第52巻第1号5−24(2004)  特集「極値理論」  [研究ノート]

自然災害研究のための利用可能データ

(株)水文環境 木下武雄

要旨

自然災害への極値理論の応用については,理論的展開とともにその解析を可能にするデータの品質を理解し,品質の向上を図ることが重要である.その品質への理解をこの拙文の目的とする.ここでは品質についての簡単な考察を行い,データには数値データと記述データのあることを示し,雨量 · 流量等を中心として,観測の法律 · 組織 · 方法をまとめ,筆者の現地踏査経験から誤差混入の要因を述べ,実際の問題点について考察した.またデータ利用に当っての注意事項を述べ,この分野の研究のための一助とした.

キーワード:自然災害,データ品質保証,観測,降水量,水位,流量.

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第52巻第1号25−43(2004)  特集「極値理論」  [総合報告]

弱従属性をもつデータに基づく極値統計の最近の話題

創価大学 吉原健一

要旨

極値理論は理論的にみても実用的にみても,非常に重要な問題を数多く含んでいて,以前から盛んに研究され,現在も続いている.一方,現実の問題を解決するためには,通常使われている「標本は独立である」という仮定は条件として適当でない場合も多い.そこで,本総合報告では,標本がある種の弱従属性をもつ場合,「独立性を仮定して得られている結果はそのまま成り立つのか」または「少し修正すれば似たような結果は得られるのか」,さらにまた,「独自の結果が出てくるのか」を,最近のいくつかの論文を通して調べる.

キーワード:弱従属性,指標,Hill推定量,定常確率変数列.

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第52巻第1号45−62(2004)  特集「極値理論」  [総合報告]

Trimmed Sums

慶應義塾大学 前島信

要旨

{Xj j =1,2,...}を独立で同一分布に従う確率変数列とし,Xnj )をX1,...,Xnの中で絶対値の意味でj 番目に大きいもの,Xnj X1, ...,Xn の中で普通の意味でj 番目に小さいものとする.すなわち,|Xn(1)| > |Xn(2)| > · · · >|Xnn )|, Xn1 < Xn2 < · · · < Xnn とする.{Xnj} は順序統計量と呼ばれる.rn pn\in\mathbb {N}とし,和Sn から絶対値の意味で大きいrn 値を取り除いた和をrnSn= Sn-\Sigmaj=1rnXnj ),また,Sn から普通の意味で小さいrn 個と大きいpn 個,合計(rn+pn )個を取り除いた和をrn,pn \tilde{S}n= Sn-\Sigmaj=1rnXnj-\Sigmaj=n-pn+1nXnj とおく.これらをtrimmed sum といい,Sn からこのような極端な値を取り除くことをtrimmingという.このtrimmingが和の漸近挙動にどのように影響するかという問題が,ここで扱う問題である.

trimmingには,例えばrn に限っていうと,light trimming(rn =r), moderate trimming(rn \rightarrow \infty, rn /n \rightarrow 0), heavy trimming(rn /n \rightarrow c \in(0,1))の3つのタイプが考えられる.さらに漸近挙動としては,大数の強法則のような概収束定理と,中心極限定理のような弱収束定理が考えられる.この総合報告では,著者の知る範囲で,以上についての知られている結果をまとめてみる.

キーワード:Trimming, 絶対値順序trimming, 自然順序trimming, light trimming, moderate trimming, heavy trimming.

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第52巻第1号63−82(2004)  特集「極値理論」  [原著論文]

サンプルサイズの増加と共に変動する複合極値統計量の
分布の情報近似

統計数理研究所/総合研究大学院大学 松縄規
総合研究大学院大学 中村好延

要旨

連続型一次元分布からの大きさ N の無作為標本に基づくn=nN )-lower extremes及びm=mN)-upper extremesの確率分布の近似について,関連する情報ネゲントロピの持つ方向性に注意し,関連諸科学の理論と整合する観点から行う.また,その際の近似誤差をK-L情報量を精密に評価することにより与える.主要な結果として,nN )-lower extremesが,情報ネゲントロピ近似の意味での複合極値性を持つための必要十分条件は,N \rightarrow \infty の時 n/N \rightarrow0となることである,などを与える.応用として,N. V. Smirnov の固定された n に対する標準化極値統計量の基本定理を,標準化された n=nN )-lower extremesの場合の修正情報量近似へ拡張する.

