コラム

これからの研究所に期待すること

種村 正美(モデリング研究系)

 立川市に建築された新棟への移転がこのたび完了して、統計数理研究所(以下、研究所)がまさに新しいキャンパスでの活動を開始した。すべての職員は新しい気持ちで、今後の各自の活動を見据えていることだろう。筆者もこの新しい研究環境で一仕事することを目指しているが、残念ながら、筆者は来年3月で定年を迎える。

 この機会に、これからの研究所に期待することなどを本欄に書くよう依頼を受けた。しかし、気の利いたことを書けるはずもないので、これまでの経験が何らかのヒントになるかと思い、自分の思い出を交えて書いてみたい。

 筆者が研究所に入った頃は、昔風のバンカラの雰囲気で、研究所の先輩同士で名前を呼び合うのは呼び捨てという場合もしばしばであった。そのような環境ゆえかも知れないが、当時は研究者同士が接する機会が多く、全職員が参加する恒例の一泊旅行もあった。若手の研究者の間でも頻繁にセミナーや勉強会を行って、それぞれの研究テーマや研究のヒントになるものを模索していたといってよい。

 筆者の研究テーマのいくつかはそういう雰囲気の中から生まれたと思っている。写真1はウミネコの繁殖地である青森県八戸市蕪島で1980年代に行った野外調査(長谷川政美名誉教授との共同研究)の一コマである。一方、図1は平成4年度の研究所概要の表紙に掲載された、個体間の誘因・反発を測る尤度法の研究( 尾形良彦教授との共同研究)の一端である。これらの共同研究を通じて、研究所の伝統の一つである「現場主義」と「問題解決主義」に触れることができたと感じている。

 他にも筆者が行った研究所内外の研究者との共同研究は、上に述べた若手研究者時代の研究所の雰囲気がきっかけになっていることが多い。研究所が大学共同利用機関として再出発して以来、約20 年になるが、研究所が公募する共同利用研究に毎年のように応募して多数の共同研究を続けることができたのも、それまでの研究所内外の研究者との交流のおかげだと言っても過言ではない。

 ひるがえって、最近のとくに若手研究者の状況を眺めていると、研究者同士の交流が研究所の日常生活でも研究内容自体でも少なくなっているよに見受けられる。研究所の共同利用研究に対する若手研究者の参画も少なめである。他の研究機関でも同じような状況はあるらしい。

 これを改善する一つの方策は、研究者同士が接する機会を増やすことであろう。それは簡単ではないかも知れないが、研究所が立川に新しく居を構えたことをきっかけにして、何か新しい仕組みを皆んなで考えていただき、研究所の大学共同利用機関としての活動が将来にわたって広がることを期待したい。

写真1:1981年5月 筆者撮影

図1

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