平成302018)年度 共同利用登録実施報告書

 

課題番号

30−共研−4

分野分類

統計数理研究所内分野分類

a

主要研究分野分類

7

研究課題名

多変量時系列の状態空間モデリング

フリガナ

代表者氏名

キタガワ ゲンシロウ

北川 源四郎

ローマ字

Kitagawa Genshiro

所属機関

東京大学

所属部局

数理・情報教育研究センター

職  名

特任教授

 

 

研究目的と成果の概要

多変量の季節調整モデルのフィルタリングの方法開発の研究を行い,以下の2つの成果を得た.
(1)1変量の季節調整のためのモデルDECOMPの特徴はトレンド,季節成分に加えて定常AR成分を含むことが特徴であるが,この成分の推定がやや不安定であり,モデルの多変量化においてはこの改善が不可欠と考えられた.そこで,AR係数の推定時に制約を置いて固有根が必ず実根となるか,あるいは正の実軸付近に複素根を持たないようにすることを計画していた.この方法によっても安定性の良い結果が得られることは確認できたが,この研究の過程でむしろ状態変数に定常AR成分を入れず,観測ノイズを白色雑音でなくAR成分とする方法も考えられることに気が付いた.このモデルでフィルタリングを行うためには,通常のカルマンフィルタを拡張してノイズがAR成分の場合にも適用できるようにする必要があるが,そのための計算法を研究し,計算プログラムを開発した.
(2)季節調整の対象となるデータに構造変化や異常値が含まれる場合には,システムノイズや観測ノイズに非ガウス型のノイズを想定することが有力である.ただし,その場合には,通常のカルマンフィルタでは良い結果が得られない.そこで,ガウス和フィルタ・平滑化のアルゴリズムの改良を行った.ガウス和フィルタの実用化において鍵となるのは,ステップごとに増大する混合ガウス分布の項数を効率的に縮減する方法の開発である.近年,機械学習に関連して新たな混合ガウス分布縮減法が提案されているので改めてその方法の検討を行った.その結果,2つの正規分布をマージしたときのPearson-divergence(カイ2乗に相当)を陽に表現できることが分かった.しかもこの方法ではKL情報量を数値積分で計算したときとほとんどの場合同一の結果が得られることが分かり,高速かつ高精度の縮減法を開発することができた.
 このほか,多変量のトレンドモデルに共和分等の構造を入れる方法,多変量定常AR成分のモデルのパラメータ数を削減する方法などについては共同研究を実施した.推定された多変量ARモデルを活用して,変数間の因果関係を見る方法としては既に赤池のパワー寄与率の一般化は実現できているが,更に別の方法についても検討を行い,ある程度の見通しを得た.更に,多変量の季節調整法の実用化にあたって,必要となる状態空間モデルに関するフィルタリング及び平滑化の汎用的プログラムを試作した.