平成302018)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

30−共研−2066

分野分類

統計数理研究所内分野分類

h

主要研究分野分類

1

研究課題名

一般化エントロピーの数理・物理と統計学

フリガナ

代表者氏名

ヘンミ マサユキ

逸見 昌之

ローマ字

Henmi Masayuki

所属機関

統計数理研究所

所属部局

データ科学研究系

職  名

准教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

51千円

研究参加者数

3 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

研究目的

近年の複雑系科学の発展からベキ型分布に従う現象が数多く発見され、これを最大化エントロピー原理で説明するために、統計物理学を中心とする分野で導入されたTsallisエントロピーという概念が注目を集めている。Tsallisエントロピーは通常のShannonエントロピーの1パラメータ拡張(q-拡張)と見なせるものだが、これに関してこれまで、本研究の分担者らによって、主に情報幾何学などの数理的な視点から新たな知見が得られている。例えば、この分野ではエスコート確率と呼ばれる新しい概念が重要な役割を果たすが、これがもとの確率分布の射影変換によって得られることが示され、さらにそれに基づいて、この世界で幾何学的に自然な基準(双対平坦性)から決まる統計多様体の構造が、これまでに考えられていた統計学的に自然な基準(確率測度変換に関する幾何構造の不変性)から決まる統計多様体の構造と異なることが示された。また、指数・対数関数の一般化と関連して、q-積と呼ばれる演算も重要な役割を果たすが、この演算によって自然に導入される「q-独立性」(確率変数の独立性のある種の一般化)の下でのq-最尤推定量の幾何学に自然な性質が、一般化された指数型分布族(q-指数型分布族)の枠組みで、情報幾何の方法によって示された。Tsallisエントロピーは、もともとは通常の統計力学(Boltzmann-Gibbs統計力学)では説明できないマルチフラクタル系の現象を説明するために直観的に導入されたものだが、q-積などの導入によって、数理的にも自然な一般化エントロピーの1つと認識されている。一方、統計学との関連については、統計物理学の枠を超えて、様々な自然・社会現象に関連するデータの説明にTsallisエントロピー(に関連する確率分布)が用いられているが、事例ごとのデータの当てはめに終始しているものが多く、また、q-最尤推定量の性質を統計学の文脈で理論的に論じる試みはいくつか存在するものの、その統計的意味の解明には至っていない。ロバスト推定や極値統計学との関連も指摘されており,医用画像処理に応用した部分的な成果等も得られているが、まだ系統的な理解は得られていないのが現状である。さらに直近の研究によれば、エスコート確率はある種の系列として得られることが分かったが、このエスコート系列は中心極限定理や大偏差原理などと深く関係していると思われる。

そこで本研究では、幾何学などの数理的および物理学的な議論との関連を踏まえながら、この分野に現れるさまざまな概念の統計的意味や役割を系統的に解明することを主な目的とする。また、Tsallisエントロピーは(通常の)エントロピーの一般化の1つの可能性に過ぎず、他にもKaniadaiksらによるカッパエントロピーや様々な一般化エントロピーが提案されている。本研究ではそれらにも注目し、その意味や役割、お互いの関係などについても考察する。そして本研究を通じて、数学(主に幾何学)、物理学(主に統計物理学)、統計学の観点からの問題意識を照らし合わせながら、互いに刺激を与え合うことで、有益な異分野交流となることも目指す。

研究成果(経過)

本年度は、一般化された最尤推定法の統計的性質を調べるための基礎となる、一般化された大数の法則や中心極限定理について考察を行った。まだ、それらに関する最終的な結果は得られていないが、主にこれまでに得られている結果(幾何学的側面についての結果)に関して、学会発表を行った。また、本研究課題に関連する問題として、非可積分な推定関数とそれに付随する情報幾何的な構造に対する考察も行い、それらの結果をまとめた論文を発表した。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

論文発表

Henmi, M. and Matsuzoe, H. (2018).
Statistical Manifolds Admitting Torsion and Partially Flat Spaces.
Geometric Structures of Information, 37-50, Springer.

学会発表

IMS Annual Meeting on Probability and Statistics
2018年7月3日 Vilnius University Life Sciences Center, Vilnius, Lithuania
「Generalized maximum likelihood estimation and deformed exponential families」
(ポスター発表)

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

グループ内での研究打ち合わせのみを行い、研究会は開催していない。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

松添 博

名古屋工業大学大学院

和田 達明

茨城大学