統計的地震予測の組織的研究(20032007)の中間報告

 

地震予測解析グループ

予測発見戦略研究センター

情報・システム研究機構  統計数理研究所

 

 

目次

研究動機  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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(1) 地震発生データ  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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(2) その他の地球物理学的データ  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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(3) 点過程モデル  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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(4) 地震・余震の確率予測  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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(5) 物理的モデルと地震活動の接面の解明  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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(6) 時空間点過程モデル  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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文献  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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研究の目的  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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研究実施計画 2003-2007  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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実施体制  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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研究成果 2003-2005  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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2003-2005年 主要結果  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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(1) 大地震による周辺部へのコサイスミック地震活動変化と地殻のストレス変化  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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(2) 余震活動の相対的静穏化現象とこれに関するメカニズム  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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(3) 地震活動の前駆的な相対的静穏化および活発化と地殻のストレス変化  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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(4) 時空間ETASモデル  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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(5) 物理的素過程モデルと地震活動の接面の解明  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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(6) 地震の大きさ分布と地震検出率の同時推定および余震の確率予測  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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発表論文2003-2005  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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査読付き論文  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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主な報告など  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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本プロジェクトの今後の展開について  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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(1) 静穏化現象のシナリオ追求による大地震・大余震の予測  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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(2) 時空間ETASモデルの効果的運用のための再モデル化  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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(3) 予測としての前震の識別確率  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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(4) ストレス変化と地震のメカニズム分布の変化  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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(5) 長期予測‐ベイズ的確率予測  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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(6) 各種データの有効利用と品質管理の為のモデリング  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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文献  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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研究動機

(1)   地震発生データ

気象庁の震源カタログは他の各種地球物理データの中でも収録が最も長い期間にわたり、検知能力の差はあるが地域を選ばず記録されている点で貴重である。特に一元化後の震源カタログは検知精度が飛躍的に上がり地震活動の詳細な研究が進むことが期待される。これを有効につかう手だてはいくらでもあろうが、特に地震活動の統計的研究にもっと組織的に使われてもよい。これを有効に使う鍵は、研究仮説や目的に応じて、点過程モデルを構成し当てはめ、そこからもっと詳しい情報を引き出すことである。またF-netなどの発震機構データはストレス変化の議論に重要な役割を占めてきている。

(2)   その他の地球物理学的データ

この他にも地球電磁気や地電流の変化、井戸の水位、地球化学成分の量的変化などの異常変化を客観的に分類したものと、実際の地震活動との量的関係について確率予測に有効に結び付けられるか、その様な研究が進められると考える。その為には、これら諸データの正常な推移がどのようなものなのか、その変動がどのような物理的・化学的変数で説明されるものなのか、これらの定性的な研究にのっとり、統計的入出力システムを構成しパラメタを調節し定量的な研究を進める必要がある。例えば井戸の水位、歪み計や傾斜計、GPSなどの測地的データは気圧、降雨量、地球潮汐、海洋潮汐、地震後余効変動などに関係しているのは明らかであるが、その時間遅れやサイズなどの量的関係のみならず空間的相関や非線型性は地域性・個性に依存してモデル化し調節せねばならない。その上で、これらの異常現象と地震の発生の確率変動への効果の有意性を検証するためには特有の統計モデルが有効である。

(3)   点過程モデル

点過程。点過程は地震発生のように突発的な確率的現象を抽象化した数学的モデルであるが、これが地震活動の研究に有効になりえた理由は1980年代頃から発展した「条件つき強度関数」によるモデル化と計算機環境の発展による最尤法の実用化である。条件つき強度関数は、ある時間や場所に事象(点)の発生する強度(確率の微分)をそれまでの履歴や他の情報で予測するという観点から定義された点過程の基本概念である。これを統計的予測点過程モデルとし最尤法で推定、Thinning 法で点過程エベントの発生シミュレーション[Ogata, 1983]、そして「残差」診断解析 [Ogata, 1983, 1988; Ogata and Shimazaki, 1984; Ogata, 1999] などの統計方法の進展が地震活動の解析に広い可能性を示しつつある。点過程の統計解析プログラム集としてはTIMSAC84 [Akaike et al., 1985] IASPEI Software Library SASeis [Utsu and Ogata, 1997] が利用可能である。

 

ETASモデル。ETASモデルは元来、一般地震活動を表現するために、余震減衰の改良大森関数の重ねあわせたものとして創出されたものであるが、余震活動そのものを純粋な場合から群発型の複雑な経過までを量的に良く表現できる。また別の点過程モデルによって、異なる地域における地震活動間の因果関係(相互作用)の検証、季節性・検知能力や応力場の変化など第3因子の変化の探索などができる。この様に目的に応じて条件付き強度関数による自在なモデル化が可能である。

 

ETASモデルによる残差解析。余震発生の連鎖性・集中性は断層内のすべりに伴う急激で局所的なストレス変化による誘発のためであるが, 余震の断層群がフラクタル的で複雑なため膨大な数の小断層破壊の記述は難しく,そのため余震を予測する物理的モデルが難しい。これに対して, 統計力学の様にマクロな記述の,余震の経験則をもとに構成した統計的ETASモデルが必要で有効である。この様に, データに適合したETASモデルによって余震効果を取り込んで地震活動を予測する。このことによって領域外の破壊やすべりが原因となって広域の相対的地震活動変化を促すストレス増減の変化が見易くなる。

(4)   震・余震の確率予測

余震予測の帰無仮説モデル。確率予測は天気予報の様に常時計算されている必要がある。注目されている地域のみならず、なるべく全体をカバーするようにすることが確率予測の実績評価データを蓄積し改善するために有用である。改良大森減衰公式と Gutenberg-Richter のマグニチュード頻度分布を最尤法 [Utsu, 1965; Aki, 1965; Ogata, 1983] で推定し,これに基づく確率予測 [Reasenberg and Jones, 1989] は既にカルフォルニアと日本で実用化されている。しかし余震についても一般にETASモデルの方が大森・宇津の公式より当てはまりが良い [Guo and Ogata, 1997] のでETASモデルによってより細かな確率予報が出せるようにしたい。ETASモデルを超えるような,おそらく物理的知見を踏まえたモデルの出現は強く待望されるが,その予報の評価は先ずETASモデルと比べられるべきであろう。

 

余震活動の相対的静穏化。地震活動の静穏化や活発化などは大地震の前兆現象として数多く指摘されてきたが、これらの異常性がどのように大地震の発生に結びつくのかについての研究はあまり多くの事例ではなされていない。余震列を含め重要なのは多くの事例を集めた研究である。Matsu'ura [1986] は大森・宇津モデルをあてはめ余震活動に相対的静穏化が見られる場合、新たな断層破壊を伴う大きな余震が起きる場合を

多数の事例を挙げている。その後兵庫県南部地震の最大余震の発生の事前に予測をした [松浦ほか, 1995] が,現在までこれが実用的なものとなるに至っていない。その一つの理由は,前述のとおり,多くの余震は大森・宇津(改良大森)公式より複雑であるものが多い[Guo and Ogata, 1997]ということである。

   Ogata [2001] は日本における76個の本震について,異なる下限マグニチュードの259例のデータについてETASモデルを当てはめ解析している。そして余震活動に相対的静穏化が見られる場合、正常な減衰過程が継続中である場合より、新たな断層破壊を伴う大きな余震が起きる可能性が高い。その際特に注意しなければならないのは余震活動の静穏化の有意性を判定するにはCHANGE-POINTに関する判定 [Ogata, 1992, 1999] をする必要があることである。さらに,静穏化が長期間に及ぶと、余震域近傍(たとえば200km以内)では6年内の期間に、本震と同規模以上の地震が起きる発生確率が、その他の場合より数倍以上高い。余震の発振機構のデータが十分蓄積されつつある途上なので,その物理的メカニズムの解明はこれからの課題である。

 

相対的静穏化現象と近辺の断層内の先行すべりとの関係。このような現象のメカニズムの可能性として、余震域近傍の当該断層内において先行すべりがあったと仮定して,これに伴う応力変化のため余震活動の低下が起きたと考え、クーロンの破壊基準の stress-shadowと余震活動の相対的静穏化の時空間パタンとの対応がつくかを調べてみることは意味がありそうである。余震群の大勢とプレスリップの断層メカニズムは、それぞれの本震とほぼ同様の震源メカニズムを持つものと仮定してもよいだ

