講演者が大学院生だったとき、NP 困難な組合せ最適化問題の中で、 凸多面体的組合せ論の観点から最も取組みやすそうな問題としてグラフの最大カット問題をあげていた先生のセミナーに参加していたことがある。 以降、歳を重ねる中で、学部時代から指導教官のところにほぼ毎年来訪していた北米の先生の博士論文が、 実はカット多面体を軸にしたものであったということも知り、不思議な思いをもっていた。
一方、それとは独立なつもりで講演者が 2000 年から 2011 年までの長い期間関わった量子計算に関する JST ERATO/SORSTプロジェクトでは、 そのカット多面体が量子力学が古典力学と違うことを実験的に示すために提案された Bell 不等式と直結したものであることも上記で後者の先生が見出し、 半定値計画問題が古典では達成できない量子力学の限界値を与えることの周辺も研究する機会を得た。 近年色々なレベルの記事で報道されている量子アニーリングによる組合せ最適化においても、 まさしくグラフの最大カット問題を解くことが行われている。 あたかもこれまでの組合せ最適化がマイナーなものになるかのような報道もあったりしている。
このような不思議な関係を 1 つの軸にし、 他方でたとえば近似値比といった尺度に関して手段が目的化している話などの『常識の嘘』に関することをもう 1 つの軸として、 これから研究をさらに推し進める方の前で話してみたい。