昭和631988)年度 共同研究実施報告書

 

課題番号

63−共研−19

専門分類

3

研究課題名

臨床検査データ解析における多変量自己回帰モデルの応用

フリガナ

代表者氏名

ワダ タカオ

和田 孝雄

ローマ字

所属機関

稲城市立病院

所属部局

職  名

病院長

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

0千円

旅 費

0千円

研究参加者数

11 人

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

昭和61年,62年の共同研究により,医学,生物学の領域において,多変量自己回帰モデルがきわめて有力なデータ解析法となることが実証された。いまやこの方法は一般の医学者によって標準的な統計学的手法として題いられる可能性が強くなっている。そこでこの方法を用いた汎用プログラムを完成させる一方,よりたしかなアプリケーションの実例を積重ねるために,各領域の専門家からなる共同研究を再び計画した。


臨床検査から得られる時系列データにおいては,生体内におけるフィードバックやネットワークの影響が加わり,入力と出力の関係がくずれるために,変数間の正しい関係を見出すのは難しい。そこでわれわれはこの数年にわたり,赤池らの考案した自己回帰モデルを用いたフィードバック解析法を,臨床検査データの解析に応用すべく研究を行なってきた。今回は多数の個体におけるダイナミクスの共通点や相違点についての検討を中心として行なった。透析患者35名の7〜10年にわたる長期間にわたる血液データについて,血清総蛋白濃度(TP)とヘモグロビン濃度(Hb)の変動から自己回帰係数を算出し,これからパワー寄与率とインパルス応答を求めた。これらの2手段により,35名の患者のほとんど全てに共通的に,上記2変数間における因果関係を推定し得ることが証明された。すなわち,35名のうち1例を除いた全例において,TPの上昇によりHbが低下するが,Hbの上昇によってはTPの変化はほとんど見られなかった。アルブミンについても同様な関係があり,ガンマグロブリンではHbの変化を生じ得なかった。これらの結果から,透析患者の貧血と蛋白代謝の間に存在するフィードバックの役割を明らかにし得た。この結果をふまえて,Tリンパ球のサブセットや血清イムノグロブリンの変動を解析し,この方法が免疫ネットワークの解析に有力な手法となることがほぼ証明された。あと残された問題として,医学データに特有な非定常性の問題,一般臨床家への普及という2点を,研究会を組織して検討し,最終的解決の方向に向いたい。


 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

(1)陣内眞ほか:透析患者の貧血に対する蛋白代謝の影響:多変量自己回帰モデルによる検討,透析療法学会誌,印刷中,1989
(2)和田孝雄ほか:フィードバック解析からみたT細胞サブセット変動の意義,日本免疫学会総会・学術集会記録第18巻,P615,1988
(3)和田孝雄ほか:多変量自己回帰モデルを用いたTリンパ球サブセット変動の解析,第28回日本ME学会大会論文集,印刷中,1989
(4)T.Wada,et al.:Application of autoregressive modeling for the analysis of clinical and other biological data.
Ann.Inst.Statist.Math.40:211−227,1988.
(5)T.Wada,et al.:Feedback analysis of the behavior of the renin−angiotensin system under inhibition of angiotensin−converting enzyme.
Biotech.Appl.Biochem.10:435−446,1988.


研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

これまでの成果により,生体内ネットワーク解析において,パワー寄与率とならんで,開放ループ系,閉鎖ループ系に関する2種類のインパルス応答が有力であることが実証された。そこで(1)パワー寄与率およびインパルス応答中心としたパーソナルコンピュータ用の汎用プログラムを完成させ,初学者でもコンピュータとの対話によって容易に使いこなせるように工夫する。(2)これと平行してこの解析法を内分泌,免疫,代謝,分子生物学などの各領域に実際の応用例を積重ねていく。(3)パワー寄与率と因果律との関係をより追求し,ことに原子力発電関係でよく用いられているパーシャルパワー寄与率の有用性を検討する。63年度は以上3点にしぼって研究を進める。


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

青柳 高明

微生物化学研究所

赤池 弘次

統計数理研究所

荒畑 恵美子

統計数理研究所

池内 達郎

スペシャルレファレンスラボラトリー

鈴木 洋通

慶應義塾大学

津崎 晃一

慶應義塾大学

辻 和男

東京慈恵会医科大学

出口 修宏

慶應義塾大学

平尾 明洋

東京螺子製作所

松尾 宣武

慶應義塾大学