キーワード:準極値統計量,情報ネゲントロピ近似,修正情報近似,近似主領域,定量的誤差評価,標準化極値基本定理.

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第52巻第1号83−92(2004)  特集「極値理論」  [研究ノート]

一般化パレート分布の最大エントロピー法による特徴付けに基づく
推定量の構成

広島大学 河村敏彦
広島大学 岩瀬晃盛

要旨

一般化パレート(GP)分布はPickandsによって導入されて以来,様々な分野において多くの研究者によって研究されてきた.しかしながら尺度パラメータ(\sigma > 0)および形状パラメータ(-\infty < k < \infty)をもつ一般化パレート(GP)分布のパラメータの推定は一般的には容易ではない.Castillo and Hadiは k < -1 のとき最尤推定量は存在せず,またk > 1/2 のときには2次以上のモーメントは存在しないためモーメント法や確率重み付きモーメント法による推定量は存在しないと述べている.本稿では最大エントロピー法を用いてパラメータのすべての値に対して推定量を構成する.さらに提案した方法を実データに適用する.

キーワード:一般化パレート分布,最大エントロピー法,点推定,分布の特徴付け.

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第52巻第1号93−116(2004)  特集「極値理論」  [原著論文]

上位 r 個の観測値に基づく確率点の推定

神戸商船大学 高橋倫也
高千穂大学 渋谷政昭

要旨

いくつかの単位領域(または単位期間)のそれぞれで測定したデータを利用して,上側微小確率点を推定する.単位領域ごとの最大値データのみを用いるのが古典的極値解析の手法であった.ここでは,最大値だけでなく上位 r 個のデータを用いることにより,推定の精度がどの程度改善されるか漸近相対効率を用いて明らかにする.また,この手法の実用上の問題点である r の決定について議論する.例として腐食孔の深さを推定する.

キーワード:漸近相対効率,漸近分散,一般極値分布,Gumbel分布.

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第52巻第1号117−134(2004)  特集「極値理論」  [原著論文]

年齢時代区分データによる超高齢者寿命分布の推測

高千穂大学 渋谷政昭
尚美学園大学 華山宣胤

要旨

年齢時代区分別に観測された超高齢者の生存者統計および死亡者統計を極値理論を用いて解析し,寿命分布の限界を議論する.使用したデータは厚生労働省(厚生省)より発表されている全国高齢者名簿および人口動態統計より得た.連続変数に対して議論している極値理論を,年齢時代区分別に作表したデータへ適用することが必要である.そのため,一般パレート分布関数から計算した死亡確率を用いた多項分布モデルを当てはめる方法,乱数を加えて得られる連続量擬似確率標本を用いる方法を提案する.また,既存の手法としてレキシス図上のPiecewise Constant Intensity Modelも適用する.推定の結果,日本人男性寿命分布の有限な上限値が得られた.

キーワード:コホート分析,最尤法,人口動態統計,全国高齢者名簿,Piecewise Constant Intensity Model,平均余命関数.

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第52巻第1号135−149(2004)  特集「極値理論」  [原著論文]

極値波高分布を特徴づける2つの指標
――裾長度と裾厚度――

名古屋工業大学大学院 北野利一

要旨

海岸工学で最近に提案された裾長度について極値理論の視点からその意義を考察し,さらに追加すべき指標として裾厚度を提案する.これらの指標の解釈および提案には,一般化極値分布の尺度 · 形状母数が Gumbel 確率紙上に描かれる quantile 関数の原点における勾配 · 曲率であるという特性を利用している.極値波高の母分布の候補として漸近分布の他に3母数 Weibull 分布を経験的に用いる長期波浪統計解析において,確率波高に加え,裾長度と裾厚度の2つの指標も併せて算定すれば,分布特性の把握や比較が可能となる.ただし,この指標により,得られた分布が最適合であるか否かを判定できるものではない.また,極値分布とは異なる分布を極値分布と混在させて検討を行うような他の工学分野でも,これらの指標は適用可能と考える.

キーワード:Weibull 分布,分布族の比較,quantile 関数,年最大値資料,極大値資料.

