平成282016)年度 重点型研究実施報告書

 

課題番号

28−共研−4201

分野分類

統計数理研究所内分野分類

e

主要研究分野分類

3

研究課題名

前立腺がんの記述疫学研究:過剰診断・治療効果の影響

重点テーマ

次世代への健康科学

フリガナ

代表者氏名

イトウ ユリ

伊藤 ゆり

ローマ字

Ito Yuri

所属機関

地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪府立成人病センター

所属部局

がん予防情報センター

職  名

主任研究員

配分経費

研究費

40千円

旅 費

286千円

研究参加者数

8 人

 

研究目的と成果(経過)の概要

■研究目的
前立腺がんの罹患率(発症率)・死亡率・生存率の動向を分析することにより、PSA検査や内分泌療法の普及の影響を検討する。

■研究成果
 平成27年度は大阪府がん登録資料および人口動態統計を用いて、年齢調整罹患率(1975-2009年)及び死亡率(1975-2013年)、相対生存率(1975-2008年)のトレンドを検討した。年齢調整罹患率は急増傾向(年平均変化率APC=10.5%)にある一方、年齢調整死亡率は横ばい〜わずかな減少傾向がみられた(APC=-1.3%)。進行度別罹患率では、限局患者(がんが原発部位のみにとどまっている状態)の罹患率が年11.5%、領域患者(がんがリンパ節や隣接する臓器に拡がっている状態)における罹患率が16.6%と急増している一方で、遠隔転移の患者は1996年以降、年1.7%の減少にとどまっていた。相対生存率はどの進行度も大きく向上し、近年では限局だけでなく領域患者においても、ほぼ100%に近い値を示した。Excess Hazard Modelによれば、相対生存率の向上の一部はPSA検査の普及によるStage shiftによるものと示唆されたが、治療の効果と早期発見によるリードタイムバイアスの影響は切り分けることができなかった。
 平成28年度には前立腺がん罹患者の死因に関して、一般集団の生命表を用いて、前立腺がんによる過剰死亡と他死因による死亡について、Crude Probability of deathの手法を用いて、診断時期、年齢、進行度別に推定した。2005年に診断された患者において、限局患者においてはほとんどの患者が他死因で死亡していると推定された。領域・遠隔転移患者においても他死因で死亡している割合が一部認められ、その割合は年齢が上がるほど高くなっていた。前立腺がんの過剰診断の大きさを前立腺がん罹患者の他死因死亡の割合により推定できるとすれば、限局患者のほとんどが過剰診断であり、また、進行がんであっても高齢になるほど過剰診断が多くなることが示唆された。
 しかし、厳密にPSA検査による過剰診断の大きさや治療効果の推定を行うためには、マイクロシミュレーションにより、疾患の自然史モデルを作成し、PSA検査の普及の程度や治療介入の大きさとその効果に関して、現実のデータに基づき再現した上で、介入効果の推定を行う必要がある。治療効果に関しては限定的な集団に実施された無作為化比較試験から得られる効果の大きさだけでなく、前立腺がんの大半を占める高齢者への治療実施状況とその効果をリアルワールドデータに基づき推定する必要がある。そのためには、悉皆調査であるがん登録資料とレセプトなど診療行為に関する情報をリンケージする仕組みが必要であることが示唆された。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

■学会発表
Charvat H, Fukui K, Matsuda T, Katanoda K, Ito Y. Impact of other causes of death on the mortality of cancer patients:a study based on registry data. 第27回日本疫学会学術総会. 2017:P-109 [e-Poster]. 甲府市, 2017年1月

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

重点テーマ2:次世代への健康科学 共通公開研究集会
日時:2016年8月25日(木) 10:30〜17:30
場所:統計数理研究所 セミナー室1(総合研究棟D棟3階)
にて発表

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

小向 翔

久留米大学

杉本 知之

鹿児島大学

服部 聡

久留米大学

福井 敬祐

地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪府立成人病センター

船渡川 伊久子

統計数理研究所

逸見 昌之

統計数理研究所