統計数理研究所では、昭和28年から5年ごとに「日本人の国民性調査」を実施している(平成5年秋には第9次調査が実施された)。この調査の中に「男女の生まれかわり」という質問項目があるが、男女別の意識の変化は下の図のようになっている。男はほとんど変わっていないのに対して、女は大きく変わったことが読みとれる。
意見や意識を通して社会の変動を捉えようとするとき、その意見や意識が主にどのような要因によって変化してきているのかを見きわめることが大切である。
時代につれ人々全体の意見がある方向に変わっていく時勢の要因(時代効果)、時代や世代によらず人が歳をとることにつれて変わる加齢の要因(年齢効果)、生まれ育った時代背景が違うことによる世代の要因(コウホート効果)などが考えられる(コウホートとは同時出生集団のこと)。これらの要因の働きかたによって、将来の社会の様相が大きく異なることが考えられる。
社会の変動を捉え将来の動向を探るために、継続的に調査されたデータから年齢・時代・コウホート効果を分離する方法がコウホート分析である。
さて、コウホート分析の考え方は魅力的であっても、いざ実際に分析を行おうとすると、3効果が分離できないという困難が待ちかまえている。たとえば、若い時の意見を異なる世代について比較しようとするときに、時代の違いを持ち込まないようにするのが非常に難しい、ということがある。これがコウホート分析の識別問題と呼ばれる困難点である。
この困難点を克服するために、年齢、時代あるいは世代効果が緩やかに変化するという付加条件をとり込み、ABICという評価規準を最小にするようなモデルを選ぶベイズ型コウホートモデルが開発された。先に示した女のサンプルの <女に> をコウホート分析してみると次の図のようになり、女の意識の変化が主に時代効果とコウホート効果によることが明らかになる。
ベイズ型コウホートモデルによって、識別問題が克服できたばかりでなく、これまで手がつかなかった調査間隔が不規則な継続調査データの分析、また交互作用効果を含むようなモデルによる分析も可能になっている。適用分野も、社会調査データから市場調査データ、疫学データ、そして最近では水産資源学におけるデータの分析法としても発展を続けている。
※ 本研究紹介は「平成6年度版統計数理研究所概要」に掲載されたものを編集したものです。
※ OCR処理のため文字化けがあります。ご容赦下さい。
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