ろう。

(5)   物理的モデルと地震活動の接面の解明

外因性ストレス変化と群発地震活動。火山性の地震や各種群発地震は傾斜計や歪み計の変化に同期している事が観測されている。地球潮汐の変動と地震活動が時や場所によって同期したりすることも数多く報告されている。応力の蓄積と地震発生の力学的メカニズムの研究 [Dieterich et al., 2000; Toda et al., 2002] も急速に進んでいる。Iwata [2002] は鉱山の山はね(AE)発生データによる発生頻度と地球潮汐の月齢成分の因果関係を求める点過程モデルを作成し、解析をしたところ、因果関係の量的な知見が得られた。現在十分な密度のGPS観測網によって応力分布の時空間変化が捉えられる様になってきている。この様な地下の場変化の物理モデルと地震活動を結び付ける点過程統計モデルの作成を通じて震源カタログなどの地球物理各種データとの相関・因果関係や時間的遅れの統計的探索や検証をする。外因性の入出力モデルによる地震発生システムの同定、パラメタの調節については最尤法でもベイズ法でも尤度に基づいており、これが自然で現実的な方法である。

 

逆問題と可視化。他方、地殻内の各種の変動素過程を捉えることは地表や限られた部分で観測されるデータの逆問題であり、ABICなどに基づく客観的かつ大規模パラメタのベイズモデルの構築と求解によることが多いと考えられる。これらの合理的なモデルによって得られた可視化情報に対応して、たとえばG-R式の-[Ogata et al., 1990]、ETASモデルの , α, -値などの地震活動モデルの時間・空間パラメタの変化などを求め、アスペリティや断層面の強度分布・応力分布や地震発生準備過程の研究などに資するような計量的把握を進めたい。

 

ETASモデルと比べた異常活動と地殻の応力変化。地殻内における破壊応力の急変と地震活動の活発化や静穏化との相関、それによる大地震発生確率の評価、地殻変動やGPSなどの測地学的データとの関わりなどの研究が急速に進んでいる。一方、地殻や断層群は不均質・非一様・フラクタル性などの極端な複雑性があり、地震活動・発震機構のパタンは場所によって異なる。それゆえ余震群に内在する地震活動と応力変化の詳細な物理学的メカニズムの研究を進めるのは難しい。しかし、各領域の地震活動に統計的計測モデルをあてはめ、マクロ的で精度の良い予測を考え,これと実際の地震活動を比べ、その異常性を測ることによって、微弱な応力の変化を見ることが可能になると考えられる。たとえば地震活動の静穏化現象はETASモデルを物差しにして診断解析によって見ることで異常を感度良く検出できる。とくに、時空間的に広域の地震活動をリアルタイムでモニターするために大規模ベイズモデルによるアプローチを展望している。

(6)   時空間点過程モデル

最近の地震カタログの精度向上を考えると、一連の地震活動において時間・空間・マグニチュードやモーメントテンソルなど基本要素間相互関係の統計的性質の探求、地震活動の非定常性や地域的多様性の研究など、それらの基礎研究は大いにその余地がある。とくに時空間データを直接的に解析し、地震活動の地域差などを考慮の上に、これらを物差しに地震活動の微妙な静穏化や活発化の地域や時間の検出などの異常活動の検出能力を拡大する標準的地震活動計測モデルの進展が望まれる。

   巨大地震に関わる静穏化は長期にわたるデータの均質性を保持するために,広領域にわたって5.3前後以上の中地震データを使って調べた[Ogata, 1992]。 しかし,下限マグニチュードが下がるにしたがって解析は難しくなる,データが増えると地震活動のパタンの多様性が強まり,地域内の地震活動を単一の時空間ETASモデル[Ogata, 1998] によって適切に表現できない場合が多くなるからである。かくして地震活動の地域的多様性をどの様に取り扱うかという課題がある。この様な困難からの出口として現在検討を進めているのが, ETASを基本にした, 大量のパラメタを使うベイズ型統計モデルである.

   制限付きトリガーモデル [Ogata, 2001] は各地震についての余震活動の特徴を同じものとしないモデルを考え、最尤法で推定した。これに基づいて、マグニチュードが与えられていない、発震時刻のみのデータから対応する余震数(クラスタ・サイズ)を推定し、これからマグニチュードを推定する方式を提案できる。1926年以来の日本全体での大地震の余震数を推定クラスタサイズで求めマグニチュードに対するプロットをすると陸域の地震と海域の地震では余震生成密度に明瞭な違いが見えた。1995年兵庫県南部地震の余震の空間分布とそれらの余震のクラスタサイズ分布は必ずしも余震のマグニチュードと対応しない。またクラスタサイズの大きな余震の震源は余震域の境界部分に多く分布することが見えた。これを広域なデータについて時空間モデルで表現するにはそのパラメタが場所の関数になるようにしデータの数倍もの更なるパラメタを使ってベイズ的モデリングをする必要がある。

   地震の顔。他方、順調な地震活動であっても、最尤法で求められるモデルは平均的な地震活動の近似でしかない。実際、例えばマグニチュード頻度分布の値のように、データの下限のマグニチュードが小さくなるに従って隣接地域でも地震活動の違いが浮き彫りになってくる(地域内の不均質性)。これはモデルのパラメタが場所によって有意に異なっていることで認識される。この問題は位置依存パラメタのベイズ型大規模モデルによって攻略でき、ETASモデルも同様の拡張の筋道を辿ることになろう。この様にして求められた地震活動の地域的不均質性や時間的非定常性の変化と地質や応力分布、その変化などの地殻内の物理的諸過程との対応の探索を進めることになろう。

 

文献

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Dieterich, J., Cayol, V. and Okubo, P., The use of earthquake rate changes as a stress meter at Kilauea volcano, Nature 408, 457-460 (2000).

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研究の目的:

(1)   地震活動を計測する統計的時空間モデルの開発を進める。地域(空間)的多様性・不均質性や時間的非定常性の変化を捉えるベイズ型モデルの開発と現実的な推定法の研究を進め、地殻内の応力分布や強度分布などの変化の研究に貢献する。

(2)   地震活動の静穏化、空白域、前震、その他異常現象の大地震に対する前兆性の統計的吟味や時空間的特徴の調査をすすめ,応力場などの地下の物理場の変化などの物理的素過程モデルと地震活動を結び付ける統計モデルの作成とデータのあてはめを通じて、そのシステムを理解するように努める。

(3)   一定のストレス変化のもとで地震活動変化を発震機構データの頻度分布変化に注目した研究を進める。

(4)   震源カタログや関連地球科学的データに基づく、客観的でより有効な確率予測用の統計的モデルの開発とその予測評価の研究をすすめる。これを通じて地球物理各種データを入力とし地震活動を出力とするシステムの因果関係の適合度をはかるなどの統計的探索や検証を確率的予測効率の観点から評価する。

(5)   震源カタログや各種地球物理データの時間的空間的均質化、異常値欠測値の補間、地球物理現象の各種ノイズの除去、および各種データ間相互使用のための規格化標準化などデータの品質管理に関わる統計的研究をすすめる。

 

 

研究実施計画 2003 – 2007

以下の目標を時間の許す限り機会を捉えて着手し達成を追求する。

(1)   ETASモデルによる予測地震活動に対する実際の地震活動の逸脱がどの様なストレス変化によってなされたかをより多くの事例データをもとに解析し、このような地震活動の逸脱が地殻歪変化の鋭敏なセンサーとして有用である事を実証する。

(2)   このことを特に余震列について解析し、大きな余震(最大余震など)の事前の余震変化について研究する。

(3)   地震発生機構(メカニズム)のデータカタログを使用して、前駆すべりやサイレント地震のとの関係での因果関係を論ずる統計モデルや解析法を研究する。

(4)   連続的な測地学的時系列データを地震発生に関する説明変数として取り込む為の基礎研究を重ね、地殻場変化の物理モデルと地震活動を結びつける時空間点過程などの高度の統計モデル作成を試みる。

(5)   ETASモデルのパラメタ推定やそのグラフィカル表示など、世界の地震活動研究者の使用に耐える頑健なソフトウェアの出版を目指す。

(6)   計測技術の制約から本震直後しばらく(1日以内)の余震の大量欠測は避けられない。これは現在、気象庁が実施している余震の確率予報の弱点であるが,これに対して地震統計の経験則から情報を補う統計モデルの作成をする。

(7)   余震の時空間データに対して階層ベイズ的時空間ETASモデルで予測される各地の地震活動度と実際の地震発生パタン比較のためモデリングを行い解析する。これらの発生率の比率である相対的地震発生率の変化と、地震発生機構(メカニズム)の時空間的変化を比較し、地球物理的解釈を進める。

(8)   階層ベイズ型時空間モデル (Hierarchical Space-Time ETAS model)など、数多くのデータ解析する事によって、多くの地震活動研究者の使用に耐える頑健なソフトウェアの出版を目指す。

 

 

実施体制:

予測発見戦略研究センター地震予測研究グループ

尾形良彦,統計数理研究所教授 モデリング研究系 時空間モデリンググループ

遠田晋次 統計数理研究所客員教授,産業技術総合研究所 活断層研究センター, 2005 -

村田泰章 統計数理研究所客員助教授 産業技術総合研究所 地質調査総合センター, 2003 - 2004

岩田貴樹 統計数理研究所 プロジェクト研究員(II, 2005 -

庄 建倉(Zhuang Jiancang)日本学術振興会・外国人特別研究員, 2001 - 2005

楠城一嘉 日本学術振興会・特別研究員(PD), 2003 -

研究補助;若浦 雅嗣(総研大院生)田中 潮 (総研大院生)忽那 映子(非常勤研究支援員)

 

 

研究成果 2003 – 2005

2003 - 2005 主要結果

(1)   大地震による周辺部へのコサイスミック地震活動変化と地殻のストレス変化

大地震のもたらすストレス変化は極めて大きいので,微小地震レベルまでの地震活動を見れば多くの実際に起きた地震や抑制された潜在的な地震の数が大幅に増えるので,ETASモデルなどの残差解析をするまでも無くコサイスミックな活発化や静穏化は明瞭であり,これらがクーロンの破壊ストレス変化と調和的に対応していることも明瞭である。東南海地震 (1944, M7.9)1946年南海地震,そして最近の十勝沖地震について調べた。その 他の日本内外の例として[4] , [23], [32], [A8], [A15], [A16] , [A23], [A24]も参照。

 

南海トラフの巨大地震前後の西日本内陸部における地震活動 [12, A4, A28]1944年東南海地震の断層モデルと1946年南海地震の断層モデルによって,西日本各地域でのコサイスミックなクーロンの破壊ストレス変化(ΔCFS)の分布を調べた。これらの各地域での地震活動の変化はΔCFSの値に調和的である。すなわち,正のΔCFSの地域ではその巨大地震を契機に活動がトリガーされ活発化し,負のΔCFSの地域ではその巨大地震を契機にそこでの活動が静穏化している。これによると,例えば和歌山,丹波,四国での静穏化は南海地震の前駆的すべりでは説明が難しいが,東南海地震のすべりによる歪変化が負に働いたと考えれば説明がつく。他方,和歌山市周辺,四国東部,兵庫県南部などでは東南海地震発生以前から静穏化がみられる。これは東南海地震の断層内または深部などでの前駆的すべりを示唆しているかもしない。

   南海地震による正のΔCFSの地域で,地震後からの活発化が見られる一方,和歌山市周辺のΔCFSは負で,活動は再開しているものの1943年以前の活動度より遥かに低い。とくに和歌山県北部(和歌山市)周辺と中部は時空間(緯度)パタンが北緯34度周辺を境に対照的である。北部は逆断層の割合が多く中部地域は横ずれが多いので,そのような特徴が反映していると考えられる。

   紀伊半島南部は東南海地震や南海地震の断層の直上に近いのでΔCFSの絶対値は大きいが,東南海地震の場合,正負の境界が微妙である。ここでは他の地域と違って二つの巨大地震をはさむ約2年間の地震活動は減衰することなく活発である。潮岬近辺の有感地震も同様な活動を呈し,最初は余震のように減衰するが,194510月頃活発化し活動は維持されている。これらの活発化が東南海地震の余効すべりによるものか,南海地震の前駆的すべりによるものかどちらでも説明が付けられる。

 

2003年十勝沖沖地震の周辺部における地震時の歪変化と地震活動変化 [A21, A33]。十勝沖地震の直後、阿寒、摩周、足寄町などの火山フロント沿いに浅い活動が活発化した。国土地理院の断層モデルに対して、受け手のメカニズムとして、この地域の震源分布から推定される走行の垂直横ずれ断層群を仮定すると、十勝沖地震のすべりでCFFが増加(数bars)している地域で活発化が起こったと考えられる。次に、日高南部・浦河沖の3次元的な地震活動に次の様な特徴的な変化が見られる。すなわち浦河付近の浅い地震活動(0-20km)が活発化し、深さ20-45kmでは静穏化し、45km以深は活発化している。これらを説明しうるものとして、日高衝突帯モデルが考えられる。すなわち、20-45kmでは東北日本の地殻が日高山脈の下に潜り込む北東傾斜の逆断層が卓越し(-1~-5 bars)、その上部の浅発地震では南西‐東北圧縮strike-slip (+25bar)が卓越していると考えられる。45km以深は十勝沖地震の断層の延長深部の境界逆断層型メカニズムで5 ~ +10bar前後のCFF増加が見込まれる。

 

ETASモデルで検出されたコサイスミックな静穏化と活発化 [22, A19] 20035月宮城県沖の余震活動は大森・宇津公式が良く当てはまり, M1.5以上(但し本震後20日以降のあてはめ)では, 宮城県北部の地震(M6.2)による減衰曲線からのコサイスミックな相対的静穏化が明瞭に見られた。一方,宮城県北部・岩手県南部地域の内陸部の地震活動は2003528日の宮城沖地震によってトリガーされ相対的に活発化したことが明瞭で, 2003728日の宮城県北部の前震活動も, この地域の標準的な活動より相対的活動度(比ETASモデル)は高い。これらの活発化・静穏化は双方の断層メカニズムによるCFFの増加・減少に調和的に対応している。

(2)   余震活動の相対的静穏化現象とこれに関するメカニズムの研究

地震活動の予測と実際の地震発生の相違(静穏化や活発化)を測ることで、地震活動が地殻中のストレス変化のセンサーになる可能性が出てきた。相対的静穏化や活発化は、地震(余震)活動に働くクーロン破壊応力の減少や増大と整合的に対応すると考えられる。非地震性のすべりの所在をつきとめることは大地震の発生の確率予測の効率を上げるのに役立そうである。

 

南カルフォルニアにおける連発地震の余震活動 [2]。余震活動の相対的静穏化現象のメカニズムとして、余震域近傍の当該断層内での先行すべりを仮定した。これに伴う応力変化のため余震活動の低下が起きたと考え、クーロンの破壊基準(CFF)の stress-shadowと余震活動の相対的静穏化の時空間パタンとの対応を調べた。南カルフォルニアの1992Joshua Tree地震の余震活動および 1992Landers 地震 (Ms 7.3) の余震がETASモデルによる解析の結果、とくに地殻浅部で有意な相対的静穏化がみられ、それぞれ Landers 地震と 1999Hector Mine 地震(Ms 7.1)の断層内部での非地震性すべりによると考えると理論的な整合性が得られる事を示した。Hector Mine 地震の余震活動はデータがあった14ヶ月間正常に推移し,その後現在(200511月)に至るまで近辺で大きな地震は起きていない。

 

2003年宮城県沖,宮城県北部の余震列 [22, A19]。最初の余震系列の経過情報から,その後に近隣で本震に近い規模またはそれ以上の大きな余震や地震の発生の確率)が高まるか否かを判断するのは地震予知の観点から重要である。実際, 前者の地震の余震系列にETAS点過程を当てはめ, AICによる適合度を比較してみると, 余震活動が静穏化している場合が多い。同様の解析によると2003年宮城県北部地域の前震も静穏化している可能性が大きい。

 このほか20035月宮城県沖の余震活動は, M1.5以上(但し本震後20日以降のあてはめ)では, 宮城県北部の地震(M6.2) によると思われるコサイスミックな静穏化が見られ, M0以上では前駆的な静穏化も見られた。20035月宮城県沖の本震前、その近傍周辺領域で数ヶ月に渡る静穏化が微小地震では見られる。

 

2004年新潟県中越地震 (M6.8) の余震活動の特徴 [A30],中越地震の後,本震(M6.8)と大きく違わないマグニチュード6以上の大きな余震が頻発した。余震活動は小さな下限マグニチュード(例えばM3.0)では余震列全体としてはETASモデルに従い順調に経緯しているように見えるが, 深さ分布の時間経緯は非常に独特である。取りたてて大きな余震が起きていないにも関わらず, 本震発生後半日で深い余震が急に少なくなり逆に浅い余震が活発になっていく。この余震分布の移動現象を説明するものとして20041027日のM6.1の余震の前駆的すべりを考えてみた。深さ7 - 8 km を境として浅いほうで正のΔCFF, 深いほうで負のΔCFFが見込まれる。ここに示された気象庁一元化震源が大学等の臨時観測で決められた震源より深めに決まっていることを考慮すると, 特徴的な余震活動の推移を説明できるのではないかと考える。何れにしても,今回の事例は,余震全体が ETASモデルで順調に推移していることをもって,大きな余震が当面無いとは言えない事を示すものである。余震活動の静穏化が見られる場合は余震域の大部分がstress-shadowで無ければならないと考える。

 

