前震の確率予報の実施と評価: 東北地方太平洋沖地震までの15年間
Operational probability foreshock forecasts up until Tohoku-Oki earthquake

統計数理研究所

Institute of Statistical Mathematics

 

 

1.        はじめにある地域で新規の地震活動(M4.0)が始まったとき,それらが前震である確率を求めたい.その場所でその後,マグニチュード0.5以上飛びぬけた格段に大きな地震が起こる確率である.筆者ら予測計算式を提案してから15年以上経っている.この度の東北地方太平洋沖地震には顕著な前震活動があった.そこで,これらの前震が提案方式の観点からどのように予測されていたか,それらを含む15年間の確率予測とその検証を行ってみた.

 

2.        群れの先頭の地震の事前識別予報と評価
  Single-link法で群分け(第1上の距離式参照)を行い予測の実施とその結果の評価を行った.先ず,東北地方太平洋沖地震の前震活動M4.0は2月13日より始まり2月に9個,少し間を置いて3月9日のM7.3の最大前震を経て,3月11日のM9地震へ至る.この領域での前震である確率は全国平均(3.8%)以下であった(第1左上の地図パネル)ので,このケースについて地域性のみを使った予測としては成功といえない.しかし,全体的な15年間の地域性による確率予測は実際の結果が統計的には齟齬がないことが示されている(第1右上のグラフと下段の分割表参照).

 

3.        複数前震の事前識別予報と評価
 群内の時間間隔,震央間距離,マグニチュードの増減(M差)を使って,地震群が前震系列である確率を計算するアルゴリズムを第2の上段の式と中段の表で与えた.今回予測に使った気象庁マグニチュードは,提案した計算方式の表(第2の中段)を推定したときに使った旧気象庁マグニチュードと異なる(第2下段)が,敢えて旧マグニチュードを使って計算し既に公表されているこの表を使った.それにも拘らず結果は安定的であり,マグニチュードの些少の大小や下限についてはロバストであることが分かった.マグニチュードの値そのものでなく,マグニチュード列の増減関係が本質的であることが伺える.

 

この15年間の確率予測は実際の結果が統計的には齟齬がないことが示される(第3のグラフと分割表参照).最大地震(本震)が特に大きいものM6.5を選び出すと,群れの初期の段階における識別確率は明瞭である(第3左下グラフ参照).この図から,2月13日より始まった前震活動 M4.0は,当初,平均(7.2%)以下の予測確率であったが3月9日のM7.3の最大前震に向って増加し,最大前震時に20%近くになり,その後減少傾向であるが,3月11日のM9地震まで平均以上の予測確率を維持している.前震・本震.余震系列の多くの場合,本震が起きると急速に確率が減少する(第4)ので,格段に大きいM7.3が起きても予測確率が下がらないので更に格段に大きな地震が起きる可能性が低くないことを示唆している.

 

因みに2008年の茨城県沖の群発地震は20%以上の予測確率を保持してM7の本震に至っている(第3左下グラフ).

(尾形良彦)

 

参考文献

Ogata, Y., Utsu, T. and K. Katsura, 1996, Geophys. J. Int., 127, 17-30.