====== 平成10年4月22日 平成9年度研究高度化推進経費 ―ダイナミズムの統計学― の実施報告書 機関名 統計数理研究所 研究テ−マ: 時系列解析の研究・応用 //研究の概要// 汎用的時系列モデルの開発から、各個別データからの有効な情報の抽出能力を 高めるように設計した、各個別データ毎のモデルの開発に重心をやや移した。 具体的には、地震、金融、生体(特に脳)などの多様性の非常に高いシステムから 生じるデータの解析を通して、モデル性能の吟味および問題点の発見に努めた。 昨年度同様、取り組んだ課題をモデル開発(M)、計算法(C)、理論的考察(T) の観点及び、中間年度にあたる平成9年度からはこれまでの研究成果の 具体的な応用やプログラムの開発にも精力的に取り組み始めたので、 応用(A)とプログラム開発(P)の2点を付け加えたこのM,C,T,A,Pの5点にて 分類する。 [Model] M-1: 目的論的モデルの開発 M-2: 地震活動の時空間ETASモデル M-3: 前震の統計的識別による確率的予測 M-4: Seasonal Small Count Data Analysis M-5: Decompの多変量時系列への拡張 M-6: 時変分散モデルの開発 M-7: 金利変動のモデル化 [Computation] C-1: 地球環境の動向を把握するための時空間解析法を開発 C-2: 拡張アンサンブルを用いたマルコフ連鎖モンテカルロ法の研究 C-3: Self Organizing State Space Model法の開発 [Theory] T-1: 時系列、空間データのスペクトル推定に関する理論的考察 T-2: 疑似乱数の評価に関する理論的考察 T-3: 動的X11モデルと非線形季節調整法の関係の理論的考察 T-4: 季節調整の「最適性」に関する理論的考察 T-5: 局所線形化法アプローチによる連続時間時系列モデルの推定法の研究 [Application] A-1: 非定常時系列モデルによる日経225の1分データの解析 A-2: 並列計算機のジョブ処理に関するデータ解析 A-3: 時空間点過程モデルによる地震活動の統計解析 A-4: 非定常時系列解析法の脳波解析への応用 A-5: 資産運用の最適化に関する研究 A-6: 株、為替のデータ解析 [Programming] P-1: 非線形、非定常データを扱うためのプログラムの開発 P-2: 点過程による地震活動解析のためのPCソフトウェア SASeis の開発 P-3: 時系列解析プログラムのWeb P-4: 多変量ARMAモデルのsimulatorの開発 P-5: Decomp の改良 P-6: Web Decomp, S Decompの開発とそのインターネットでの公開 --------- //実施成果// [M] M-2: 地震活動の時間推移を各地震の余震活動の重ね合わせで表現する ETASモデルを時空間データ用に拡張すべく,余震の様々な空間的性質の 物理的可能性を考察し,統計的仮説を設けて考え、適合性やシミュレーション の考察によって、実用的な一つのモデルを得た。 M-3:最初のいくつかの地震が起きた時点で、その発生時刻・位置・ マグニチュード列のパタンに関する情報を使うことによって、群れの型 (特に前震型)を出来るだけ有効に予測するような条件付き確率の統計モデル を見いだした。 M-4: 季節性による効果がある、小数カウントデータ(例えば、 ある疾患の患者数、特異な事故件数など)の解析を、一般状態空間モデルを 構築し、モンテカルロフィルタを用いて行なった。 M-6: 特に Stochastic Volatility Model とその発展形の開発を行った。 M-7: 短期金利のモデル(様々な確率微分方程式の推定)を行った。 [C] C-1: 基本的な時空間平滑化法およびラティスモデルから見て 空間的な欠測が多数有る場合の時空間平滑化法を完成させ、時空間季節 変動調整法の試作版を作成した。 C-2: マルコフ連鎖モンテカルロ法、とくに、拡張アンサンブルを 用いた方法について研究を行い、新しい手法を開発した。 また、モンテカルロフィルタの類似手法のサーベイを行い、 それらと拡張アンサンブルの関係について考察した。 [T] T-1: 時系列、空間データのスペクトル推定について、 予測分布の理論と情報幾何の視点から新しい方法を提案し、 理論的性質と応用の研究を行った。 T-2: ランダムウォークの汎関数を統計的検定に応用することを研究した。 原始3項式に基づくM系列、多数項に基づくM系列、線形合同法、物理乱数に 対して、sojourn time 検定, last visit time 検定, first return time 検定 をおこなった。その結果、原始3項式に基づくM系列において明確に統計的偏り を検出した。 [A] A-1: 不規則成分の部分に確率モデルを仮定して、トレンドと不規則成分 を同時にモデル化することの是非について検討した。 A-3: 地震活動空白域の検出などの空間的側面の地震活動解析を目指し, 地震の確率的予測の観点から有効な適切な時空間モデルの開発をする. このため先ず、時間・空間・マグニチュードの地震活動の統計的性質の 基礎研究をおこなった。 A-4: 睡眠時の脳波を非定常スペクトル解析法により解析し、 継続時間が非常に短い(0.3秒以下)睡眠紡錘波を検出で きた。また、デルタ波と紡錘波の背反関係も検出できた。 A-5: 時変係数を持つ大規模重回帰モデルに基づくポートフォリオ 選択法の研究開発を行った。 A-6: High Frequent Dataによる市場のmicro structureの分析を行った。 [P] P-2: 点過程による地震活動解析のためのPCプログラム集を開発し, 国際地震学・地球内部物理学会およびアメリカ地震学会のソフトウェア ライブラリから発行、発売した。 P-4: 時系列のデータ解析のための多変量ARMAモデルのsimulation用のプログラム を作製した。 図にも描くようにした。