福岡県西方沖の余震活動での相対的静穏化とストレスシャドウと前駆すべりのシナリオについて [30, A27, A35]。 余震の確率予報によるとM5.5以上の大余震の可能性は高々10%と見積もられていたが,本震後1ヶ月経って420日朝にM5.8の最大余震が起きた。余震の確率予報は余震活動が改良大森関数に則って順調に推移している事を前提としているので,裏を返せば今回の余震活動はそうでなかった可能性が高い。余震活動の静穏化の有無を解析することによって大きな余震または付近での本震以上の地震発生の確率的な予測の利得があがることが期待されている 。本震後2週間に開かれた予知連のため,この余震を解析したところ相対的静穏化が見られたので前駆すべりのシナリオをたて予測を試み報告した。その後さらに週間経って最大余震が発生したが,結果的には,警固断層内でのすべりで無いことを除き,考慮したシナリオのいずれでもなかった。しかし,その発振機構や2次余震の震源分布から,前駆的すべりのモデルをたてると本余震の静穏化や,時間経過とともに余震分布密度が浅いほうに移動していること,海の中道から博多湾のオフフォールト地震活動が最大余震10日前頃から顕著に低下していることが説明可能である。最大余震の余震,つまり2次余震についても解析した。これらの中で最大のM5.0の余震が52日未明に発生したが,前駆すべりを仮定したストレス変化によって二次余震の静穏化や二次余震がM5.0の余震に向かって収束している様子を説明できる。

(3)   地震活動の前駆的な相対的静穏化・活発化と地殻のストレス変化の関係

ストレス変化が小さくても、ETASモデルによる統計解析によって、微小地震の活動の静穏化や活発化が感度良く見られても不思議ではない。そのようなストレス変化の原因は、或る地震の前駆的すべりかも知れないし、いわゆる常習的な間欠的スロースリップかもしれない。問題は、ストレスの急変の源が何処であるのかを見出すことであろう。そのためには考えられるスリップのシナリオを設定し,それによるストレスシャドーを照合させ,その可能性を見積る積極的な予測が望まれる。

 

2004年新潟県中越地震付近の最近の地震活動 [A27, 29]。中越地震断層の中で仮に前駆的すべりが起きたとすると,ごく小さい変化であるが,断層近地をのぞいてほぼ同様のCFF変化パタンになる。この変化によって理論的に地震活動が抑制されるべき領域と促進されるべき領域によって区分けされた4つの領域について,それぞれの199710月以降の時期の地震データにETASモデルをあてはめてみた。全ての領域で,地震活動に変化があったとする場合の当てはまりが良く, 東と西の領域では地震活動が予測されたものより静穏化を示し,南と北の領域では予測された地震活動より活発化している。これらは各領域でのCFFの増・減のパタンと一致している。ただし, 活動の変化は全く同時というわけでなく,2001年から2002年にかけて起きている。

 

北日本における前駆的地震活動の静穏化・活発化とストレス変化の関係 [21, A21, A25]。北日本の一元化データをETASモデルで解析すると、(11993年北海道南西沖地震の余震活動が1996年に顕著に低下(相対的静穏化)している。この時期で十勝沖地震の震源断層またはその深部での先駆的滑りを仮定すると、余震域はストレスシャドウになっている。同時に、この滑りによって、東北地方内陸部や東北沖プレート境界部のスラスト型メカニズムの受け手断層ではCFFが増加しなければならない。これに調和的に、ETASモデルで(2)東北地方内陸部の地震活動の活発化が示される(相対的活発化)。さらに(31994年三陸はるか沖の余震活動にも相対的な活発化が見られる。

 ストレスの急変の源が何処であるのかを見出す手がかりとして発震メカニズムの統計解析を行うことが有望であると考えられる。地震のメカニズム解は概してその地震が発生する地域の応力変化を反映したものと考えられる。想定断層運動を仮定して、各発生地震のメカニズムを受け手としてのΔCFF の頻度分布の時間変化の有無を調べるのである。

 

宮城県沖プレート境界型の大地震までの東北地方と東北沖における地震活動の特徴 [29, A20]. 宮城県沖プレート境界型大地震の再来の問題に関連して,本研究では, 気象庁震源データにもとづいて, 1936年(7.5)および1978年(7.4)それぞれの地震以前の周辺部における地震活動や余震活動についてETASモデルで解析し, トリガー作用の作業仮説をたてて宮城県沖地震の中期的な予測に参考になりそうな特徴を模索した。

   解析したのは(11937年までの東北地方内陸部の地震活動,21933年三陸沖地震の余震活動,31964年新潟地震の余震を含む1980年までの日本海東縁・東北地方内陸部の地震活動,41968年十勝沖地震の余震活動,51978年2月の牡鹿半島沖地震の余震活動などである。これらの特徴を要約すると, 宮城県沖の断層モデルにもとづき事前のすべりを仮定したとき, マイナス数ミリバール程度までのΔCFFのstress-shadow 地域の広域地震活動や余震活動には相対的静穏化がみられること, ΔCFFが中立の地域や数ミリバール程度より弱い正のΔCFFの地域における地震活動や余震活動は順調に推移している。

   次に, 来るべき宮城県沖プレート境界地震のプレスリップを仮定してこれまでのケースと同様の特徴が見られるか, 近年のデータを解析してみた。解析例としては,61983年日本海中部地震の余震を含む日本海沿岸・東北地方内陸部の地震活動,71994年三陸はるか沖地震の余震活動,81962年宮城県北部地震余震の最近の活動,91996宮城県鳴子町の余震活動,101998年宮城県南部の地震の余震活動,111998年岩手県雫石の余震活動,12200211月宮城県沖の地震の余震活動, そして(13)一元化データによる宮城県直下深部のプレート境界の地震活動である。これらの活動の静穏化などの特徴は宮城県沖の断層内の前駆的すべりによるものと考えるより, 20035月の宮城県沖地震断層内の前駆的すべりによるものと考えたほうが調和的に説明できる。

 

2003年十勝沖地震(M8.0)と2004年釧路沖の地震(M7.1)の余震活動および北海道東部の内陸地震活動の特徴について [A12, A27, A28, A33, A36]. 200412月(M7.1)の釧路沖地震までの2003年十勝沖地震(M8.0)の余震を解析した。十勝沖地震の余震域は大変広く,場所によって余震活動のパタンが異なっているので本震後しばらくの活発な全体の余震活動は一つのETASモデルで当てはめるのに無理がある。そこで12.5日以降から当てはめたところ,20042月末頃まで5ヶ月ほどの当てはまりは順調であったが,その後の余震活動に有意な相対的静穏化が見られた。余震活動の地域性を見るために時空間分布図で調べた。北緯42.1度より南部は相対的に静穏化しており,それより北部は相対的に活発化しているという様相である。

   他方,釧路沖の地震の断層モデルで,この付近でのゆっくりすべりを仮定し,受け手の断層群として十勝沖地震の本震と同様のメカニズムをもつ余震に対してΔCFSの図を描いたところ,中央部・南部がストレスシャドウになり北西・北東部がストレス増加ということで,十勝沖地震余震活動の時空間的特徴と調和的である。更にこの同じすべりのモデルによると北海道東部のΔCFS の正負のパタンが2003年十勝沖地震によるものと反転する。これに照応するように北海道東部の微小地震活動が2004月に活発化と静穏化が反転して,それまで活発化していた西側の部分が静穏化,東側の部分が活発化している。

   さらに,釧路沖の地震の余震活動のETAS変換時間による時空間図で見ると余震域西部では相対的静穏化が顕著であるが東部では順調に減少しているという特徴がある。このことを説明できる断層モデルとして余震域南西部での余効すべりが考えられる。

 

福岡県西方沖の地震 (M7.0) の前の九州とその周辺の活動 [A34]1995年から2005323日までの10年間にわたる九州地方とその周辺の,卓越するメカニズムがあるような,各領域の地震をETASモデルで解析した。ΔCFSが正またはニュートラルの地域では相対的活発化ないしはETASモデルに則って順調に推移しているが,ΔCFSが負の地域では全て相対的な静穏化が有意である。これらの合致は,この10年間の内で福岡県西方沖の地震の前駆的なすべりが進行していた可能性を示唆するものと考える。ΔCFSの値そのものは極めて小さいが,各地域の受け手の地震断層群の数は極めて多く,地震発生の促進・抑制に働きうるΔCFS値の下限が無い限り,統計的に静穏化の効果が有意になりうる。

 

相対的静穏化・活発化現象と地震のメカニズムの分布 [12, A11, A22, A25, A29]。 地震ネットワークの充実によって地震の発生機構が多数決定されるようになった。このような発震メカニズムの統計解析を行うことは地殻のストレス変化を捕捉するのに有力であると考えられる。

   2003年十勝沖地震(M8.0)の、北日本におけるいくつかの地域の地震活動の静穏化・活発化を議論し前駆的ストレス変化を前述したが、同時に1995年ごろを境に十勝沖地震の想定断層内または近辺で前駆すべりがあったと仮定して,起きた地震のメカニズムを受け手としたとき,ΔCFSが負のものに対する正のもの比が顕著に減っている。これはストレスシャドウでは静穏化,ΔCFSが正のところでは活発化していることを示して,これらに調和的な発震メカニズムの頻度分布の変化を指摘した。同様の発震機構の変化が東海・近畿地方の地震に2000/2001の浜名湖直下のスロースリップ開始前後で見られた。