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第52巻第1号151−173(2004)  特集「極値理論」  [原著論文]

多変量極値分布を用いた多地点強風および地震危険度解析

東京大学大学院 神田順
東京大学大学院 西嶋一欽

要旨

我が国における建築物の構造設計において,想定すべき外力として代表的なものが強風と地震動であり,強風危険度解析および地震危険度解析は,建築物の構造設計において,基本的な情報を提供する.強風や地震動の強さを確率モデルを用いて評価することは一般的に行われているが,従来の危険度解析はある地点における地震動や強風の年最大値の非超過確率を評価するものであった.しかしながら,複数の建築物の最適設計や,ある地域の被害想定を行うような場合には,個々の地点での危険度のみならず,地点間の相関を適切に考慮することが必要である.本論文では,多変量極値モデルを用いた強風および地震動の,空間相関を考慮した多地点危険度解析手法を検討した.

強風危険度解析に関しては,台風の上陸回数が多い九州地方と,比較的少ない関東地方についておもに地点間の従属構造について定量的に考察した.また,地震危険度解析に関しては,関東地方を例にとり,同様に考察を行った.最後に,台風による強風と地震動の空間相関規模について比較検討した.これらの結果は,工学的な経験とも整合するものであった.

キーワード:多変量極値分布,空間相関,従属関数,多地点,危険度解析.

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第52巻第1号175−187(2004)  特集「極値理論」  [原著論文]

新段階昇圧法を用いた低破壊値の推定法について

九州工業大学 廣瀬英雄

要旨

電気絶縁分野で利用されるインパルス破壊電圧の推定には従来から段階昇圧法が用いられてきた.これは,一定の波高値を持つインパルス電圧を絶縁体に課電して得られる,破壊 · 非破壊の2値離散データのみからインパルス破壊電圧を推定する方法である.最近,高速な電圧計測装置の出現によりインパルス波形を精密に計測することができるようになった.このとき,絶縁破壊した場合には破壊値の情報(連続データ)が得られることから,この情報を使えば従来の方法に比べてインパルス破壊電圧の推定精度が高くなると考えられる.この方法をここでは新段階昇圧法と呼ぶ.本稿では従来からの段階昇圧法を用いた場合のインパルス破壊電圧の推定値と新段階昇圧法を用いた場合のそれとを比較し,新段階昇圧法利用の効果について述べる.

キーワード:インパルス絶縁破壊電圧,段階昇圧法,新段階昇圧法,昇圧幅,正規分布,ワイブル分布,グンベル分布.

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第52巻第1号207−215(2004)    [統計数理研究所研究活動]

ゲノムDNA配列に潜んでいる生物種の個性を明らかにする
新規な統計数理的手法

国立遺伝学研究所/総合研究大学院大学/ザナジェン 阿部貴志
奈良先端科学技術大学院大学 金谷重彦
山形大学 木ノ内誠
国立遺伝学研究所/総合研究大学院大学 池村淑道

要旨

21世紀に入り,ゲノム塩基配列の解読は益々加速する勢いにあり,データベースに既に収録されている配列についてさえ,個々の研究者を圧倒するほど大量に見える.その大量情報の全体から見えてくる未知の基本的な知識を得ることが,ゲノム科学における重要な課題である.我々は,ヘルシンキ大学のコホネンにより,記憶やその想起 · 連想のメカニズムを計算機上で表現するために開発された自己組織化マップ法(SOM)に着目した.教師なしのニューラルネットワークアルゴリズムであり,大量で複雑な情報について,似た情報を自ずと集める(自己組織化する)ことを計算機上で実現する.ゲノム塩基配列の解読の進んだ13種類の真核生物のゲノム配列を対象に,10kb 及び100kbの断片配列内の3連と4連塩基の出現頻度について,SOM解析をおこなった.生物種に関する情報を計算機に与えていないのに,大半の断片配列が生物種ごとに分離しており,各生物種のゲノム配列に潜む連続塩基頻度の特徴を的確に検出していた.ゲノムに存在する機能的に重要なシグナル配列の計算機探索が可能になること,自然環境に存在する培養が困難な微生物類の生物多様性や系統を明らかにする新規な視点でのゲノム解析が可能になること等を紹介した.

キーワード:ゲノム塩基配列,バイオインフォマティクス,自己組織化マップ(SOM),連文字頻度解析,教師なしニューラルネットワークアルゴリズム.

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