平成242012)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

24−共研−2027

分野分類

統計数理研究所内分野分類

d

主要研究分野分類

6

研究課題名

日本人英語学習者の概念構造の解明に向けた統計的研究

フリガナ

代表者氏名

チョウ カナコ

長 加奈子

ローマ字

Cho Kanako

所属機関

北九州市立大学

所属部局

基盤教育センターひびきの分室

職  名

准教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

93千円

研究参加者数

3 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

本研究課題は,平成23年度の研究課題からの継続課題で,
 
平成23年度より開始した研究課題において,日本人英語学習者,中国人英語学習者,英語母語話者の3つのグループの前置詞表現に見られる概念構造について統計手法を用いて比較したところ,同じ英語学習者でも,母語が異なると概念構造が異なること,さらにその違いが学習者の母語の影響であることを示した。平成23年度の研究課題では,さらに英語の構文の意味構造に研究対象を広げ,英語の受動文について日本人英語学習者と英語母語話者の意味構造の違いを検証し,日本人英語学習者と英語母語話者が持つ英語受動文の意味構造が,どのような点において異なっているのかについて示した。平成24年度は,さらに英語の受動文(担当者:川瀬義清)および二重目的語構文(担当者:長 加奈子)において調査を行った。
 英語の受動文においては,特に日本人英語学習者の英語受動文の産出という観点から分析を行った結果,日本人英語学習者と英語母語話者の英語受動文の比較から,次の3 点が明らかになった。まず第1点目に,日本人英語学習者の受動文使用頻度は,英語母語話者に比べると低かった。さらに,日本人英語学習者の受動文は,英語母語話者に比べ,人間を主語にする頻度が高かった。また,日本人英語学習者の受動文にby フレーズが現れる場合,英語母語話者に比べ,人間が行為者になっている頻度が高いという結果になった。
 また,日本人英語学習者の産出する英語受動文には,次のような特徴が見られた。まず,本来であれば,受動文になった場合,主語位置に移動するはずの目的語が,動詞の後に残った受動文があった。また,文法的に受動文を取らない自動詞を用いた受動文が観察された。さらに,形式主語it が受動文の主語になった受動文が多く見られた。これらの特徴は,いずれも母語である日本語の特徴が現れており,目的語の残留および自動詞の受動文化は日本語の間接受け身の影響を受けていることが考えられる。また形式主語をitが多く出てくる点は,日本語が言語類型的に「コト」中心の表現を好む影響を受けている可能性が高いことを示した。
 次に二重目的語構文においては,書き換え問題等で意味的に等価であるとされる,与格構文との対比を行い,英語母語話者と日本人英語学習者の二重目的語構文の使用頻度および動詞の直後に出現する名詞の性質について調査を行った。その結果,二重目的語構文として使用できる基本動詞のうち,動詞show のみ英語母語話者の使用頻度が高いこと,また,英語母語話者,日本人英語学習者間で同じ程度に出現している動詞give については,英語母語話者において二重目的語構文としての使用頻度が高いことが明らかになった。さらに動詞の直後に現れる目的語の特徴について,二重目的語構文の間接目的語と与格構文を含む第三文型の目的語について調査した結果,二重目的語構文においては間接目的語として代名詞の現れる頻度が高く,第三文型の目的語は不定名詞が現れる頻度が高いこと,さらに,二重目的語構文および第三文型における名詞タイプの現れやすさについては,英語母語話者,日本人英語学習者間に有意な差はなかった。以上のことから,一定頻度以上出現した動詞give において,英語母語話者が二重目的語構文を使用する事態把握を好んで行っている一方,日本人英語学習者は与格構文を含む第三文型を使用する事態把握を好んで行っていることが分かった。
 本研究課題の結果から,外国語教育の現場に,学習者の母語である日本語の事態把握と対象言語である英語の事態把握の違いを明らかにし,指導していく必要性が明らかとなった。外国語の習得において,辞書に列挙されている語彙や文法書に記載されているような文法知識の習得と同様に,対象言語で好まれ
る事態把握の習得も重要である。しかしむしろ,語彙や文法にも事態把握が大きく関わっていることを考えると,外国語を習得すると言うことは,その外国語の事態把握を習得することであると言えるだろう。英語を対象言語とする第二言語習得において,語彙や構文のレベルにおける偏りや母語話者との違いに関する事実は,コーパス言語学の分野においていろいろと指摘されている。しかしその背後にある事態把握という観点からの分析は,まだ始まったばかりである。今後さらなる解明が進み,指導法だけでなく学習教材への応用が望まれるところである。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

<論文>
1. 長 加奈子「中学校英文法における文法項目の位置づけ:二重目的語構文と受動文に焦点を当てて」,『統計数理研究所共同研究レポート289 日本人英語学習者の概念構造の解明に向けた研究:学習者コーパスから見えてくるもの』,pp. 1-13,統計数理研究所,2013年3月.
2.
長 加奈子「日本人英語学習者と英語母語話者の英語二重目的語構文の使用について」,『統計数理研究所共同研究レポート289 日本人英語学習者の概念構造の解明に向けた研究:学習者コーパスから見えてくるもの』,pp. 27-44,統計数理研究所,2013年3月.
3. 川瀬義清「日本人英語学習者の受動文の使用に見られる母語の影響」,『統計数理研究所共同研究レポート289日本英語学習者の概念構造の解明に向けた研究:学習者コーパスから見えてくるもの』,pp. 15-26.

<シンポジウム>
1. 長 加奈子・川瀬義清「応用認知言語学?教育現場への応用に向けた展望とその課題」,大学英語教育学会第51回国際大会,愛知県立大学,2012年9月.

<研究発表>
1. 長 加奈子「日本人英語学習者の二重目的語構文の使用について」,言語研究と統計2013,統計数理研究所,2013年3月.
2. 川瀬義清「学習者コーパスに基づく日本人英語学習者と英語母語話者の受動文の比較」,言語研究と統計2013,統計数理研究所, 2013年3月.

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

テーマ:統計数理研究所言語系共同研究グルー合同発表会「言語研究と
2013統計」
日時:2013年3月27日(水)〜28日(木)
場所:統計数理研究所
参加者数:
60約名

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

川瀬 義清

西南学院大学

前田 忠彦

統計数理研究所