統計数理研究所

井澤氏によるセミナー

日時
2012年12月17日(月), 13:00−15:00
登録不要・参加無料
場所
統計数理研究所 セミナー室5(D313,D314)
タイトル
水田で育つイネの葉で、「時刻」は測れるのか?
―自然環境におけるイネの葉の遺伝子発現を統計モデリングしてみると―
講演者
井澤 毅 (独)農業生物資源研究所
アブストラクト

イネなどのゲノム配列が解読され、多数の農業的に重要な形質に関係する遺伝子がQTL解析等によって単離同定されてきている。 それら単離された遺伝子の分子機構を明らかにする機能解析が今後盛んに行われているが、そのための重要な解析法として、 遺伝子からの転写産物(遺伝子発現)を定量的に解析するqPCR 法や、ゲノムワイドに遺伝子発現を解析するためのマイクロアレイ解析法が確立している。

しかしながら、これまでの遺伝子発現解析は実験室環境で制御された中での遺伝子発現であり、農業形質に関与する自然環境下での遺伝子発現を測定したケースはほとんどない。 これは、自然環境が刻々変化し、再現性の確保が難しいからであり、また、その遺伝子発現と環境との関係を確定することが出来ないからである。実験室環境で、 太陽光に類似の強光を発生させることは技術的に困難であり、自然界の温度変化を疑似的に生み出すことも難しい。 そのため、ほとんどの植物分子生物学者が、自然環境や圃場とはかなり異なった条件での遺伝子発現を解析して、分子機構を議論するに終始しているのが現状である。

そこで、我々は、温度や湿度や日照等の自然環境の変化をモニターしながら、その中での遺伝子発現をマイクロアレイ法で解析し、 どの環境変化が遺伝子発現に影響を与えているかを比較的単純な統計モデリング解析等を用いて明らかにしたいと考えた。 これまでに、2008年にサンプリングした461枚のマイクロアレイデータと対応する環境データ(日照、気温、湿度、気圧、風量、降水量)を用い、 一番影響の大きな環境因子を選ぶ形の比較的簡単な統計モデリングを行い、17,193個の遺伝子に関してモデルを作成、論文報告した(Nagano, Sato et al.,Cell、2012)。 現在、二環境因子を取り扱えるようにモデルを改良している(松崎ら、未発表データ)。

こういったアプローチを展開することで、遺伝子発現解析と農業形質を結び付けて議論するための土台となるデータを得、 分子遺伝学やゲノム育種法への応用展開を検討したいと考えている。

本セミナーでは、わかりやすい例をあげながら、我々の歩んできた、これまでの研究経緯、そして、これから考えてるアプローチに関して、紹介できればと考えている。

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