コラム

ワインとコルク

吉本 敦(数理・推論研究系)

 日本でもワイン愛好家が増えているせいか、毎年秋になると“ボジョレーヌーボーの解禁!予約受付中”などという広告を目にする機会が増えた。フランス、ドイツ、スペイン、イタリア、ハンガリー、南アフリカ、オーストラリア、チリ、アメリカなど様々な国からのワインが日本に入ってきている。それらを味比べする機会も増えて来ている。以前統数研に勤務していた頃(8年前)に比べ、広尾界隈にもワイン店が増えているように感じられる。

 さて、先日ポルトガルの南部にあるエボラ大学(universidade de evora)に行ってきた。ポルトガルはポートワインでも有名であるように、ワインの美味しい国の一つとして名を連ねている。その大学に勤める友人の話では、ソムリエになる資質は遺伝的な要素が大きいようで、敏感な嗅覚、味覚を備えている必要があるらしい。そういう話を聞きながら、食事にはワインが出され味わってきた。私のように資質のない者にとっては、“How is it?”と聞かれても、“Yes, red wine.”としか答えられない寂しいところがあるが、それとは別の話が弾む。

 ワインの瓶には、当然のように栓あるいは蓋がついている。最近ではスクリュータイプのメタル製の蓋であったり、コルクを模倣したプラスティックのものを目にする機会が増えたが、それはワイン・オープナーでうまくコルク栓を開けられた時の快感を忘れさせて行くような気がした。統計的に見れば、恐らく低価格のワインになるほど、そのような蓋を使用している頻度が多くなる傾向にあるように感じる。本来はコルクを使用することにより、ワインの熟成品質を保つが、コルク資源の減少あるいは上記のような安価なコルク代替材の出現により、少しずつ様相が変わってきている。さらに実際コルクを使用しているものの、コルクの集成材も出ている。木材同様、資源の有効利用である。栓の上下に上質のコルクを3mm程使用し、内部には他のコルクを使用するが、コルクとしては十分機能すると、友人は言う。しかしながら、本来のコルクは図1左に示すようなものであることは言うまでもない。

 そもそもコルクはコルク・オーク(Quercus suber)またはコルクガシと一般に言われるブナ科ナラ属の樹皮(図1右)を蒸気で平らに加工、乾燥して、天然なものとして生成される。日本でもかつてはコルクを生産していたが、現在では、地中海を中心として生産されている。図2は、エボラ大学の試験林の中にあるコルク・オークで、黒い部分が樹皮を剥かれ、新しい樹皮が生成され始めたところである。このコルク・オークはだいたい100年程度の樹齢だそうで、樹皮からコルクが取れるだけの幅になる頃に剥き始め、その後樹皮が再度生成され9年程度の間隔で皮剥きが繰り返されるそうである。日本の林業とは違い、材の利用として木を伐採することはないとのことである。そうしたコルク生産環境において、友人らは政府あるいは企業に対し、コルク・オーク林の成長モデル及び資源管理の意思決定システムの構築に関わるプロジェクトを展開している。稚樹生成時期、その密度管理などが、コルク・オーク林管理の経済性、成長量を左右する。しかしながら、研究者不足により管理の最適化、或いは稚樹生成に関するリスク管理の段階にはまだ至ってないようであった。

 ポルトガルのコルク・オーク林の管理は、これまで取り組んで来た日本のスギ林のそれとは異なるものの、管理を制御する要素の本質はそれほど違うものではない気がした。スギ林に対しては間伐の制御により最適化モデルの構築を行ってきたが、コルク・オーク林の管理にも、制御変数の性質、特性を変えることにより、同じような方法論の適用を見出せそうである。今後の共同プロジェクトの可能性を話し合いつつ、最後にワインの乾杯でポルトガルを後にした。

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