   次に2004年紀伊半島南東沖の地震(M7.4)の破壊断層モデルは,GPSや近地・遠地の地震波解析によって国土地理院,東大地震研,建築研究所などから報告されているが,互いに本質的なところで整合的でない。震源域が遥か沖合であるためもあって,余震の3次元分布の精度が期待できず,明確な結論が得られていない。ところで,余震は本震によってトリガーされるはずなので,余震の多数はΔCFFが正でなければならないはずである。断層から十分離れた部分でΔCFFが正の出現率は建築研究所モデルによるものが最も分が良い。

(4)   時空間ETASモデル

時空間ETASモデルによる確率的除群法 [13, 25, 33, A17, A18, A27]。時空間ETASモデルにもとづいてthinning method を適用する事によって、群れ形成の不確定性を含む客観的な除群アルゴリズムを提案したが,これを用いて時空間モデルの空間や時間やマグニチュードとクラスタサイズのそれぞれの応答関数のノンパラメタラメトリックな診断解析をした。

   気象庁データでは概ね適合度が良好であることが実証できたが,マグニチュードに対するクラスタサイズの関係を表記するパラメタと,マグニチュードに対する群れの空間的広がりを表記するパラメタは違うことが示唆された。これに基づいて時空間ETASモデルの改良版を提案した[25, 31]

   20世紀全般にわたる台湾気象庁データを確率的除群により解析し,クラスタ強度対常時活動比で台湾とその周辺の地震活動を特徴づけ,テクとニックな特徴との対応を議論した。とくに常時活動の活発な3つの活動域について1999年集集地震(ML7.3)の前30年間の常時活動をみると台湾内陸中部で静穏化が顕著であるがその他は通常通りであった。これは集集地震断層の下部での前駆すべりを仮定すれば,3地域ともΔCFFパタンで説明できる。

 

階層ベイズ時空間ETASモデル [1, A2, A5, A6, A9]。広域的にみると地震活動には個性がある。それを具に捉えるために,地域的な違いを表現するベイズ型時空間モデルを開発した。これは時空間ETAS モデルのパラメタ値が場所によって変動するものとし,それらで地震発生様式の地域性を表現,可視化する。すなわち階層的時空間ETASモデルは,常時地震活動度が位置 (x, y) の関数,4つのパラメタK, α,  p,  q も地震の位置の関数と考え,地震の位置を頂点とする3角形のデロネ分割上の極多面体として表現し,各地での特徴的な地震活動様式を定量化する。すなわち任意の位置 (x, y) における関数の値は,それを含むデロネ3角形内で線形的に内挿されたものである。

   これらのパラメタ関数を決める,推定すべき係数はデータの地震数の5倍である。安定した解を求めるため,係数同士の関係に次のような制約をかける。関数の各三角面の傾きの2乗の積分に対しペナルティをかける,すなわち関数が定数(微分係数が0)から乖離することにペナルティをかける。そして,当てはまりの良さを測る対数尤度 (7) との釣り合いを,ペナルティ付き対数尤度 (1) を通して考えるのである。ABIC によって5つの関数それぞれのペナルティ(制約)の強さを客観的に決め,その上でペナルティ付き対数尤度を最大化する係数を解として得る。ここで,モデルのパラメタは位置には依存するが,時間変化t に関しては無関係としたが,これは以下の様な時間的な異常活動の検出に必要なことである。

   気象庁震源データを用いて実際の地震活動の計測を以下の様に精密に行なった。最初に求めた上記のベイズ的時空間ETASモデルの条件付強度関数と、これによって予測される各地の地震活動度のと実際の地震発生数を比べる「相対的地震発生率関数」(時空間)をかけ合わせた条件付強度関数で尤度を定義し、ベイズモデルによる平滑化問題と考え推定した。相対的地震発生率関数の平滑化事前分布を定義するために、3次元時空間を発生時刻を含む地震の震源を頂点とするようにデロネ分割し、4面体上の面の傾きが小さくなるような平滑化事前分布を導入しABIC法によって事後分布の最適推定パラメタ (posterior mode) を求めた。

 

階層的時空間ETASベイズモデルによる地震活動パラメタの推定と異常地震活動検出 [11, A2, A5, A6, A9]. 階層ベイズ型時空間モデルによって広域地震活動の地域的な個性(顔)を表現するパラメタ(位置の関数)を推定することで各地の地震活動様式の違いを定量化して可視化できた。たとえば階層的時空間ETASモデルを気象庁震源データにあてはめると,常時活動度,余震強度や余震減衰指数(p値)などの,日本の各地の地震活動様式の定量的推定ができ,地殻熱流量やアスペリティ(断層面内の摩擦強度の強い部分,これが滑ると大地震になる)などの地球物理学的な性質との対応が議論できる。特に高いK‐値はアスペリティの周辺境界地域に分布しており、これまでの詳細な余震分布の知見を再現している。

   東海・近畿地方の地震活動に対して前述の相対的地震発生率関数を求めると特徴的なのは、もともと常時活動の活発な地域である,兵庫県南部地震震源域周辺の丹波地域と和歌山地域の相対的な活発化である。この現象は地殻のストレス変化によって活発化したことを示す。実際、これらは兵庫県南部地震の断層モデルに対する当該地域の地震の最頻メカニズムによるΔCFF分布と調和的である。更に両地域の地震発生をETASで解析すると、この活発化の始まりは兵庫県南部地震発生時より1年ほど先行していることが分かる。これは断層のどこかで前駆すべりがあった可能性を示唆している。さらに2001年の相対的地震発生率関数による相対的静穏化と活発化は浜名湖付近直下のすべりによるΔCFF分布に調和的である。

(5)   物理的モデルと地震活動の接面の解明の研究

地震活動の変化による水圧効果の推定 [14]. 群発地震活動の統計的モデルによる解析と、物理的理論モデルに基づいた拡散過程による地殻内の地下水の移動とストレス変化の検出が可能になった。これはETASモデルの常時活動のパラメタの変化をモデル化して解析することで実現できる。3次元弾性体における物理モデルによる数値シミュレーション実験と実データの統計的解析結果は調和的である。明らかに、このモデルは火山性地震とマグマの移動現象にも適用できるものである [e.g., A7]

 

地電位の変動データと地震発生危険度推移の相関性 [24]. 1982-1998年の北京周辺における地電位の間欠的に起きる或る低周波帯の地電位変動の平均振幅と継続時間の積の総和を日別にまとめたもの(日総量)を入力時系列として、点過程モデルでマグニチュード4以上の地震発生との因果関係、相関関係について解析した。ざっと見て異常現象と言うには発生頻度が結構多く,観測所ごとに違うが、地震発生を除群化したデータのポアソン過程と比べると、AICの差で少なくて15多くて45ということで、日総量データを考慮したほうの当てはまりがはるかに良い。

   1日当たりの地震発生の危険度は全期間の平均危険度より高い危険度の総日数は全体の3分の1ほどであるが、起こった地震の7割前後がそれらの日に集中している。4観測所の日総量データを合わせて複合的確率予測公式を使えば平均危険度以上の警戒日数が全日数の10%ほどまで少なくなり,地震の確率予測の実用化に近づくのではという感触を得た。

 

微小地震活動と地球潮汐 [15, A1]. 兵庫県南部地震後約2年間の丹波山地の微小地震の発生は,トリガーされて活発化した後に次第に減少している。この様な傾向を多項式のトレンドで表現し,余震現象をETASモデル,そして地球潮汐の月齢成分を周期として持つフーリエ三角関数の3成分の点過程モデルによって解析をしたところ,地球潮汐に有意な因果関係が得られ,その振幅や位相が推定できた。論文 [15] は地下の岩石のAEデータのマグニチュードGR則の値変化と月齢に基づく地球潮汐のストレス変化の相関について議論している。

 

(6)   地震の大きさ分布と地震検出率の同時推定および余震の確率予測 [A31, A32]

本震直後の合い重なる地震波のために小さな余震の捕捉は極めて困難であり、これに基づくデータ欠測は震源カタログの本質的な弱点である。現在気象庁で実施されている余震の確率予測の実用的な展開のために,この困難を克服する為のモデルを与えた。これは余震のマグニチュードごとの検出率の変化とGR則の-値を同時に推定するものである。これによると従来本震発生後1日以降に与えられている確率予報が1時間以降に出せる可能性がある。

 

 

発表論文2003 - 2005

査読付き論文:

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[1] Ogata, Y., Katsura, K. and Tanemura, M. (2003) Modelling of heterogeneous space-time occurrences of earthquakes and its residual analysis, Applied Statistics (J. Roy. Stat. Soc. Ser. C.), Vol. 52, Part 4, pp. 499-509 (2003).

