昭和631988)年度 共同研究実施報告書

 

課題番号

63−共研−86

専門分類

8

研究課題名

“自然体験”による子供の心の教育効果に関する統計的研究

フリガナ

代表者氏名

センノ サダコ

千野 貞子

ローマ字

所属機関

いわき明星大学

所属部局

職  名

講師

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

0千円

旅 費

0千円

研究参加者数

6 人

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

人口の都市集中化,自然破壊,学歴偏重の風潮など,日本の子供たちにとって,現在の社会環境は必ずしも健全であるとは言い難い。家庭内暴力,校内暴力や弱い者いじめなどの現象は,一つにはこのような社会構造・生活環境が起因していると思われる。これを検証する目的で,国立・那須甲子少年自然の家の利用者に対し日常生活の実態を知る為のアンケート調査を行う。特に自然の中での集団生活の体験から得られる教育効果について統計的測定を継続的に行うことを目的としている。


昭和62年1月から昭和63年3月まで,国立那須甲子少年自然の家を利用した小,中学生,1908人についてのアンケート調査の結果を分析し,東京及び東京近郊に住む少年の自然体験,生活実態等を考察した。質問は,92問にわたり,自然体験,生活習慣,自然環境,古くから伝承された遊びの体験と種類,学校での楽しさなどを問う諸項目であるが,これに加えて,今回は生徒に自己性格評価の質問項目をアンケートし,更に担任教師の協力を得て,被験者に対する行動力,忍耐力,感受性の三視点よりみた評価点をA(すぐれている),B(ふつう),C(おとっている)の三段階評価として取り上げることが出来た。心の問題に踏み込む糸口を作ることがその目的である。
現代の子供の自然体験の希薄は我々の調査結果にも現れているが,今回はこのような自然体験に,現実の住環境がどのように影響しているかを見た。自然に恵まれた住環境に住む子供が自然体験を多く持っていることは当然であるが自然に恵まれない環境にある子供が,自然を望んでいるとは限らない。むしろ自然とは疎遠の特徴を持つものが都会志向であるという結果を得た。ここに重大な問題点がある。更に,子供の性格,行動が,“自然体験”によりどの様に変化して行くかを探るために,子供自身の自己性格評価と担任教師の評価との関連度を,赤池のAIC値を用いて尺度化し,客観的な性格把握の可能性を検討した。
これによれば,行動力が優れていると評価された子供は,1.人からいわれなくても自分で考えて行動し,2.嫌なことはいやとはっきり言い,3.自分のやったことのないことはどんどんやってみたいと思っている子供,感受性が優れていると評価された子供は,1.テレビの悲しいシーンを見ると涙が出る,2.感動すると胸がキュンとすることがある,3.きれいな花や風景を見ると,しばらく見とれて立ち止まる子供と言うようなことが数量的に明白になった。更に,自然体験,生活習慣などの項目のうち,行動力,忍耐力,感受性のいずれかをよくあらわしているものついて,その関連度をみると,「裸足で庭や外を歩いたこと」が多いものほど,行動力が優れており,「草花を摘んで遊んだこと」が多くある子供は感受性に優れ,忍耐力もあるということが分かった。また,忍耐力の優れた子供は,行動力の優れた子供と同じように「困難にぶつかってもすぐには諦めない」ということが読み取れるが,それにもまして,「毎日学校に行くのが楽しい」,「いつも朝食を取っている」ような子供であることに特色ずけられた点も興味深い。
このように質問回答から子供の性格特性をある程度客観的に掴みうることが可能になったことは,今後の自然教育効果の尺度化に一歩前進したものと思われる。


 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

千野貞子,平野吉直共著“自然体験”による子供の心の教育効果に関する一考察−少年自然の家に於ける野外活動−,森林文化研究第9巻第1号,1988
千野貞子,少年の日常生活における自然との関わり,統計数理研究所研究リポート第66号,1988
千野貞子,少年の日常生活における自然との関わり(III)−台湾との比較−,第99回日本林学会,1988
千野貞子,“自然体験”による子供の心の教育効果に関する一考察,第100回日本林学会,1989.4,(於東京大学発表予定)


研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

前年度に引継ぎ,「少年自然の家」を取り巻く環境を通して,子供の心の変化を統計的に分析する。今回は,アンケートに答えた小中学生に対し,1.行動力2.忍耐力3.感受性の三視点からの教師の観察を加えること,又,今迄質問事項に盛り込まれていなかった小遣い,テレビゲーム,ワープロなどとの接触度,学校での“いじめ”の実態等を質問項目に取り上げ“自然体験”による子供の心理的効果との関連を更に具体的にすることを狙っている。これらのアンケート調査は前年に一部実施しているが,今年度も連続調査を関東一円の小中学校に対し実施する予定である。なお,那須甲子少年自然の家に於けるグループ面接調査を可能であれば7,8月頃行いたい。


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

吾妻 貢

国立那須甲子少年自然の家

澤田 利夫

国立教育研究所

白相 岳男

宇都宮大学

鈴木 義一郎

統計数理研究所

南条 善治

東北学院大学