コラム

ウルム大との学術協定のことなど

栗木 哲(数理・推論研究系)

 統計数理研究所は6年前にドイツのウルム大学と学術協定を締結し、本年度初回の更新をいたしました。この機会にウルム大学やウルム市、また研究協力のことなどを紹介したいと思います。

 大学のあるウルム市は、ドイツ南部のバーデン=ヴュルテンベルク州、ドナウ川のほとりにある人口13万人ほどの市です。高速鉄道ICEでミュンヘンとフランクフルトの間に位置しており、日本からのアクセスも容易です。ガイドブックによるとアインシュタインの生誕地だそうですが、街でそれを感じることはほとんどありません。世界一高い大聖堂が有名で、地上143mまで20分ほどで登ることができます。(もし高所が苦手でないなら。それなりの体力も必要。)南方に下るとアルプスの麓(Allgau Alps)、北東にはロマンティック街道沿いのローテンブルグがともにアウトバーン1時間のドライブ圏内です。

 ウルム大学は1967年創立の医学と理工学に特化した若い大学で、規模は小さいものの自然科学ではドイツ最上位クラスの大学です。学術協定の相手方である数学・経済学部には、統計関係としては確率解析や確率場・空間統計、保険数学などの研究室があります。ウルム大学は東北大や東大とも学術協定を結び、協定にもとづく形で今までに3回の合同ワークショップを開催しました。次回はウルムでサマースクールを開講することを計画しています。会場は大学が所有する古城だそうです。ウルムは都会すぎず田舎すぎず、大変治安も良く、研究滞在には理想的な街と感じます。

 この原稿が掲載されるニュースの同じ号に、外国人客員教授のEvgeny Spodarev(エフゲニー・シュポダレフ)さんの自己紹介が掲載される予定です。同氏はウルム大の教授で、学術協定の先方の責任者になります。個人的なことになりますが、彼とは2008年のカナダ・バンフBIRSでの確率場・確率幾何のワークショップおよび2015年の中国・昆明でのIMSミーティングで知り合いました。その後同じ確率場、確率幾何分野の研究者として研究交流を続けるとともに、共に学術協定のアレンジをいたしました。

 エフゲニーさんには今回の2ヶ月間の滞在で、統計数理セミナーと国際アドバイザーの仕事をお願いいたしました。研究面では私とともにフラーレンの幾何構造に関するある予想式と、裾の重い分布に対するボンフェロニ・チューブ法の2つのテーマについて共同研究を行い、幸いにも短期で理論結果を得ることができました。彼については印象深いエピソードがひとつあります。以前に一緒に皇居に行ったときに「日本ではいまでもお米を量るのにコクという単位を使っているか」という質問を受けました。自分は一瞬何のことか分かりませんでした。このように日本の歴史や文化にも詳しい方です。

 統計数理研にはこのような形の海外学術協定がいくつもあり、私どもは研究上の恩恵を受けてきました。その中には統計数理研OBの尽力で立ち上がったものもあります。本学術協定も引き続き所外を含む後輩の研究者や学生の皆さんに役に立つものであることを願っています。

写真1.ドナウ川よりウルム大聖堂を望む (Foto: UUlm)

写真2.ウルム大学南口 (Foto: UUlm)

ページトップへ