[2] Ogata, Y., Jones, L. and Toda, S. (2003) When and where the aftershock activity was depressed: Contrasting decay patterns of the proximate large earthquakes in southern California, J. Geophys. Res., 108, No. B6, 2318, doi: 10.1029/2002JB002009.

[3] Ogata, Y. (2003) Examples of statistical models and methods applied to seismology and related earth physics, International Handbook of Earthquake and Engineering Seismology, International Association of Seismology and Physics of Earth's Interior, Vol. 81B, HandbookCD#2, Chapter 82.

[4] Toda, S. and Stein, R.S. (2003) Toggling of seismicity by the 1997 Kagoshima earthquake couplet: A demonstration of time-dependent stress transfer, J. Geophys. Res., 108, B12, 2567, doi: 10.1029/ 2003JB002527,

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2005:

[14] Hainzl, S. and Ogata, Y. (2005) Detecting fluid signals in seismicity data through statistical earthquake modeling, J. Geophys. Res., Vol.110, No.B5, B05S07, doi:10.1029/2004JB003247 (2005).

[15] Iwata, T. and Young, P. (2005) Tidal stress/strain and the b-value of acoustic emissions at the Underground Research Laboratory, Canada, Pure and Applied Geophysics, 162, pp. 1291-1308.

[16] Iwata, T., M. Imoto, and S. Horiuchi (2005) Probabilistic estimation of earthquake growth to a catastorophic one, Geophys. Res. Let., 32. L19307, 10.1029/2005GL023928.

[17] Nanjo, K.Z., Nagahama, H. and Yodogawa, E. (2005) Symmetropy of fault patterns: Quantitative measurement of anisotropy and entropic heterogeneity, Mathematical Geology, 37, 3, pp. 277-293, doi: 10.1007/s11004-005-1559-z.

[18] Nanjo, K.Z., Turcotte, D.L. and Shcherbakov, R. (2005) A model of damage mechanics for the deformation of the continental crust, J. Geophys. Res., 110, B7, B07403, DOI: 10.1029/2004JB003438.

[19] Nanjo, K.Z. and Turcotte, D.L. (2005) Damage and rheology in a fiber-bundle model, Geophys. J. Int., 2005, 162, pp. 859-866, doi:10.1111/j.1365-246X.2005.02683.x.

[20] Holliday, J.R., Nanjo, K.Z., Tiampo, K.F., Rundle, J.B. and Turcotte, D.L. (2005) Earthquake forecasting and its verification, Nonlinear Processes in Geophysics, 12, pp. 965-977, doi: 1607-7946/npg/2005-12-965.

[21] Ogata, Y. (2005) Synchronous seismicity changes in and around the northern Japan preceding the 2003 Tokachi-oki earthquake of M8.0, J. Geophys. Res., 110, B8, B08305, doi:10.1029/2004JB003323.

[22] Ogata, Y. (2005) Detection of anomalous seismicity as a stress change sensor, J. Geophys. Res., Vol.110, No.B5, B05S06, doi:10.1029/2004JB003245.

[23] Toda, S., Stein, R.S., Richards-Dinger, K. and Bozkurt, S. (2005) Forecasting the evolution of seismicity in southern California: Animations built on earthquake stress transfer, J. Geophys. Res.,110, B05S16, doi:10.1029/2004JB003415.

[24] Zhuang, J., Vere-Jones, D., Guan, H., Ogata, Y. and Ma, Li (2005) Preliminary analysis of observations on the ultra-low frequency electric field in the Beijing region, Pure and Applied Geophysics, 162, pp. 1367-1396.

[25] Zhuang, J.  Chang, C., Ogata, Y.  Chen, Y. (2005) A study on the background and clustering seismicity in the Taiwan region by using point process models, J. Geophys. Res., 110, B5, B05S18, doi:10.1029/ 2004JB003157.

 

In press or accepted:

[26] Nanjo, K.Z., Nagahama, H. and Yodogawa, E., Symmetropy of earthquake patterns: asymmetry and rotation in a disordered seismic source, Acta Geophysica Polonica, in press, Volume 54.

[27] Nanjo, K.Z., Rundle, J.B., Holliday, J.R. and Turcotte, D.L., Pattern informatics and its application for optimal forecasting of large earthquakes in Japan, Pure and Applied Geophysics, accepted.

[28] Chen, C.C., Rundle, J.B., Holliday, J.R., Nanjo, K.Z., Turcotte, D.L., Li, S.C. and Tiampo, K.F., The 1999 Chi-Chi, Taiwan, earthquake as a typical example of seismic activation and quiescence, Geophys. Res. Let., 2005 accepted.

[29] Ogata, Y., Seismicity anomaly scenario prior to the major recurrent earthquakes off the east coast of Miyagi Prefecture, northern Japan, and its implication for the intermediate-term prediction, Special Issue on Dynamics of Seismicity Patterns and Earthquake Triggering, eds. S. Hainzl, G. Zoler and I. Main, Tectonophysics, in press.

[30] Ogata, Y., Anomaly monitoring of aftershock sequence by a reference model: A case study of the 2005 earthquake of M7.0 at the western Fukuoka, Kyushu, Japan, Geophys. Res. Letters, in press.

[31] Ogata, Y. and Zhuang, J., Space-time ETAS models and an improved extension, Special Issue on Critical Point Theory and Space-Time Pattern Formation in Precursory Seismicity, eds. K. Tiampo and M. Anghel, Tectonophysics, in press.

[32] Toda, S. and Matsumura, S., Spatio-temporal stress states estimated from seismicity rate changes in the Tokai region, central Japan, Tectonophysics, in press.

[33] Zhuang J., Ogata Y. and Vere-Jones D., Diagnostic analysis of space-time branching processes for earthquakes. Chapter 15 of Case Studies in Spatial Point Process Models, Eds. Baddeley A., Gregori P., Mateu J., Stoica R. and Stoyan D. Springer-Verlag, New York, in press.

 

Main Proceedings:

主な報告など:

2003:

[A1] 岩田貴樹・片尾浩(2003)点過程モデルを用いた月齢と丹波山地の微小地震発生の相関に関する解析, 日本地震学会講演予稿集A062.

[A2] Ogata, Y. (2003) A practival space-time model for regional seismicity (招待講演)ヨーロッパ地球物理学会連合アメリカ地球物理学会連合合同大会, ニース、フランス, Geophysical Research Abstract , Volume 5, 2003,  CD-ROM, ISSN: 1029-7006

[A2] Ogata, Y. (2003) A practival space-time model for regional seismicity (invited), EGS-AGU-EUG Joint Assembly,Nice, France,  Geophysical Research Abstract , Volume 5, 2003,  CD-ROM, ISSN: 1029-7006

[A3] Ogata, Y. (2003) Sesimicity-change-analysis by a space-time point-process model (invited) The 3rd Statistical Seismology Workshop, Juriquilla, Mexico.

[A4] 尾形良彦  (2003)  1944年東南海地震および1946南海地震前後の西南日本における地震活動変化について, 地震予知連絡会会報70, 378-383, 国土地理院.

[A5] 尾形 良彦 (2003) 統計的時空間モデルで検出された中部・近畿地方の地震活動変化 (1995-2001), 地震予知連絡会会報, 70, pp. 5-6 and 361-363, 国土地理院.

[A6] 尾形良彦  (2003)  広域地震活動の時空間統計モデルとその活動変化解析, 月刊 地球, 25 No. 10, pp. 783-787, 海洋出版.

[A7] Toda, S. and Stein, R.S. (2003) Earthquake triggering by volcano-tectonic events: An example from the 2000 Izu Islands swarm (invited talk), XXIII Ceneral Assembly of the International Union of Geodesy and Geophysics, 2003.

[A8] Toda, S. (2003) A Fresh Look at the Triggering of Earthquake Pairs, Such as the Landers-Big Bear, Landers-Hector Mine, Izmit-Duzce, and Nenana-Denali, and March-May 1997 Kagoshima Events (invited talk), American Geophysical  Union 2004 fall meeting.

 

2004:

[A9] Ogata, Y. (2004) The 6th World Congress of the Bernoulli Society for Mathematical Statistics and Probability, and 67th Annual Meeting of the Institute of Mathematical Statistics, “Space-time model for regional seismicity and detection of crustal stress changes”, July 25-29, 2004, Barcelona, Spain, (invited lecture)

[A10] 尾形良彦 (2004) 統計的点過程モデルと地震活動の予測と発見 (特別企画講演), 日本数学会2004年度年会 特別企画講演予稿集.

[A11] 尾形良彦 (2004) 静的トリガリングと統計, 156回地震予知連絡会トピックス招待講演

[A12] Ogata, Y. (2004) Synchronous seismicity changes in and around the northern Japan preceding the 2003 Tokachi-oki earthquake of M8.0 (invited talk) International Conference in Commemoration of 5-th Anniversary of the 1999 Chi-Chi Earthquake, Taipei, Taiwan.

