コラム

統計的方法の国際標準化こぼれ話

椿 広計(データ科学研究系)

 6月恒例のISO TC69「統計的方法の適用」総会に出席した。場所はMilwaukeeのアメリカ品質管理学会(ASQ)本部ビル。年に一度旧友に会うことも楽しみにしている。そう、昨年2012年の総会は、日本での3度目の総会。わが統計数理研究所で開催し、Welcomeでは、賑やかに5大陸ワインの試飲会を行った。

 ASQには、統計数理研究所の統計教育教材BB弾の元祖、Deming博士のビーズ実験(写真1)、品質管理パイオニアの等身大人形(日本人では石川馨先生)など興味深い展示もあった。レセプションは、Harley Davidson博物館で行われたが、東日本大震災の津波でカナダに漂着したハーレーが展示(写真2)されており心を痛めた。

 Milwaukee総会では、元コペンハーゲン大学のStene先生が、デンマーク規格協会があまり統計の標準化に熱心でないことに怒り、25年以上続けた国際標準化活動を引退され、参加してないというニュースを寂しく聴いた。先生は大学退職以降、自腹でISOに出席を続けてきた。フロリダ中央大のJohnson教授の提案でTC69のオールドメンバー一同がカードに寄せ書きを行うと共に、総会でSteneさんに感謝の決議を行った。

 小生もTC69では理科大の尾島善一先生と並んで最古参の1名になってしまった。初出席は1985年、日本で1度目の総会を行ったとき。当時、ソ連提案の管理図規格実用性を日本は認めないというコメントを提出したので、関連する小委員会に張り付いた。ソ連の議長はロシア語以外話さず、通訳のロシア人がフランス語に、それをフランス代表が英語にするといった奇妙な会議だった。あるとき、議長発言が通じず混乱が生じた。沈黙の中、議長自ら流暢な英語で解説したのには一同びっくりした。それと共に、通訳が監視役であったことを理解した。

 海外総会デビューは、1990年、英国規格協会の歴史的建造物での会議。指導教員の奥野忠一先生が起案された実験計画法用語規格の改訂に参画した。この年以来、SteneさんとJohnsonさんと私の3名で朝から晩まで辞書編集のような集中作業が度々あった。小生の下手な英語で、effectは名詞でしょう。affectでないかと言うとSteneさんがデンマーク訛の英語で同意する。するとネイティブのJohnsonさんが、effect,affectとぶつぶつ言いながら修正するといった具合である。Steneさんは、規格原案作成の宿題を気前よく抱え込むのだが、翌年会うと全く進んでなく、「今年は家の壁の塗り替えが忙しかった」とか言い訳をする。しかし、統計の国際標準作成は、皆ボランティアで参加しているので、まあいいやという雰囲気で、「また集中作業」となる。今年2月に南アフリカ標準局での中間会議で久しぶりに用語規格の審議をしたとき、SteneさんとはまたMilwaukeeで会おうと話していた。Steneさんは、また宿題をどっさり持ち帰った。ただ、もうこの宿題をやるボランティアはいない。

写真1デミング先生のビーズ実験講義と教材 写真2漂着したHarley Davidson

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