平成152003)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

15−共研−2052

専門分類

9

研究課題名

温暖化防止に向けた循環型森林資源管理を通した炭素収支モデルの構築

フリガナ

代表者氏名

ヨシモト アツシ

吉本 敦

ローマ字

Yoshimoto Atsushi

所属機関

東北大学

所属部局

大学院環境科学研究科

職  名

助教授

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

0千円

旅 費

0千円

研究参加者数

6 人

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

研究の目的:
 本研究では,経済性を念頭に、温暖化対策のための循環型森林資源管理に対する炭素収支モデルの構築を行
うことを目的とした。本研究で想定した炭素収支モデルは温暖化防止に対する森林資源管理を通した炭素固
定の収支分析を行うものであり、排出権取引(emission trading)による経済メカニズムを取り入れた場合
の炭素固定機能評価と木材としての評価を同時に考慮した森林資源管理の経済分析を可能とするものであ
る。すなわち、炭素固定に対する評価価値の木材市場への内生化を可能とするものであり、温暖化防止と言
った環境保全と管理を通した経済発展の両立を可能にするフレームワークの確立を目指したものである。
研究の経過と成果:
 まず森林分野における炭素吸収源に対する動向を把握するために,全国に先駆けて吸収量取引に取り組ん
でいる北海道下川町を対象に実態調査を行った。その結果、下川町は森林による炭素吸収機能を管理のため
の資金獲得源として位置づけており,町有林の吸収量を媒介とした企業とのパートナーシップに取りかかっ
ていることがわかった。仮に諸外国で取引されている炭素クレジット価格を用いた場合、獲得できる資金は
町有林全体で約74万円/年となり森林管理の資金としては不十分であることがわかった。従って、更なる資
金獲得には、森林の吸収量のみならず、そこから生産される木材,その利用をも含めた二酸化炭素削減効果
を評価していく必要が示唆された。また,我が国においては現段階で吸収量のモニタリング方法や吸収量に
対する価格の算定方法が確立されていないため,算定方法の確立が急務である。
 上記から分かるように、森林資源に関する炭素吸収量の評価には、森林だけではなく木材生産、木材利用
等と言った森林が持つ付加的な要素に対する炭素固定機能評価が必要である。そこで、本研究では炭素固定
機能評価のための炭素収支モデル構築の第一段階として,植林から木材生産までのプロセスを通した炭素の
収支分析を行った。まず,森林に蓄積される炭素量を把握するために,福岡県星野村村有林において、58年
生,43年生のスギ林分にサンプルプロットを設け炭素量の推定を行った。次に、伐採現場や製材工場で聞取
り調査を行い,丸太生産工程,製材工程等で消費されるエネルギー量のデータを収集した。収集データから
各工程で発生する炭素量を計算し,製材品中の最終的な炭素貯留量の収支計算を行った。その結果,サンプ
ルプロットでの炭素蓄積量を100%とすると,廃材で76%,各工程のエネルギー消費で9%の炭素ロスが発生
することが明らかになった。これらの炭素ロスを考慮すると、製材品中の炭素貯留量は,森林での炭素蓄積
量の約15%であることがわかった。
 また、同時に森林資源成長モデルの構築にも取り組み、一般化非線形混合効果モデルによるモデリング、
変化点分析を取り入れた成長モデルの修正も行った。結果はまだ途上の段階であるが、今後の炭素収支モデ
ルへの適用が期待できた。
 今回の炭素収支分析の結果は、木材を他の建設資材等の代替品として利用することによる炭素削減効果分
析、更には森林資源のLCA(ライフサイクルアセスメント)分析への応用に拡張することが期待できる。これ
らの分析が進み,地球温暖化への国産材利用の貢献度が明確に示されれば,経済性を追究した多元的な循環型
森林資源管理の実現が可能となろう。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

論文
能本美穂・堺 正紘・吉本 敦、2004,二酸化炭素吸収源としての森林に対する取り組み?北海道下川町を
事例として?、九州森林研究57号:30-33
柳原宏和・吉本 敦・能本美穂、2004、林分成長分析のための一般化非線形混合効果モデル、「森林資源管理
と数理モデル」Vol.3.(鹿又・吉本編集)、森林計画学会出版局、東京
二宮義行・吉本 敦、2004、林木直径成長データを用いた成長傾向に対する変化点探索法の構築、「森林資源
管理と数理モデル」Vol.3.(鹿又・吉本編集)、森林計画学会出版局、東京
学会発表
Nomoto,M.,Yoshimoto,A.,& Yanagihara,H.,2003,A carbon balance analysis on timber production-From a forest to
a mill,Research Meetings and Excursions on Multipurpose Inventory for the Aged Artificial Forest,Yamagata,
Japan September
Yanagihara,H.& Yoshimoto,A.,2003,Assessment of carbon sequestration in sugi plantation,Research Meetings and
Excursions on Multipurpose Inventory for the Aged Artificial Forest,Yamagata,Japan September
能本美穂・堺 正紘・吉本 敦、2003、二酸化炭素吸収源としての森林に対する取り組み?北海道下川町を事
例として?、日本林学会九州支部大会
能本美穂・堺 正紘・吉本 敦、2003、森林のCO2吸収源としての位置づけに関する研究動向、林業経済学
会秋季大会
吉本 敦・柳原宏和・能本美穂、2004、最適林分経営モデルによる間伐戦略最適化と炭素吸収機能評価、
FORMATH NAGOYA2004シンポジウム、名古屋
柳原宏和・吉本 敦、2004、成長パターンのクラスタリングによる林木成長予測、FORMATH NAGOYA2004
シンポジウム、名古屋

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

上野 玄太

統計数理研究所

二宮 嘉行

九州大学

能本 美穂

九州大学

柳原 宏和

筑波大学 

行武 潔

宮崎大学