分析においては,非価格プロモーションの実施の有無を潜在的な(つまり観測されない)状態として捉えて,それがマルコフ過程に従う切り換えに対応すると仮定した.さらに,そのマルコフ推移確率をシステムモデルとして捉え,非線形フィルタ・平滑化を適用することにより,非価格プロモーション実施の有無の推定を行った.提案するモデルによる判別結果を,費用など諸々の理由で現実には取得することは難しいがたまたま取得できた事実(特別陳列実施の有無)と比較することで,さまざまな模擬データへの十分な応用結果とあわせて,過去の時点における非価格プロモーションの実施状況を精度高く推定できることが分かった.
推定した情報をどう実務レベル(現場)で生かしていくか,新しい方法論の提案を含めてその具体的手続きを現在検討中である.具体的には,特別陳列実施の効率性の検証,あるいは動的な視点でのブランド診断と価格プロモーションの評価等を試みている.
内 容
近年,マーケティング分野においては,POS(Point of Sales)データに代表されるような超大量データから,組織的情報抽出法の実践的研究が盛んになりつつある.マーケティング分野は,統計科学と方法論・思想的に重複の多いデータマイニングの,その主たる重要なターゲットの一つでもある.マーケティング分野は,統計科学の観点からもまだ手つかずの問題が豊富に残されている,魅力的な応用分野である.
スーパーマーケットで販売される各社製品の売上には,価格プロモーションと呼ばれる値引きとそれ以外の非価格プロモーションの実施が強く影響することが知られている.非価格プロモーションとは,例えば陳列棚端のスペースに商品を積み上げるといった,値引き以外の手段により消費者の購買意欲を促すものをさす.通常,価格プロモーション実施状況の情報はPOSデータから簡単に取得できる.一方,非価格プロモーション実施状況は,小売店舗毎に調査により収集しない限り,データが入手できない.しかし,需要予測の精度の向上や施策の効果を踏まえてマーケティングに関する意思決定を行うためには,非価格プロモーション実施状況の情報は非常に重要な情報である.そこで,実際のPOSデータにより実証分析を試みた.この試みは,POSデータには含まれないがマーケティングの観点からすると極めて有益な情報をPOSデータのみから推定するという,既存のPOSデータ解析研究領域においては大胆なものである.


背 景
研究テーマ 観測されない非価格プロモーション実施の有無のPOSデータからの統計的推測法
データ 日次POSデータ
目 的 POSデータより獲得できる販売点数PI,価格掛け率のみの情報から,過去の時点における非価格プロモーションの実施状況の推定を行うためのモデルを構築する.