コラム

新しい時代

船渡川 伊久子(データ科学研究系 )

 健康指標の長期の変化に興味を持っています。長期といっても、人の寿命よりも少し長い百余年程度のスパンです。集団指標をみますと、喫煙は若い頃に始めることが多く、その健康への影響はずっと先、高齢にまで及びます。明治時代に煙草の大量生産が始まり、喫煙が盛んになります。喫煙は様々な疾患と関連しますが、特に関連の深い肺癌では、1980年代に死亡率がピークとなり、今も高い値です。また、今、平成が終わり、新しい時代令和が始まりましたが、少子高齢化が益々問題となります。出生、死亡などの人口動態は、統計制度が1899年に確立し、明治の途中から、大正、昭和、平成の時代を映し出します。ここでは、喫煙と人口について記します。

 喫煙についてみると、いくつかの出来事があります。日本では、 1900年(明治33年)に未成年者喫煙禁止法で19歳以下の喫煙を禁止しました。イギリスでは、1908年に15歳以下への販売を禁止しましたが、肺癌死亡率は長年非常に高く、日本よりも若い年齢から死亡率が顕在化していました。日本人の健康は、 100年以上この法律に守られてきたのではないかと思います。 1950年代の一時期、女性に向けた煙草の広告が盛んになりますが、すぐに終わります。残念なのは、それよりもずっと後の世代、1970〜80年代生まれ頃の女性の喫煙率が前後の世代より高いことです。しかし、海外の女性喫煙率と比べると、日本のその世代も20%台で踏みとどまったようにも見えます。そして、最近、特筆すべきは、日本の未成年者の喫煙率が低くなっています。喫煙防止教育が始まっています。

 さて、少し似た話で、出産も人生のある時期の出来事であり、人口(人口静態)への寄与はずっと先にまで及びます。人口はゆっくりと変化するといわれることもあります。1900年には4.4千万だった人口が2000年代に12.8千万まで増え、今減少が始まっています。一方で、人口動態は急激に変化することもあります。合計特殊出生率は戦後の短期間で急激に減少しました。少子化対策と言われて長い月日がたちます。平成元年の出生数は125万人、死亡数は79万人でしたが、30年間で逆転し、今では推計92万人と137万人です。

 子供を産む頃の18歳〜40歳代の人々は少子を望んでいるかというと、そうでもないようです。出生動向基本調査がほぼ5年に1回行われ、1977年から直近の調査まで、40年近くに渡って、30〜40%の夫婦が理想的な子供の数を予定している子供の数よりも多く答えています。その主な理由は、子育てや教育にお金がかかりすぎることです。また、21世紀出生児縦断調査では、子どもを育てていて負担に思うことや悩みで多いのは、子育ての出費がかさむことです。高齢化が進む中、社会では子供が増えることを望んでおり、理想の子供数の多い人もいるため、どこかに解決の方策があるかもしれません。

 平成の30年間を振り返ると、いろいろな変化がありました。結婚するしない、子供を持つ持たない、女性の大学進学、女性が働き続けること、選択の幅が広がってきたように思います。新しい時代にはどんな統計数字が紡ぎ出されるのでしょうか。予想もしていない未来が待っているのでしょう。出産・子育てに経済的不安のない、ちょっとうらやましい時代は来るでしょうか。

日本人女性の年齢別喫煙率の出生年による変化(成人:Funatogawa et al. 2013(データ更新)、未成年:未成年の喫煙・飲酒状況に関する実態調査研究 毎日喫煙者率)

出生数、死亡数、合計特殊出生率、理想的な子供数が予定子供数より多い夫婦の割合の推移(厚生労働省 人口動態統計、国立社会保障・人口問題研究所 出生動向基本調査)

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