第49巻第1号9-21(2001)  特集「地図を描く・風景を眺める」  [研究詳解]

大脳皮質視覚野の情報表現を眺める

科学技術振興事業団 岡田真人

要旨

本解説では脳の視覚野の情報表現の解明に主成分分析(PCA)や多次元尺度法(MDS)がどのように使われているかを紹介する.大脳視覚野の解剖学的および生理学的な知見を簡単に述べ,ニューロンの集団的な挙動をMDSで解析した例としてYoungとYamaneの研究を紹介する.彼らはAIT野の顔ニューロンの集団をMDSで解析した.さらに顔の物理的な特徴ベクトルをMDSにより解析し,それらは良く似ていることを発見した.Makiokaらは,2次元パターンに関する心理学的な空間とパターンの物理的な空間をMDSで比較し,それらが互いに似ていることを発見した.最近,我々は側頭葉の顔ニューロンの集団の動的な振舞をMDSを用いて解析した.その結果,ニューロン集団において,大分類と詳細な分類の情報表現に階層性があり,情報表現が大分類から詳細な分類へと時間的に変化していることが分かった.

キーワード:脳,視覚野,ニューロン,情報表現,PCA, MDS.

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第49巻第1号23-42(2001)  特集「地図を描く・風景を眺める」  [研究詳解]

パターン認識における主成分分析
―顔画像認識を例として―

(株)NTTデータ 坂野鋭

要旨

本稿では,画像パターン認識において,主成分分析がどのように使われているか,また,顔画像認識を例にして主成分分析の方法が画像パターン認識のためにどのような改良を行われているかについて解説する.まず,統計学とパターン認識技術の関係について述べ主成分分析がその中でどのような位置をしめるのかについて概論する.その上で顔画像認識問題の諸課題,具体的には照明変動による顔画像の変動,姿勢変動に起因する非線形性などをとりあげ,それぞれの課題に対する対応策を議論する.

キーワード:パターン認識,コンピュータビジョン,主成分分析,顔画像認識.

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第49巻第1号43-56(2001)  特集「地図を描く・風景を眺める」  [研究詳解]

主成分分析を使って眺めた蛋白質の
エネルギー地形

京都大学 北尾彰朗

要旨

蛋白質はある少数の方向に変形しやすい.そのため主成分分析は蛋白質のゆらぎやそれを規定しているエネルギー面のかたち,いわゆるエネルギー地形を眺めるための方法として非常に有用である.蛋白質は多自由度・多成分系であるので,そのエネルギー地形は複雑である.蛋白質は天然の状態においても多数の準安定な状態をもち,それぞれの状態に対応するエネルギー地形のくぼみ(=エネルギー極小)がある.これらのくぼみの形や分布を調べ蛋白質のゆらぎとエネルギー地形を研究するための方法として,筆者らは主成分分析の発展形であるJAMモデルを提案している.このモデルと分子シミュレーション・実験データを駆使して明らかになってきた蛋白質のエネルギー地形について報告する.

キーワード:蛋白質,エネルギー地形,JAMモデル,調和性,非調和性.

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第49巻第1号57-75(2001)  特集「地図を描く・風景を眺める」  [研究詳解]

多次元空間解析で迫る生体高分子の
3次元立体構造とEnergetics

生物分子工学研究所 肥後順一・小野聡
大阪大学蛋白質研究所 中島伸介・中村春木

要旨

核磁気共鳴実験によって得られる蛋白質・核酸等の生体高分子中の多数の水素原子間距離の情報から,化学的構造制約条件下において高分子の立体構造を再構築するDistance Geometry 計算では,多次元尺度法や多次元空間中でのシミュレーティッド・アニーリング(SA)が利用される.一方,生体高分子の立体構造形成のダイナミクスを理解するためには構造空間に射影した自由エネルギー地形が必要であり,最近発展しているマルチカノニカル・アンサンブル等の効率的サンプリング手法が極めて有効である.また,これら計算結果の解析においては,主成分分析が多用される.我々が開発した効率的な構造探索手法を解説し,蛋白質や核酸の構造解析の現場で,これらの手法がどのように利用されているかを紹介する.

キーワード:Distance Geometry 計算,シミュレーティッド・アニーリング,自由エネルギー地形,マルチカノニカル・アンサンブル,主成分分析.

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第49巻第1号77-107(2001)  特集「地図を描く・風景を眺める」  [研究詳解]

点対応を用いた
複数の2次元画像からの3次元形状復元
―因子分解法の数理―

産業技術総合研究所 藤木淳

要旨

複数の2次元画像からカメラ運動と対象物体の立体形状を同時に復元する問題はコ ンピュータビジョンにおいて基本的かつ重要な問題であり,その中でも点特徴の対応に基づいた複数の2次元画像からのカメラ運動と対称物体の3次元復元問題はもっとも基本的かつ重要な問題である.この問題を解決する手法の中でも因子分解法は実際のカメラモデルである透視射影をアフィン射影で近似することにより問題を簡略化することによって数値計算上安定でかつ比較的良い結果を与える優れた手法である.因子分解法は手法として優れているだけでなく,複数のアフィン近似射影画像からのカメラ運動と対象物体の立体形状を同時に復元する問題を理解する上で非 常に有用な方法である.本稿では,因子分解法を通して点対応を用いた複数のアフィン近似射影画像からのカメラ運動と立体形状の復元の数理について解説する.また,透視射影による像からアフィン近似射影による像を推定することによって,透視射影画像からのカメラ運動と立体形状を同時に復元する手法及び逐次型因子分解法についても紹介する.