[A13] Ogata, Y. (2004) Stress changes, seismicity changes and statistical models, Workshop on Seismic Activity and Probabilities of Major Earthquakes in the Kanto and Tokai Area , Central Japan, Wadati Memorial Hall, Institute for Earth Science and Disaster Prevention, Tsukuba, Japan (invited presentation),  http://kt-jisin.bosai.go.jp/WS/Program/index.html, (invited talk)

[A14] Nanjo, K.Z., Rundle, J.B. and Holliday, J.R.. (2004) Pattern Informatics and Its Application to Forecasting Large Earthquakes in Japan, Abstract for AGU 2004 Fall Meeting,  Eos Trans. AGU, 85(47), Fall Meet. Suppl., Abstract NG22A-07 (invited talk).

[A15] 遠田晋次 (2004) 地震トリガリング研究の地震予知への展開, 156回地震予知連絡会トピックス招待講演

[A16] Toda, S., and Matsumura, S. (2004) Spato-temporal stress states estimated from seismicity rate changes in the Tokai region, central Japan (invited talk), American Geophysical Union 2004 fall meeting.

[A17] Zhuang, J., Ogata, Y. and Vere-Jones, D. (2004) Diagnostic analyses of space-time branching processes for earthquakes, Spatial Point Process Modeling and its Applications, Benicassim, Castellon, Spain, Spatial Point Process Modelling and Its Applications, Col-Lecco Treballis D'Infomatica/Tecnologia, Num. 20, ISBN 84-8021-475-9 Publication de la Universitat Jaume-I, Castello de la Plana, Spain, pp. 273-292.

[A18] Zhuang, J., Ogata, Y. and Vere-Jones, D. (2004) Visualizing goodness-of-fit of point-process models for earthquake clusters., Analysis of Natural and Social Phenomena: Data Science and System Reduction; an international workshop of the 21st Century COE program at Keio University, http://coe.math.keio.ac.jp/english/event/cherry_bud/index.html, (invited talk).

[A19] 尾形良彦 (2004) 2003宮城県北部の前震活動と余震活動および周辺部の地震活動の統計解析, 地震予知連絡会会報, 71, pp. 260-267, 国土地理院.

[A20] 尾形良彦 (2004) 宮城県沖プレート境界型大地震までの東北地方における地震活動, 地震予知連絡会会報, 71, pp. 268-278, 国土地理院.

[A21] 尾形良彦 (2004) 2003年十勝沖地震(M8.0)前後の北日本における地震活動の特徴について, 地震予知連絡会会報 第72 pp. 110-117, 国土地理院.

[A22] 尾形良彦 (2004) 静的トリガリングと統計, 地震予知連絡会会報 72pp. 631-637, 国土地理院 。

[A23] 遠田晋次 (2004) 地震トリガリング研究の地震予知への展開, 地震予知連絡会会報 72pp. 624-626, 国土地理院

[A24] 遠田晋次 (2004) 2003宮城県沖の地震前後の内陸地震の活動変化とその意味,月刊地球,27, 1, 56-61.

[A25] 尾形良彦 (2004) 破壊応力変化と発震機構分布の変化について, 日本地震学会講演予稿集S023.

 

2005:

[A26] 村田泰章・尾形良彦 (2005)ドローネ三角形分割による重力データの平滑化と地殻表層密度推定、地球惑星科学関連学会合同大会20055.

[A27] 尾形良彦 (2005) 昭和の南海トラフ巨大地震前後の西南日本における地震活動と最近の活動, 地球惑星合同学会 特別セッションS095招待講演

[A28] Ogata, Y. (2005) Seismicity changes in western Japan associated with the great earthquakes near Nankai trough and their contemporary implications, Specially organized session S095, invited talk.

[A29] 尾形良彦 (2005) 2004年紀伊半島南東沖の地震(M7.4)の余震活動の特徴と本震の破壊断層モデルとの関係について, 地震予知連絡会会報 第73, 495-498, 国土地理院.

[A30] 尾形良彦 (2005) 2004年新潟県中越地震(M6.8)の余震活動の特徴と周辺部における地震活動の特徴について, 地震予知連絡会会報 第73, 327-331, 国土地理院.

[A30] Ogata, Y. (2005) On an anomalous aftershock activity of the 2004 Niigata-Ken-Chuetsu earthquake of M6.8, and intermediate-term seismicity anomalies preceding the rupture around the focal region (in Japanese), Report of the Coordinating Committee for Earthquake Prediction, 73, pp. 327-331, Geographical Survey Institute of Japan.

[A31] 尾形良彦 (2005) 地震検出率とb値の同時推定と余震の確率予測, 地震予知連絡会会報 第73. 666-669, 国土地理院.

[A32] Ogata, Y. (2005) Toward urgent forecasting of aftershock hazard: Simultaneous estimation of b-value of the Gutenberg-Richter’s law of the magnitude frequency and changing detection rates of aftershocks immediately after the mainshock, preprint.

[A33] 尾形良彦 (2005) 2003年十勝沖地震(M8.0)2004年釧路沖の地震(M7.1)の余震活動および北海道東部の内陸地震活動の特徴について, 地震予知連絡会会報 74,  pp. 83-87,国土地理院.

[A34] 尾形良彦 (2005) 2005年福岡県西方沖の地震(M7.0)前の九州地方及び付近における中期的な地震活動の特徴について, 地震予知連絡会会報74,  pp. 523-528,国土地理院.

[A35] 尾形良彦 (2005) 福岡県西方沖の余震活動について: 最大余震 (M5.8) 以前に報告された相対的静穏化と余震域をストレスシャドウにするような前駆すべりのシナリオ, 地震予知連絡会会報74,  pp. 529-535,国土地理院.

[A36] 尾形良彦 (2005) 2003年十勝沖地震(M8.0)と2004年釧路沖の地震(M7.1)の余震活動および北海道東部の内陸地震活動の特徴について, 日本地震学会講演予稿集S023.

[A37] Toda, S. (2005) Style of stress accumulation and release in northern Honshu Japan: A concept to explain the coexistence of destructive inland earthquakes and interplate thrust earthquakes (invited talk), Spatial and Temporal Fluctuation in the Solid Earth, 21COE International Symposium 2005, Sendai, Japan.

 

 

本プロジェクトの今後の展開について

(1) 静穏化現象のシナリオ追求による大地震・大余震の予測

地震活動の予測と実際の地震発生の相違(静穏化や活発化)を測ることで、地震活動が地殻中のストレス変化のセンサーになる可能性が出てきた。ETASモデルは余震減衰の経験法則に基づき、地震活動の個性を表現し、地域的毎に将来の活動を予測する。近傍で大きな地震や非地震性のすべりが起ると、断層周辺部の応力(ストレス)が急激に変化してストレス変化が伝わり、そこでの地震(余震)の活動度が予測されたものから系統的に外れる。そのような相対的静穏化や活発化は、地震(余震)活動に働くクーロン破壊応力の減少や増大と整合的に対応すると考えられる。非地震性のすべりの所在をつきとめることは大地震の発生の確率予測の効率を上げるのに役立つ。

   解析事例を積み重ねる事によって、地震活動が地殻歪やストレス変化の鋭敏なセンサーとして有用である事をより確実化する。また、ストレス変化を介在して、測地学的時系列データを地震発生に関する説明変数として取り込み、地殻場変化の物理モデルと地震活動を結びつける時空間点過程などの高度の統計モデル作成の手掛かりが得られる。これは震源カタログに基づく地震活動パタンと応力変化を反映した地殻変動との相関・因果関係の統計的探索や検証ができるようにするために必要であると考えるからである。これによって、まとまった地震学的な知見を生み出すと同時に、多くの地震活動研究者の使用に耐える統計ソフトウェアの提供を目指す。

(2) 時空間ETASモデルの効果的運用のための再モデル化

階層ベイズ型時空間モデル (Hierarchical Space-Time ETAS model) によって時空間的に地震活動の予測と実際の地震発生の相対比をベイズ法により推定する方法が確立しつつある。この際、解析の足枷となるのは、地震カタログにおける微小地震の検出率の時間的・空間的不均質である。できるだけ多くのデータを使用できるようにデータの不均質構造を考慮に入れたマグニチュード分布をモデル化してベイズ型時空間モデルの拡張を図る。近年、気象庁地震観測網の検知能力が向上したのみならず、各大学や防災科技研の地震観測網からの基礎データの統合(一元化)によって、検知地震数や決定精度が飛躍的に伸び零マグニチュード以下のものまでが捕捉されている。これに伴い地震データのマグニチュードの下限が時間的に変化している。これに加えて検知率は従来から空間的に、例えば内陸と海域では、大きく異なる。このような時空間不均質データに対応するベイズ型時空間モデルの拡張モデルの開発をめざす。

