点過程の統計解析:研究紹介と招待

モデリング研究系・尾形 良彦   

私自身の専門は時系列解析に比べると馴染みが薄いと思いますが,「点過程」と呼ばれる確率過程モデルによる統計解析です。点過程は,突然に発生する事象を数学的に抽象した「点」の発生の確率メカニズムを記述する確率過程です。たとえば,

 

・インターネットなどでの顧客等のアクセス(サービス工学)

・神経発火や心脈パルスのスパイク波列(生理学・脳科学)

・損害,災害,事故や事件発生などの経済,自然,社会現象(保険数学)

・ハードやソフトシステムの故障やバグ(信頼性工学)や疾病発症,出生,死亡(疫学)

・自然林の樹木,宇宙における銀河,銀河における恒星の配置(自然,社会,環境)

 

などです。事象の発生時や位置を示す「点」に,発生規模(スカラー値)や諸特性(ベクトルや図形など)が付加された対象をマーク付き点過程と呼ばれています。データの解析を通して発生時間や位置,何らかの外因性の変量との因果関係を探し,将来の発生を予測することを目指します。点過程のシミュレーション法,推定法,モデル選択法,モデル診断法に関する私達の研究は先駆的なものがあり,国際的に高い評価をうけています。

地震国日本における豊富な地震カタログが利用可能な恵まれた研究環境のもとで,私の研究生涯の後半では主に地震活動のモデルと解析法に関して取り組んできました。地震カタログは発生時刻(破壊の始まった時刻),震源座標(破壊の始まった位置),大きさ(マグニチュード),断層すべりのメカニズム(断層面の向きとすべりの方向)などを編集した膨大なデータで,これは点過程モデルの研究の独創性の源です。この分野で,伝統的な地震活動解析に加えて統計モデルによる解析法の提案を積み重ね,統計地震学とも言うべき研究領域を深め広げたと考えています。これまで点過程ETASモデルなどの地震活動の各種点過程モデルを提案し,そのソフトウェアも世界中に提供されています。また政府の地震調査委員会で検討された余震の確率予報や活断層データに基づく大地震の長期確率予測の実用化にあたっては,私達が提案した点過程解析法も採用され,日本(気象庁)やカルフォルニア(米地質調査所)で実施または参照されています。

データが膨大であればあるほど,その隠れた本質的な情報を十分汲み取るために時間的・空間的に非定常または非均質なモデルを考慮する必要があり,大規模な統計モデルの研究が避けられない様になってきました。逆問題や時空間モデルなどの大量のパラメタを必要とする大規模モデルはベイズ法の助けが必要であり,計算機をフルに利用する最適化法やマルコフ連鎖モンテカルロ法などの応用技術開発やベイズモデルを表示する多次元の動画像解析法などの情報学や数値解析などとの境界分野に及ぶ研究の比重も高くなってきました。必要上取り組んだこれらの技術的研究でも世界をリードするものと評価されました。

最初に述べたように点過程モデルの応用分野は多岐に亘っています。点過程の統計解析に関して,統計地震学でも他の応用分野や基礎理論でも,独自の新境地を拓きたいと考える学生諸君は私の研究室を訪れてください。

 


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Updated on 25 June 2007