キーワード:Structure from motion, 因子分解法,逐次型,計量アフィン射影,透視射影.

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第49巻第1号109-131(2001)  特集「地図を描く・風景を眺める」  [研究詳解]

多変量時系列に対する主成分・因子分析

統計数理研究所 川崎能典

要旨

主成分分析や因子分析において標準的に想定されるデータセットの代表的な形式は,異なる被験者で観察される値が測定項目ごとに並べられているものと言えるだろう.多変量時系列においては,個体を表す添え字を時間の添え字に読み替えることで,形式的には主成分分析・因子分析を行うことは可能であるが,このような形式的な適用については古くから問題点が指摘されてきた.本稿の目的は,多変量時系列解析における主成分分析・因子分析に理論的に妥当性を与える2つの切り口から,これまでの主要な結果を整理・紹介することにある.ひとつは,時系列の離散Fourier変換によって漸近的に独立なデータに変換し,古典的な主成分・因子分析の枠組みに帰着させる方法であり,第2は観測されない因子過程に直接モデルで表現を与える方法である.最後に,時間領域での主成分分析が同時点での相関構造のみに着目した方法であることを指摘し,ラグ付き潜在因子を考慮した動的因子モデルの解析例 を示す.

キーワード:多変量時系列,主成分分析,因子分析,周波数領域,時間領域.

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第49巻第1号133-153(2001)  特集「地図を描く・風景を眺める」  [研究詳解]

非計量多次元尺度構成法への期待と新しい視点

中央大学 田口善弘
慶應義塾大学/イリノイ大学 大野克嗣
農業技術研究機構 北海道農業研究センター 横山和成

要旨

遺伝情報や脳神経情報の解析など大量のデータを縮約し特徴を抽出する必要性はますます高まりつつある.われわれはこのような大量情報の圧縮のための手法として,主に社会科学分野で使われている多変量解析の一種である非計量的な多次元尺度構成法に注目している.非計量的な多次元尺度構成法は,ある空間 ( 例えばユークリッド空間 )に,対象間の「差違」の大小関係を保存する条件の下で,対象を埋め込む手法であり,特徴抽出にできるだけ先入観を入れない方法と考えることができる.われわれは順序統計量を用いた非計量多次元尺度構成法の新しいアルゴリズムを提案するとともに,得られた布置がもとの距離関係をどのくらい満たしているか判定する方法を提案する.従来の非計量多次元尺度構成法の手法は大量のデータを処理することを眼目とはしてこなかったように見受けられるが,この手法は大規模データの処理にも十分対応可能である.この手法を具体的に土壌微生物の炭素源利用能の表,脳の電位の時系列データ,そして,シダやコケ/緑藻の分類( 表現形質の表と塩基配列データ )に適用し,いずれも2次元程度の低 次元に情報を圧縮できることを見出した.他の多変量解析の手法で同じことを試みた結果とも比較した.

キーワード:非計量多次元尺度構成法,多量データ,情報圧縮,当てはめの良さ.

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第49巻第1号155-174(2001)  [原著論文]

高次一般化2項係数の導出法と
2変量非心 F 分布への応用

ソニー株式会社 青柳俊昭
新情報開発機構 橋口博樹
東京理科大学 仁木直人

要旨

一般化 2 項係数は,通常の 2 整数に対する 2 項係数を, 2 つの分割に対するように拡張したものである.この係数間に成立する漸化式や係数自身の効率的な計算法は,特別な場合を除き,知られていない.本論文では,ゾーナル多項式の基本対称式展開を用いた高次 2 項係数の導出算法を提示する.その成果の多変量解析における応用例として,非心 F 行列の最大固有根分布を数値計算することにより,Roy の検定における帰無・対立両仮説の下での平均,分散,パーセント点,検出力等の値を実際に求める.

キーワード:基本対称式,固有値分布,ゾーナル多項式,多変量解析,非心 F 行列,分割.

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第49巻第1号175-198(2001)  [原著論文]

相反分布族の構築とその基本的性質

総合研究大学院大学 武井智裕
統計数理研究所 松縄規

要旨

密度関数の表現の中に主要な変量とその逆数の和という相反構造を含む確率分布の族を相反分布族として導入し,そこに属する種々の分布の密度関数型を与える.この分布族の特徴を表わすいくつかの興味深い等式などを提示し,それらの基本的性質を考察する.特に,指数関数の中に相反構造を持つものを指数相反分布族と呼び,逆ガウス分布,Birnbaum−Saunders分布などいくつかの既知の重要な分布をはじめ,一般化逆ガウス分布も含まれていることを示す.また,これまで知られていないと思われる興味ある若干の新しい相反分布も誘導する.更に,相反分布の分布関数の値を評価するための有用な不等式を,不完全ガンマ関数比を基に与える.関連する数値計算やそれらの結果についての数 表や図も提示する.

キーワード:相反関数,広義対称関数,相反相加平均,相反相乗平均,相反分布族,一般化逆ガウス分布族.

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