   さらに本震直後の重なる地震波のために小さな余震の捕捉は極めて困難であり、これに基づくデータ欠測は震源カタログの本質的な弱点である。この様な欠測構造を考慮して余震の確率予測実効を上げ、新展開を図る。

(3) 予測としての前震の識別確率

短期予測としての前震の識別と除群アルゴリズム。ある所で地震活動が始まる。それは段違いに大きな地震の前震かもしれないし、ほぼ同規模の地震が続く群発型地震かもしれない。単なる本震・余震型の場合も多い。これらのいずれの型であるかはその地震活動が終息してからでないと決定的には分からないが、何らかの情報で逐次変動する確率が予測できるならば防災上の価値は高い。Ogata et al. [1995, 1996 and 1999], Ogata [1999b] は地震群 (複数の地震) の時間的・空間的集中度とマグニチュード列の増減パタンに関する識別情報に基づいて、この活動が来るべき格段に大きな地震の前震であるか否かの確率を予測する宇津・安芸の複合予測公式 [Utsu, 1977; Aki1981] を拡張したlogitモデルを考え、そのような確率予測の性能評価をした。確率予測は平均的な確率値(無情報)からの変動幅が大きいほど予測の情報が効率的なので,そのような識別情報を探す必要がある。

   この研究は、あるところに地震が起きた時点で、そして逐次それに続く群れの地震の発生時刻・位置・マグニチュード列のパタンに関する情報を使うことによって、群の型(特に前震型)を有効にリアルタイムで予測するような条件付き確率の統計モデルを見いだすことであった。しかし,この研究の難所の第一は地震の群れを同定することである。Ogata et al. [1995, 1996 and 1999] Ogata [1999b] はマグニチュードに基づく除群法 (MBC法) Single-Link Clustering 法(SLC法)の二つの相補的なアルゴリズムを採用し予測モデルの頑健性を試した。MBC法は大きな地震から順次マグニチュードによって群を構成するのに対して、SLC法は地震間の時空間の距離による近さでのみで構成し、然る後に群の中の最大地震を本震として定める。MBC法は地震統計の経験則に沿って決められているが、その短所は本震が起 きるまで(結局、活動が終了するまで)群が決められないことであり、現在進行中の地震活動を予測するのに支障があることである。これに対してSLC法は距離だけに基づいており、現在までの時点での群を決めることができる点でリアルタイム予測の観点から,やや優れているが,SLCの最適パラメタを決めるにあったって難点がある。最近,時空間ETASモデルによる確率的除群法 [Zhuang et al., 2002] が提案されているが,これに基づいて確率予測をする方式はこの点を克服できる点で十分価値があり,この観点からの研究を追求し,上記のlogit モデルをベイズ的に拡張した

い。

(4) ストレス変化と地震の発生率の変化

Dieterichの摩擦構成則に基づく理論式は、地震の発生率変化の量的な予測を記述する拠り所のひとつである[Dieterich, 1994; Dieterich et al., 2000; Toda and Stein, 2003]。測地学的データと地震発生や発震機構のデータによって地殻のストレス変化とETASに基づく地震活動変化にかんする断層内の順問題・逆問題を研究するのはこれから重要になると考えられる。

(5) 長期予測‐ベイズ的確率予測

詳細な地質学的活断層データについて対応するベイズ的推論に基づいた直下型大地震の予測確率の実用化。固有地震と思われるデータに対して更新過程の分布のパラメタが推定されると、それを危険度関数に代入して次の地震発生の確率予測を出す。しかしデータ数が少ないとき最尤推定値を採用すると、予測危険度関数の誤差が大きいだけでなく危険度関数や確率予測について偏りが生ずる場合がある。予測危険度関数の誤差や偏りを調べるには尤度関数(事後分布)全体を見ることが必要である。そもそも最尤法が典型的に優れているのは尤度関数が対称で周辺部の裾が軽い場合であり、非対称で裾が重い場合には偏った推定値となる。一般に尤度関数そのものがデータと更新過程モデルの係わりについての全ての情報を持っており、偏りのない適当な事前分布に対する事後分布をもとに最尤法以外の統計的推論を考えることができる。ひとつは事後分布の平均値(ベイズ推定量)を考える事である。もう一つは危険度関数族の事後分布による平均をとった予測危険度関数 (predictive hazard rate) を考えることである。これらによって偏りのない危険度や確率の評価が可能になる。予測確率の誤差評価には、データ数が少ない場合は事後分布をつかって計算する方法が有効である。

   BPTモデル[Matthews et al., 2002] とスリップサイズデータを使う時間予測モデルを拡張し予測危険度関数による確率予測を提案した [Ogata, 2001, 2002] が,これをエベントの区間時刻データ [Ogata, 1999] ひいてはエベントの発生時刻尤度データ [e.g., Sieh et al., 1989] と合わせてベイズ的確率予測する方式をまとめてみたい。

(6) 各種データの有効利用と品質管理の為のモデリング

日本のような高度情報工業国、気象現象の変化の激しい土地柄では各種地球物理データには非定常非線形な各種ノイズも混入し、単にデータを蓄積するだけでS/N比があがることを多くは期待できない。このためには各種ノイズの変化の統計的なモデルを通して有用な情報を取り出すことを考える必要がある。季節変化、地球潮汐、気圧変化や降雨効果を分離するBAYTAP-Gや状態空間時系列モデルなどのベイズ型モデルは、まだごく限られた現象にしか応用されておらず、モデル自体もそれぞれのデータとニーズに応じた創造的拡張発展を迫られている。とくにGPSなどの測地データは日本全土に稠密に展開されており,地殻ストレス変動の異常と断層のすべりは地震性・非地震性を問わずよく対応しているが,その異常は小さくなるにしたがってノイズに埋もれておりこの除去が課題である。

   また折角多大な努力で採取した膨大なデータも長期にわたる均質性を維持するのは大変である。計測器の特性や計測手法の変化などを考慮したデータの品質管理について多くの努力を注ぐことは地味ではあるが重要な課題である。データの不均質性の中味を探る解析や検出力の時空間的変化などを推定する統計モデルも数多く考案されてよい。例えば気象庁地震カタログの検知能力の変化を推定して検出された全てのデータを有効利用して日本全土の値や地震活動度の変動の解析をする統計モデルも既に提案されている。いずれにしても、定常的にデータを編集している各関係機関内で直面する共通の技術的な問題として重要視して積極的に取り組んでいかねばならないと考える。歴史地震、明治・大正の地震発生などの記録は世界の何処でも期待できないほど情報量が多く貴重である。これらのディジタル化など解析のための整備・編集などは重要である。

 

 

文献

Akaike, H. (1998) Selected Papers of Horotugu Akaike, E. Parzen, Tanabe, K. and Kitagawa, G. eds., Springer Series of Statistics – Perspectives in Statistics, Springer, New York, 434pp.

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Dieterich, J. (1994), A constitutive law for rate of earthquake production and its application to earthquake clustering, J. Geophys. Res., 99, 2601–2618.

Dieterich, J., Cayol, V. and Okubo, P., The use of earthquake rate changes as a stress meter at Kilauea volcano, Nature 408, 457-460 (2000).

Matthews, M., Ellthworth, W.L. and Reasenberg, P. (2002) A Brownian Model for Recurrent Earthquakes, Bull. Seismol. Soc. Am., 92, 6, 2233-2250, doi: 10.1785/0120010267.

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Ogata, Y. (2005a) Simultaneous estimation of b-values and detection rates of earthquakes for the application to aftershock probability forecasting (in Japanese), Report of the Coordinating Committee for Earthquake Prediction, 73, pp. 666-669.

Ogata, Y. (2005b) Toward urgent forecasting of aftershock hazard: Simultaneous estimation of b-value of the Gutenberg-Richter’s law of the magnitude frequency and changing detection rates of aftershocks immediately after the mainshock, priprint.

Ogata, Y. (2005c) Anomaly monitoring of aftershock sequence by a reference model: A case study of the 2005 earthquake of M7.0 at the western Fukuoka, Kyushu, Japan, Geophys. Res. Letters, in press.

Ogata, Y. and Katsura, K. (1993) Analysis of temporal and spatial heterogeneity of magnitude frequency distribution inferred from earthquake catalogs, Geophys. J. Int. 113, 727-738.

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Ogata, Y., Utsu, T. and Katsura, T. (1996) Statistical discrimination of foreshocks from other earthquake clusters, Geophys. J. Int., 127, pp. 17-30.

Ogata, Y. and Utsu, T. (1999) Real time statistical discrimination of foreshocks from other earthquake clusters (in Japanese), Tokei-Suri (Proc. Inst. Statist. Math), Vol. 47, No. 1, pp. 223-241.

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Updated on 13 July 2006