研究目的
金融・証券市場は、単に流動性を提供する場としてだけではなく、価格の発見機能を通じて、効率的な資源配分に寄与して経済の厚生を向上させ、また、金融センターの中心となる社会的インフラでもあり、国全体の競争力向上にとっても重要な存在である。これらの市場を構成する取引所に対する近年の投資家のニーズは、高度化・複雑化が著しく、取引システムの安定性、高速性、取引時間の延長から、決済制度、法的な規制の改善まで多岐に亘っている。
このような背景で各取引所では、取引システムの機能改善、取引時間の延長などの対策を実施している。当然のことながら、投資家の関心は現物株式のみならず、ETF(Exchange Traded Funds)や株価指数のデリバティブ、債券を対象としたデリバティブも含まれていいる。
特に、近年では日本銀行が金融政策の手段として、国債やETF、JREIT(日本版不動産投資信託)を購入することもあり、市場の流動性が懸念される場合もあり、これらのマーケット・マイクロストラクチャーに関する研究は喫緊かつ重要な課題となっている。
さらにETF市場を分析する意義としては、東証株価指数(TOPIX)や日経平均株価という日本の代表的なマーケットポートフォリオを共通に参照している投資信託が複数あり、そのなかでも、価格水準の違いから呼び値が異なる銘柄も存在するという非常に興味深い銘柄が同時に取引されているので、呼び値の違いが流動性に与える分析をするのに適していることがある。
したがって本研究ではこれらの価格変動過程に対して、実現バイパワー・バリエーションや切断実現ボラティリティなどを計測することにより、ジャンプやマーケット・マイクロストラクチャー・ノイズなどの発生状況を分析し、マーケット・マイクロストラクチャーと価格変動との関係を実証分析することを目的とする。
成果(経過)
2017年度は主としてETFに関するデータベースの構築および基礎的な分析を行った。特に2010年からの日経平均連動および東証株価指数連動型のETFに関する売買スプレッドのデータベースの構築および基礎的な分析を行った。
また、金先物に関しては、日本と中国の取引制度の相違についてまとめた。
さらに東京商品取引所に上場されている原油などの先物価格は、輸入価格などに対して、先行性があるかどうかをMIxed DAta Sampling(MIDAS)回帰モデルにより、検証した。MIDAS回帰モデルは、例えば被説明変数に月次の系列、説明変数に月の上中下旬毎の系列など期種の異なるデータを用いた回帰分析を可能にする手法である。分析の結果、原油先物価格の先行性が示され、先物の、ヘッジ手段としての有用性、企業の財務情報や物価動向の予測に対する貢献を示唆するものとなった。今後は北海ブレントを用いた場合や、外挿による検証を行う必要がある。
このMIDASにより高頻度データを利用したボラティリティの予測等も手法としては可能であることが確認できた。
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