平成152003)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

15−共研−2019

専門分類

4

研究課題名

個票データの開示におけるリスクの評価と官庁統計データの公開への応用

フリガナ

代表者氏名

タカシマ ケイゾウ

高嶋 恵三

ローマ字

Takashima Keizo

所属機関

岡山理科大学

所属部局

理学部

職  名

教授

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

0千円

旅 費

0千円

研究参加者数

11 人

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

現在,官庁統計は集計された表形式によってのみ公表が行われているが,調査されたデータの情報量
と有用性を考えれば,各個体の調査結果がレコードの形で並べられた個票データとしての公開が理想的
である。一方で,そのようなデータを公開した際には,含まれている個体が特定されるなどしてプライ
バシーの侵害の起こる可能性がある。本研究の目的は,主に標本調査で得られた結果を個票データとし
て公開した際のリスク評価と,リスクを低く抑えるための秘匿方法の開発にあった。
 リスク評価としては母集団寸法指標をポアソンガンマモデルやピットマンモデルなどの超母集団モ
デルを用いて推定する方法が主流であるが,本年度の研究で逆ガウシアン・ポアソンモデルなどの新た
なモデルについての性質が明らかになった。また超母集団モデルに限らず,通常用いられているモデル
ではパラメータの数が2程度までのものがほとんどであるが,3個以上のパラメータを持つモデルの適
用も新たに提案された。しかしその性質についてはまだ不明な点も多く,次年度の検討課題である。
 これまでの母集団寸法指標の推定では,母集団について全体の大きさのみが既知であるという仮定の
下で行われていたが,部分母集団の大きさが既知である場合,その情報を利用して推定された各部分母
集団の寸法指標を合算することにより母集団全体の寸法指標を推定する方法が,本年度新たに提案され
た。母集団が大きく,しかも抽出率が小さい場合には,用いられるモデルによって寸法指標の推定結果
に大きな差のあることが指摘されていたが,部分母集団の情報を用いるとその差の縮まることが実デー
タに対する分析から明らかになった。その理論的な面を補足するとともに,異なるタイプの補助情報も
利用する推定方法への拡張が次年度の課題である。
 母集団寸法指標のノンパラメトリック推定法は,本年度,改善を図りながら官庁統計など数種類のデ
ータに対して適用され,その有用性が示された。しかし現状のままでは1億程度の大きさの母集団の寸
法指標の推定は困難で,非線形計画法を用いるなどの抜本的な打開策が必要である。
 官庁統計を実際に用いて公開可能な個票データの形を示すために,昨年度から目的外使用の準備を進
めてきたが,労働力調査,家計調査,全国消費実態調査についてその利用が認められ,様々な角度から
の検討が行われた。その結果,公開可能である個票データのひな形が示された。
 上記の目的外使用において,労働力調査では1989年1月〜2001年12月の156ヶ月分,家計調査で
は1997年1月〜2001年12月の60ヶ月分を検討したが,例えば労働力調査では個票データの寸法指標
には季節変動のあることが明らかになった。このことは1つの個票データのみのリスク評価では,その
統計の個票データに対する検討としては不十分である可能性があることを意味しており,時系列的な特
徴を考慮に入れたリスク評価方法の検討が新たな課題となった。またこれらの統計ではローテーション
サンプリングが用いられているが,リスク評価の補助的な研究として,労働力調査の調査結果に対する
ローテーションサンプリングの影響についての検討も行った。その結果,調査回数別に調査票を変更す
ることに対する問題が指摘されたが,その検証には更なるフォローアップが必要である。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

「統計数理」第51巻第2号(2004年2月発刊)において,科学研究費補助金の研究グループと共同で特集
「個票開示問題の統計理論」を組んだ。掲載されている10編の原著論文等のうち,本研究分担者のものは以
下の7編である。統計数理研究所のホームページにおいてpdfファイルが入手可能である。
(原著論文)
・佐井至道,母集団寸法指標のノンパラメトリック推定,183-198。
・加納悟,労働力調査とローテーション・サンプリング,199-222。
・大森裕浩,ミクロデータにおける母集団一意性の事後確率,223-240。
(総合報告)
・竹村通彰,個票開示問題の研究の現状と課題,241-260。
・星野伸明,超母集団モデルによる個票開示リスク評価,297-320。
・瀧敦弘,集計表におけるセル秘匿問題とその研究動向,337-350。
(研究ノート)
・福重元嗣,わが国における官庁統計の個票利用と経済分析?科研プロジェクト以前の状況について?,
373-388。
更に,以下の論文も発表されている。
・佐井至道,一般化Zipf法則を用いた母集団サイズインデックスの最尤推定,岡山商大論叢,第39巻,第1
号,1-19。
・Hoshino,N.,Random clustering based on the conditional inverse gaussian-Poisson distribution,
Journal of the Japan Statistical Society,33,105-117.
・Hoshino,N.,Engen's extended negative binomial model revisited,Discussion paper,Faculty
of Economics,Kanazawa University.
・稲葉由之,誤差付加による秘匿処置に関する考察,経済統計研究,第30巻,第4号,1-12。

学会において以下の報告がある。
・佐井至道,一般化Zipfモデルを利用した母集団寸法指標の最尤推定,2003年度統計関連学会連合大会予稿
集,249-250。
・青木敏,竹村通彰,高次元分割表のサンプリングのための不変極小基底,2003年度統計関連学会連合大会
予稿集,76-77。
・星野伸明,無限分解可能分布モデルを用いた個票開示リスク評価,2003年度統計関連学会連合大会予稿集,
247-248。

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

高嶋 恵三

岡山理科大学

稲葉 由之

小樽商科大学

打浪 清一

九州工業大学

大森 裕浩

東京大学

加納 悟

一橋大学

瀧 敦弘

広島大学

竹村 彰通

東京大学

福重 元嗣

大阪大学

星野 伸明

金沢大学

和合 肇 

名古屋大学