくれ、研究の話もはずんで楽しい学会でした。娘は私にべったりくっついていましたが楽しそうでした。

 一方、娘が5歳の頃。オランダのハーグでの信号処理学会が開かれたとき、同じように議長に娘を会場に入らせてもらえるように頼みました。しかし、関係者以外立ち入り禁止で、参加者の子どもでも、子どもは全て入場不可とのことで驚きました。なぜなら、その会議のローカルチェアマンは女性だったのです。その時は学生も一緒だったので、学生は発表させて、私は会場の外で待機することにしました。

 後でわかったのですが、ヨーロッパの中でもフランスオランダなどは、子どもに厳しく、飛行機内でもぐずって迷惑をかけないように、機内で子どもを眠らせるための睡眠薬まで売っているとの事でした。当時、フランスも少子化が問題とされていましたが、そういったことが関係しているのではと思いました。

 最近、国内では子どもに対して保育などのケアを用意してくれる学会も増えてきました。でも、保育所など大げさでなくても、親の隣に座らせお菓子などを与えておくなど、ちょっとしたことで会場にいても迷惑にならないようにできます。静かにできないときには外に出れば良いのですから。また、小中学生などでも研究に興味のある子どもは、見学してもよいとさえ思います。高校生などは将来の研究者として歓迎すべきかとも思います。

 統数研では会議を主催することが多いですが、主催者のちょっとした思いやりで、男女問わず参加しやすいオープンな会議運営をしたいと思います。

夏休みに小5の娘連れで参加したInternational Conference on Neurology’13 (Chania, Crete Island, Greece, August 27-29, 2013) にて、帝京平成大学薬学部・堀江利治教授、東邦大学医学部・名取一彦准教授、千葉大学工学部・深澤敦司元教授と。名取先生(左から2人目)は小児癌化学療法のご専門で子ども受け抜群。

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