内 容
背 景
- モデル -
本研究では,ある大規模催事場隣接レストランの2年分の日次時系列データを,以下に説明する各項に分解するようモデル化した.
:トレンド成分.店の長期的売上の動向を表す項.店が以前より流行っているかどうかを過去のトレンド成分と比べることによって把握することができる.
:週周期成分.経験的に,売上には1週間単位で周期性があると考えられる.それを踏まえてこれを曜日によって,それぞれどの程度売上に影響を及ぼすかを表す項とする.祝日の効果も併せて考慮する.
:雨効果成分.天気を晴れ,曇り,雨,大雨,雪と分け,それぞれの売上への影響がどの程度かを示す.
:イベント効果成分.店の近所で行われている催事の人出が与える売上への影響を表すもので,その人出( )を変数とする関数を考えてモデル化する.
:残差成分.いわゆる誤差と呼ばれる項.
- 分解法 -
分解は容易な作業ではないが,各成分において当該分野における既存の知見,常識,合理的期待などを事前情報(prior
information)として積極的に活用し,それらを分解モデルとあわせることにより状態空間表現,カルマンフィルターと平滑化アルゴリズムを用いて予測値を出した
(赤池・北川 編 (1994,1995),北川・樋口 (1998),樋口(2002b)).
- 研究計画 -
完成したモデルを利用することにより,各個人経営のレストランにも, Excel等表計算ソフトにその日の売上や天気等のデータを入力することだけで,様々な要因を考慮した次の日の売上を高精度で予測できるよう使用環境プログラムを開発中である.そうして得られた店固有の情報は,仕入れや販促の計画立案に役立てられる.つまり個人ベースで使用可能なマイクロマーケティング実現支援ソフトウェアを作成中である.また,Web上でこの作業が行えるシステムも構築する.これは,特にチェーン展開している飲食店に有用なシステムとなるはずである.これにより,店舗を統括している組織はそれぞれの店舗のデータのみならず,次の日の売上予測値までを瞬時に把握することができる.またトレンドに注目すれば,店舗で働く店長を始め,社員の実力を評価するための大きな要素となるであろう.さらに,Web上でこれを行うことができれば,店舗ごとの特徴の比較も容易に行うことができる.それらを事細かに分析すれば新規出店を計画するに当たって大いに役立つと考えられる.
従来の企業におけるマーケティング戦略は,マスマーケティングと呼ばれるものであり,これは大衆を対象としてマーケティング戦略の立案と実行をするものだった.しかし,頓に近年消費者のニーズは多様化し,マスマーケティングの手法では対応できない部分が生じてきた.このことから生産業や小売業でのマーケティングは,POSデータのような大量の詳細データを利用して,大量生産大量消費を目指すマスマーケティングから個人に焦点を合わせるマイクロマーケティングへと変化している.マイクロマーケティングは,簡単にいうと地域別に詳細なセンサス・データをはじめ各種データベースから膨大な情報を的確に分析し,最適なマーケットの発見や確認,出店計画や輸送経路,ダイレクトメール戦略などに役立てていこうとする動きのことである.
1990年代に入りバブルが崩壊しそれ以来日本は不況の波に襲われているが,外食産業もその影響を避けることはできず,97年のピーク時には市場規模29兆円だったのが昨年には25兆円まで減ってきている.ただ全体的に不景気であっても,商業統計によると外食産業は諸々の小売業と比べて圧倒的に市場規模が大きい.また,外食産業の市場規模が減少しているのは消費者のニーズそのものがなくなってきているのではなくデフレの影響である.最近は特に安くていい物を求める消費者が増え,全体的に低価格化が進んでおり,これだけ市場規模の大きい産業では特に効率的に利益を生んでいくことが重要である.
ところが外食産業ではマイクロマーケティングの活用が乏しいという現状がある.外食産業のマーケティングには,全体のトレンドを知ることとその日その日の売上を予測することが重要である.特に後者は仕入れるものが食材で日持ちしないということから,他の産業よりも的確に予測する必要がある.それを今でも非常に古典的な方法で,それぞれの店舗の店長の勘に頼って行っていることも珍しくない.またチェーン展開している飲食店ではチェーン店全体で画一的な方法を採用し,店舗ごとの特徴は細かくは考慮されていない.
以上のことを踏まえて,外食産業に適したマイクロマーケティングの方法とそれに見合う売上予測システムを,実際のある飲食店の日次データを基に構築する.飲食店の売上は,曜日,祝日,天気,近所での催し物への人出等の様々な要因に左右される.売上時系列データをこれらの各要因成分に分解するモデルを構成し,そのモデルに基づいて将来の売上を精度よく予測することは,仕入れ,人員配置,新規出店計画等,様々なレベルにおける経営戦略に立案上有益であることは疑いようもない.
研究テーマ |
居酒屋店日次売上高の予測 |
データ |
中規模居酒屋店の日次売り上げ |
目 的 |
この店"独自"の精密化された売り上げ予測と,売り上げをコントロールする要因の定量的理解のための,他の店にも適用できる"汎用的"手法の開発 |