地震の予測(山形東高等学校・東京同窓会会報)

尾 形 良 彦   

この原稿の依頼を受けて間もなく東日本大震災が発生しました。地震予測研究の一端を担うものとして無力感に苛まれていますが、気力を振り絞って書いてみました。

昔に比べてデータは飛躍的に増えて、地球物理学としての地震の研究は目覚ましく進んでいます。大地震のたびに「想定外」の新事実が判明します。地震が起こってから、どういう仕組みだったのかということは明瞭になります。しかし、それらを予測するという課題は別物です。日常の観測値が異常になっても、それが大地震の前兆なのか、どの程度切迫性があるのかなどの識別には大きな不確定さが伴います。一般に切望されているような地震予知は難しく、「危険性が高い」「いつ起きても不思議でない」などを数量的に示す確率的予測が現実的なのです。

大地震の長期確率予測は政府の地震調査委員会から公表されています。これは断層の変位量や最後の地震からの経過時間などに基づいて計算されています。地質データの精度など難しい問題があり、その予測確率の不偏性に課題を残していますが、百十の活断層帯や三十の海域に大地震が起きる確率を与えています。例えば山形盆地や新庄盆地の一部断層帯での今後30年間の確率はそれぞれ上限8% および5% と見積もられていますが、前者は1995年兵庫県南部地震発生の前と同等の危険度です。また、今回の東北沖巨大地震の破壊域は、もともと6つの領域に分けられて見積もられており、そのうち2つの領域での30年確率は90%以上なのに、これらが一挙に破壊するシナリオは想定されませんでした。

中小の地震は普段から数多く起き、それらの発生の仕方は全くの無秩序ではなく、統計的に確かな法則が認められます。それらの経験則は明治以来の日本における先駆的な研究によるものです。これらをモデル化すると中小地震の確率的な予測ができます。たとえばETASモデルというものがありますが、これは過去の地震発生の履歴データを使って今後の発生確率を予測するモデルです。そして地震活動の各地域の特徴や相場を再現します。これは地震活動の比較研究などに使われており、米カリフォルニア州では来年からの短期的予報計画に採用されます。更に、これを「ものさし」として使い、地震活動の異常変化(相対的な静穏化など相場の活動からの乖離)を検出することもできます。

ほかに短期的予測で活用すべきものに前震があります。少なからぬ大地震に前震が認められますが、これは大地震が起きてから初めて分かる事実です。そこで、目標は、或る所で中規模の地震が起き始めたとき、これが余震を伴って無事終焉するのか、または更に大きな地震が来るのか、これを統計的に判別して確率予測することです。この研究で一定の前進があるので、いずれ実用化されるでしょう。

現在、地震の予測プロジェクトが地震国で連携して進められています。世界の各地域に合ったモデルを開発し予測の実績を競うのです。このプロジェクトで標準的な地震活動モデルの改訂が進むでしょう。その上で、新知見を組み込んだモデルが出てくれば、それは標準モデルと比較して、予測が改善されたか否かの評価ができます。もとより、大地震を少しでも高い確率利得で予測するためには、地震発生の仕組みや観測異常現象の包括的な研究が不可欠です。最初に述べたように、異常現象が見られた時その大地震発生への前兆性や切迫性の不確定性を見積もる必要があり、これには数多くの事例を研究しなければなりません。それらの知見をどの様に組み込んで、従来のモデルを超える確率予測を実現するのかが課題です。

 

[図の説明]

時空間ETASモデルによる長期的な地震発生予測の例。

(1) マグニチュード(M)5.0以上の地震が起きる単位面積時間当りの(1995年時点での)確率予測。星印はその後15年間に起きたM6.7以上の大地震。

(2)  M4以上の内陸直下型地震が(2010年末時点での)今後1年間に起きる単位面積当りの確率予測。

 


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Updated on 27 July 2011